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第二章 始まる部活と新入部員歓迎会
第41話 リベンジ花火にむけて
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涼しげな風を感じる夕方。
夕焼けチャイムがどこからか聞こえてくる中、俺たちは駅近くの公園に移動していた。
「いや早いね。もうパンザマストが聞こえるよ」
「パンザマストですか?」
「……未来の地元じゃ、この音のことをそういうらしいよ」
「自分初めて聞いたっす」
「私のおばあちゃんも夕焼け小焼けのこと、パンザマストって言ってましたよ!」
「おばっ! ……若者の言葉が痛い」
「はは、一本取られたってか! 轟ちゃん!」
「方言なのかしら」
「さぁー、でも外国の言葉っぽいよね」
「日本語らしくない」
「パンtheマストって感じで絶対にパンが必要ってこと?」
「馬鹿っぽいねー。そもそも英語なのー?」
改めて十三人もいると、騒がしいことを実感する。
遊具が数個と簡易な砂場があるぐらいの小さな公園には、他に誰もいなかった。
忘れっぽい俺でも覚えている。
去年の歓迎会の最後もここだった。
不思議と、去年の出来事が重なって見えた。
「なんだか、懐かしいな」
同じことを思ったのか、俺の横にいる樫田がそう言った。
「そうだな、一年前みたいだ」
「お、この公園のことは覚えていたみたいだな」
「うっせ、もちろんだ」
せっかく共感したのに、痛いところを突かれた。
だがこの感覚は、今日がもう終わることを告げているのかもしれない。
焼き肉屋で喋って、道中で喋って、プレゼントを渡してフードコートで喋って…………ほとんど喋ってばっかだな。
まぁ、演劇部だもんな(謎理論)。
「それで轟先輩! 公園で何やるんですかぁー?」
「フフフ、知りたいか田島後輩」
「はい!」
轟先輩と田島って相性よさそうだな。
煩さ二倍って感じだ。
「いいだろう。では発表しよう…………コウ! コウ!」
「……あ、ドゥルルルルルルルル……」
木崎先輩が口でドラムロールを鳴らす。
この展開、どっかで見たぞ。
「デデン! 線香花火大会の開催を宣言する!」
あ、やっぱデデンって自分で言うんだ。
懐かしいな。あれがもう一年前とは。
てか轟先輩、ドヤ顔ですけど一年生たち頭に「?」浮かべていますよ。
線香花火? ってなっていますよ。
「詳しい話は、樫田ん! よろ」
「無茶ぶりがすぎる…………えー、あれは遡ること一年前。俺たちが一年生の時に歓迎会の最後ここで線香花火をしたんだ」
「花火じゃなくて、線香花火限定ですか?」
田島がいいところに目を付ける。
そう、この話の肝はそこなのだ。
「いい質問だ。実はな、当時の二年生の一人がこれで歓迎会を終わりたくないと駄々をこね始めたことが――」
「あー!!! 樫田ん! 端折っていいから!」
突然、話しを遮る轟先輩。
一年生がびっくりしてますよ。
俺たち二年生はにやにやと笑ってますけど。
「…………じゃあ省略して、急遽ここで花火をやることになったんだが、意外とゴールデンウィークに花火をやるやつが多いのか、もう売り場には線香花火しか売ってなかったんだよ」
「それで線香花火だけの大会をしたんですね」
「それはそれで風流みたいっすね」
「分かる! 特別な思い出ってやつですね!」
なんか、良い感じの話のように一年生たちが取られているな。
胸張っていますけど轟先輩、木崎先輩と津田先輩が苦笑しているぞ。
俺たちも、まぁ特別と言えば特別か、みたいな反応になる。
「忘れられないと言えば忘れられない」
「ええ、特別な思い出かしら」
「線香花火見るたびに思い出すのは間違いないね」
「あれは印象的だったねー」
「俺は一生分の線香花火をした気がするわ……」
「「「「「「違いない」」」」」」
大槻の言葉に、俺たち二年生が激しく同意した。
「あーあー、聞こえません聞こえません」
両手で耳をふさぐ轟先輩。
よく見ると耳が真っ赤だ。
「そんなこんなで、線香花火をやるんですよね先輩?」
「イグザクトリー!」
「で、線香花火はどこにあるんですか?」
「ん? ないよ」
……は?
三年生以外は、一瞬思考が追い付かなかった。
木崎先輩と津田先輩は、ですよねそうなりますよね、という顔をしていた。
「……去年のリベンジマッチらしいからね」
「まぁ、付き合ってくれや」
優しく言ってますけど、知ってて黙ってましたね。
そしてなぜかここでもドヤ顔の轟先輩。
「フフフ、甘いな諸君。去年と同じってことだよ」
そう言い、拳を突き出した。
他の先輩も拳を前へ。
なっ! まさか!
俺と同じ結論に至ったのだろう。
一年生以外は先輩に倣うようにする。
「やるってことですね」
「さっさと終わらせましょう」
「勝つ」
「てか、さっきみんなで買えばよかったんじゃ……?」
「過ぎ去るは及ばざるがごとしってやつだねー」
「……それ意味合っているのか?」
なんか大槻が正論を言ったような……だが、すでにこの流れは止められない。
一年生たちも状況を察したのか、それぞれ構える。
なんとノリの良いことだろう。
「私、こう見えて強いですからね!」
「負けないっすよ!」
「よ、よろしくお願いします!」
神妙な雰囲気に包まれる。
そして全員の拳が出たことを確信すると轟先輩が言った。
「では参る」
それが合図となった。
『最初はグー!』
みんなが拳を前へ突き出し、その後一度腕を引く。
それぞれが三択の中から選ぶ。
勝利をかけて。
『じゃんけん、ポン!』
夕焼けチャイムがどこからか聞こえてくる中、俺たちは駅近くの公園に移動していた。
「いや早いね。もうパンザマストが聞こえるよ」
「パンザマストですか?」
「……未来の地元じゃ、この音のことをそういうらしいよ」
「自分初めて聞いたっす」
「私のおばあちゃんも夕焼け小焼けのこと、パンザマストって言ってましたよ!」
「おばっ! ……若者の言葉が痛い」
「はは、一本取られたってか! 轟ちゃん!」
「方言なのかしら」
「さぁー、でも外国の言葉っぽいよね」
「日本語らしくない」
「パンtheマストって感じで絶対にパンが必要ってこと?」
「馬鹿っぽいねー。そもそも英語なのー?」
改めて十三人もいると、騒がしいことを実感する。
遊具が数個と簡易な砂場があるぐらいの小さな公園には、他に誰もいなかった。
忘れっぽい俺でも覚えている。
去年の歓迎会の最後もここだった。
不思議と、去年の出来事が重なって見えた。
「なんだか、懐かしいな」
同じことを思ったのか、俺の横にいる樫田がそう言った。
「そうだな、一年前みたいだ」
「お、この公園のことは覚えていたみたいだな」
「うっせ、もちろんだ」
せっかく共感したのに、痛いところを突かれた。
だがこの感覚は、今日がもう終わることを告げているのかもしれない。
焼き肉屋で喋って、道中で喋って、プレゼントを渡してフードコートで喋って…………ほとんど喋ってばっかだな。
まぁ、演劇部だもんな(謎理論)。
「それで轟先輩! 公園で何やるんですかぁー?」
「フフフ、知りたいか田島後輩」
「はい!」
轟先輩と田島って相性よさそうだな。
煩さ二倍って感じだ。
「いいだろう。では発表しよう…………コウ! コウ!」
「……あ、ドゥルルルルルルルル……」
木崎先輩が口でドラムロールを鳴らす。
この展開、どっかで見たぞ。
「デデン! 線香花火大会の開催を宣言する!」
あ、やっぱデデンって自分で言うんだ。
懐かしいな。あれがもう一年前とは。
てか轟先輩、ドヤ顔ですけど一年生たち頭に「?」浮かべていますよ。
線香花火? ってなっていますよ。
「詳しい話は、樫田ん! よろ」
「無茶ぶりがすぎる…………えー、あれは遡ること一年前。俺たちが一年生の時に歓迎会の最後ここで線香花火をしたんだ」
「花火じゃなくて、線香花火限定ですか?」
田島がいいところに目を付ける。
そう、この話の肝はそこなのだ。
「いい質問だ。実はな、当時の二年生の一人がこれで歓迎会を終わりたくないと駄々をこね始めたことが――」
「あー!!! 樫田ん! 端折っていいから!」
突然、話しを遮る轟先輩。
一年生がびっくりしてますよ。
俺たち二年生はにやにやと笑ってますけど。
「…………じゃあ省略して、急遽ここで花火をやることになったんだが、意外とゴールデンウィークに花火をやるやつが多いのか、もう売り場には線香花火しか売ってなかったんだよ」
「それで線香花火だけの大会をしたんですね」
「それはそれで風流みたいっすね」
「分かる! 特別な思い出ってやつですね!」
なんか、良い感じの話のように一年生たちが取られているな。
胸張っていますけど轟先輩、木崎先輩と津田先輩が苦笑しているぞ。
俺たちも、まぁ特別と言えば特別か、みたいな反応になる。
「忘れられないと言えば忘れられない」
「ええ、特別な思い出かしら」
「線香花火見るたびに思い出すのは間違いないね」
「あれは印象的だったねー」
「俺は一生分の線香花火をした気がするわ……」
「「「「「「違いない」」」」」」
大槻の言葉に、俺たち二年生が激しく同意した。
「あーあー、聞こえません聞こえません」
両手で耳をふさぐ轟先輩。
よく見ると耳が真っ赤だ。
「そんなこんなで、線香花火をやるんですよね先輩?」
「イグザクトリー!」
「で、線香花火はどこにあるんですか?」
「ん? ないよ」
……は?
三年生以外は、一瞬思考が追い付かなかった。
木崎先輩と津田先輩は、ですよねそうなりますよね、という顔をしていた。
「……去年のリベンジマッチらしいからね」
「まぁ、付き合ってくれや」
優しく言ってますけど、知ってて黙ってましたね。
そしてなぜかここでもドヤ顔の轟先輩。
「フフフ、甘いな諸君。去年と同じってことだよ」
そう言い、拳を突き出した。
他の先輩も拳を前へ。
なっ! まさか!
俺と同じ結論に至ったのだろう。
一年生以外は先輩に倣うようにする。
「やるってことですね」
「さっさと終わらせましょう」
「勝つ」
「てか、さっきみんなで買えばよかったんじゃ……?」
「過ぎ去るは及ばざるがごとしってやつだねー」
「……それ意味合っているのか?」
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一年生たちも状況を察したのか、それぞれ構える。
なんとノリの良いことだろう。
「私、こう見えて強いですからね!」
「負けないっすよ!」
「よ、よろしくお願いします!」
神妙な雰囲気に包まれる。
そして全員の拳が出たことを確信すると轟先輩が言った。
「では参る」
それが合図となった。
『最初はグー!』
みんなが拳を前へ突き出し、その後一度腕を引く。
それぞれが三択の中から選ぶ。
勝利をかけて。
『じゃんけん、ポン!』
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