魔王と配下の英雄譚

るちぇ。

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第2章 暁の竜神

第3話 紅竜同盟の使者 5

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 まぁ、それはともかくだ。向こうの様子がまたおかしくなっている。見る見るローレンの顔が真っ赤になっていき、全身を震わせて怒声を放つ。

「お、お前! お前がそもそもの原因じゃないか! 何とか言え!」
「そ、そうなのか、葉月!?」

 葉月は俺すら完全に無視してダラダラと歩いて近寄ると、ローレンを初めとする竜人たちをまとめて脇に抱えてしまう。もう一度言おう。脇に抱えた。
 なんだ、あのご褒美は。おっと、違う。なんだ、あの物理法則を無視したような捕まえ方は。せいぜい1人だろう、片方の脇に入るのは。それがどういう訳か片側に3人ずつも捕獲している。ギュウギュウに圧縮して無理やり押さえ付けているようだ。あれでは命の危険もありそうな殺人プレスだぞ。
 その証拠に、竜人たちは顔を真っ青にして変な悲鳴を上げながら懸命に抵抗している。でも無駄。いくら手足をばたつかせようとも、鋭い牙で腕に噛みつこうともビクともしない。

「では、お客様をごあんなーい」
「は……なせ……怪力……おん……な……」

 やる気の感じられない一礼をすると、葉月はそのまま問答無用で拉致していった。
 余りにも憐れで思わず目を反らしてしまう。最後に見た光景では既に手遅れっぽい奴もいて、口の端から泡を吐きながら、白目を向いて痙攣しているのがチラホラいた。辛うじて動いている者も、振るう手足にどこかうまく力が入っていないような感じだった。
 殺人的なご案内だな。行き着く先はあの世か。とにかくこの件は忘れよう。あのエロ親父たちも、脇で挟まれるというご褒美で満足するだろうさ。
 それよりも問題はここから。残ったメグから何を言われるのか全く想像が付かない。加えて腹の内が読める気がしない。ほら、見ろ。こんな一方的なやり方にも関わらず、メグはニコリと微笑えんですらいるぞ。

「これで誰の邪魔も入らず、ゆっくりとお話できますね」

 警護する者たちまで一緒に連れて行かれたのにこの余裕である。取り乱す様子はなく、笑顔はとても綺麗で可愛かった。ステータスをチェックするが、この子自身はさした強さはない。この世界基準でもだ。言うなれば丸腰の状態であの表情ということになる。

「さて、改めて自己紹介させて頂きます。私は紅竜同盟、紅蓮牙竜隊の隊長のメグと申します。代表者ナディア様の命により、とあるお願いをさせて頂きたく参上しました」
「こ、これは御丁寧に。俺……いや、私は魔王をやっているユウです。要件は何でしょうか?」
「その前に、このままでは余りにも失礼です」

 メグは言いながら立ち上がると、入り口へと歩いて行って手近な椅子に座り直した。部屋の奥の方が目上の人、つまり俺がそちらに座るべきだというのか。本当に何を考えているんだ、この子は。本題の前に上下関係を明確にしてしまえば俺たちが主導で話を進められてしまう。ローレンたちの態度から傘下に入りに来た訳でもないだろうに。
 こちらが困惑しているのを知っているのかいないのか、メグは変わらぬ口調で話を再開する。

「まず、私事で申し訳ありません。近く、竜神祭が開催されます。御存知ですか?」
「竜神祭……?」

 初耳だ。字面から、紅竜同盟で催される祭なんだろうとは予想できるが、その内容までは全くわからない。駄目元でウロボロスを見るも、首を横に振られる。流石のウロボロスも知らないらしい。

「簡単に説明致しますと、我らの守護神たる竜神様を奉るものです。千人で担ぐ神輿がサウス・グリードを横断しますよ」
「そ、それは何だか凄いですね……」

 元の世界でもあるんだろうな、そんな祭りが。でも想像はそこまで。なにせ竜神なる凄そうな神様を奉るんだ。盛り上がるのか厳粛にやるのかすらわからない。もしもシーンとした中で担いでいくのを見守るのだとすれば、うーん、俺はごめんだな。
 それはそうと、その祭りがなんだっていうのか。まさかゲスト出演の依頼ではないだろうし。

「その祭りに来て頂けませんか?」

 本当に出演依頼だとでも言うのか。訳がわからない。俺に何を期待しているのか、もはや想像することもできない。ウロボロスも同じようで怪訝な顔をしている。

「と言いますのも、まずは私共の力を見て頂きたいのです。交渉というものは互いに力を把握した上で行われるものでしょう?」
「交渉……ねぇ。まるでこちらの事は把握していると言っているように聞こえるのですが?」
「えぇ、ある程度は調査済みです。ローレンはあぁ言っていましたが、少なくとも私とナディア様は魔王様を過小評価などしていないつもりです。しかし魔王様はこちらの事を知らないでしょう? 余りに不公平ではありませんか」

 あくまでも対等な立場での交渉とやらをお望みか。馬鹿げている。なぜこちらの無知を利用して有利な条件を突き付けて来ないのか。対等な立場などという綺麗事で一体何がどう決まるだろう。互いに折れることを知らず、どこまでも並行線で終わってしまい、結局は全てなぁなぁで終わってしまうだろうに。

「そう不思議に思われますか? 魔王様のことは恐ろしく強大だと理解している、そう解釈して頂きたかったのですが」
「……そちらの方が下だと言っているようなものですよ? まさか、その通りではないでしょう?」

 ローレンたちのあの強気な態度とこの発言は余りにも食い違っている。メグの言い分を信じるなら、あいつは格上だとわかりつつ喧嘩を吹っかけるただの阿呆になってしまうぞ。仮にも奴も隊長ならそれだけはあり得ないと信じたい。なら逆にメグが見え透いた嘘を臆面もなく言っている事になるのだが、それもない気がしてならない。

「先に述べた通り、私たちの代表者たるナディア様はそのようにお考えです。私もまた同様です。もっとも中にはそれを認められず、ローレンのように振舞ってしまう者もいます。まだ一度も刃を交わしていないまま優劣が付いたとあっては、と。それについては平にご容赦頂きたく思います」
「あー……なるほど」

 ローレンは隊長だ。紅蓮飛竜隊だっけ。大そうな名前じゃないか。そんな誇り高い部隊を預かる者としては、簡単に格下だとは認められないのだろう。その絶対に曲げられない、ともすると幼稚に見えてしまうプライドこそ、彼が部隊に、ひいては紅竜同盟に対して抱く思いの表れなんだろうから。
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