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第2章 暁の竜神
第9話 ナディアの取る道 2
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それはさておき、肩を落としているレヴィに悪いと思ったナディアは、目尻に浮かんだ涙を拭って居住まいを正す。そして代表としての顔つきになると、正解を発表した。
「答えは、いつまで待てばいいのか教える、です。それらしい理由も付ければなお良いですね。子どもでさえただ駄目と言われるのではなく具体的に延期すれば、案外、納得してくれるものではありませんか?」
そうだろうかと、レヴィは小首を傾げた。自分の小さい頃を思い出せば、どうしても欲しいとなったら、その時に手に入るまで絶対に納得しなかった気がしていた。もしかしたらこの話はナディア自身の経験談なのかもしれない。まぁ、それはさておいて、だ。これはまさに、さっきナディアが唯一下した命令そのものではないか。3日後に開戦する。その意図は、決して準備だけではなかった。
「まさか、3日後って言ったのは!」
「そうです。開戦まで3日空けました。逆に言えば、その3日間は戦闘が起こりません。今の私にできる精一杯の引き止めですね」
そう、あの戦いを求める空気は何があっても変わらない。ならば明確なゴールを示せばいい。老若男女問わず、具体的な日時を知ればそれまで我慢して待てるものだと、そう確信した上での宣言だったのだ。中には子どものように待てないとごねる者もいたかもしれない。でも開戦までにしっかりと準備を、と言われては無理にでも納得するしかない。仮にも大人で組織の一員だからこそ絶対に有効な遅延策だった。
「と、咄嗟にそんな気転が利くなんて……流石はナディアだなぁ」
あの時、レヴィはただただ面白くなかった。泣きべそをかきながら、頭の中でローレンをボコボコにして、何とかフォーマルに振る舞えていた。
しかしナディアは違う。彼女もまた内心苛立っていたものの、次へと繋がる一手をきちんと打っていた。ただやられて悔しがっていただけのレヴィとは全然違う。
「さて、こうして稼いだ3日間です。有効に活用させて頂きましょう。レヴィ、今だけは色々と目を瞑ってくださいね?」
「……こういう時じゃなくても、随分と大目に見ているつもりだけど?」
そう、ナディアは代表ではあるが、王のように厳重に守られる立場だ。間違っても街へ降りるなど許されない。基本的に様々な政務で缶詰め状態。たまに式典や宴会に参加させられる日々を送っている。先日の竜神祭だってそうだ。あの神輿の上に座り、延々と街を練り歩かせられる。そのはずだった。本当のところはこっそりと身代わりを立てて街を散策していたのだが、それは2人と極一部の者以外には絶対に秘密だ。
「はて、何のことかわかりませんが?」
もっとも、その外出は自身の娯楽や息抜きのためというよりも、竜人たちや街の様子を見るためである。レヴィですらそう思うしかない程に、ナディアは本当に散策するだけなのだ。道路の補修状況、古くなっている設備はあるか、自然の様子などの確認は勿論、何より竜人たちの声によく聞き耳を立てている。そんな事をせずとも多数の報告が上がってきている。しかしその多くは聞こえが良いように改悪されたものばかりだ。真に彼らが望むことは何か。どうすれば紅竜同盟はもっと早く復興でき、そしてより良い発展を遂げられるか。ナディアはそればかりを考えて抜け出すのである。
ただ、その外出自体は悪いことだと耳にタコができる程に言われ続けているため、ナディアはこうして惚けて見せているのである。
「ふふ、それはそうと親衛隊の隊長様の御墨付きです。少々、冒険といきましょうか」
「ちょ、ちょっと待ってよ。冒険って……何をするつもりなの?」
普段から何かと危なっかしいところがあるナディアだ。外出にしたって、大雨で氾濫しそうな川や噴火寸前の火口へ行ってしまうこともある。そんな危ない場所にすら「ちょっと抜け出しました」と澄まし顔で言ってしまうナディアが、冒険と表現した。しかも、今回はそんな些細な状況とは訳が違う。何とか獲得した3日の使い道でもあるのだ。何を言い出すのかと、レヴィは生唾を飲んで待つ。
「決まっているではありませんか。遠出の準備をお願いします」
「と、遠出って……だから、どこに?」
その時だった。ジャリ、と砂を踏み締めるような音がする。レヴィが振り返ると、そこには見知った顔が2つあった。紅蓮牙竜隊隊長のメグと紅蓮魔導隊隊長のナーガである。
「答えは、いつまで待てばいいのか教える、です。それらしい理由も付ければなお良いですね。子どもでさえただ駄目と言われるのではなく具体的に延期すれば、案外、納得してくれるものではありませんか?」
そうだろうかと、レヴィは小首を傾げた。自分の小さい頃を思い出せば、どうしても欲しいとなったら、その時に手に入るまで絶対に納得しなかった気がしていた。もしかしたらこの話はナディア自身の経験談なのかもしれない。まぁ、それはさておいて、だ。これはまさに、さっきナディアが唯一下した命令そのものではないか。3日後に開戦する。その意図は、決して準備だけではなかった。
「まさか、3日後って言ったのは!」
「そうです。開戦まで3日空けました。逆に言えば、その3日間は戦闘が起こりません。今の私にできる精一杯の引き止めですね」
そう、あの戦いを求める空気は何があっても変わらない。ならば明確なゴールを示せばいい。老若男女問わず、具体的な日時を知ればそれまで我慢して待てるものだと、そう確信した上での宣言だったのだ。中には子どものように待てないとごねる者もいたかもしれない。でも開戦までにしっかりと準備を、と言われては無理にでも納得するしかない。仮にも大人で組織の一員だからこそ絶対に有効な遅延策だった。
「と、咄嗟にそんな気転が利くなんて……流石はナディアだなぁ」
あの時、レヴィはただただ面白くなかった。泣きべそをかきながら、頭の中でローレンをボコボコにして、何とかフォーマルに振る舞えていた。
しかしナディアは違う。彼女もまた内心苛立っていたものの、次へと繋がる一手をきちんと打っていた。ただやられて悔しがっていただけのレヴィとは全然違う。
「さて、こうして稼いだ3日間です。有効に活用させて頂きましょう。レヴィ、今だけは色々と目を瞑ってくださいね?」
「……こういう時じゃなくても、随分と大目に見ているつもりだけど?」
そう、ナディアは代表ではあるが、王のように厳重に守られる立場だ。間違っても街へ降りるなど許されない。基本的に様々な政務で缶詰め状態。たまに式典や宴会に参加させられる日々を送っている。先日の竜神祭だってそうだ。あの神輿の上に座り、延々と街を練り歩かせられる。そのはずだった。本当のところはこっそりと身代わりを立てて街を散策していたのだが、それは2人と極一部の者以外には絶対に秘密だ。
「はて、何のことかわかりませんが?」
もっとも、その外出は自身の娯楽や息抜きのためというよりも、竜人たちや街の様子を見るためである。レヴィですらそう思うしかない程に、ナディアは本当に散策するだけなのだ。道路の補修状況、古くなっている設備はあるか、自然の様子などの確認は勿論、何より竜人たちの声によく聞き耳を立てている。そんな事をせずとも多数の報告が上がってきている。しかしその多くは聞こえが良いように改悪されたものばかりだ。真に彼らが望むことは何か。どうすれば紅竜同盟はもっと早く復興でき、そしてより良い発展を遂げられるか。ナディアはそればかりを考えて抜け出すのである。
ただ、その外出自体は悪いことだと耳にタコができる程に言われ続けているため、ナディアはこうして惚けて見せているのである。
「ふふ、それはそうと親衛隊の隊長様の御墨付きです。少々、冒険といきましょうか」
「ちょ、ちょっと待ってよ。冒険って……何をするつもりなの?」
普段から何かと危なっかしいところがあるナディアだ。外出にしたって、大雨で氾濫しそうな川や噴火寸前の火口へ行ってしまうこともある。そんな危ない場所にすら「ちょっと抜け出しました」と澄まし顔で言ってしまうナディアが、冒険と表現した。しかも、今回はそんな些細な状況とは訳が違う。何とか獲得した3日の使い道でもあるのだ。何を言い出すのかと、レヴィは生唾を飲んで待つ。
「決まっているではありませんか。遠出の準備をお願いします」
「と、遠出って……だから、どこに?」
その時だった。ジャリ、と砂を踏み締めるような音がする。レヴィが振り返ると、そこには見知った顔が2つあった。紅蓮牙竜隊隊長のメグと紅蓮魔導隊隊長のナーガである。
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