魔王と配下の英雄譚

るちぇ。

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第1章 偽りの騎士

第22話 後日談 2

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 その頃、聖リリス帝国の玉座の間では緊急の召集がかけられていた。これに対しロアとルーチェを除く四大将軍の残り2人を初めとして、多くの騎士たち、文官たちはすぐさま応じ、今に至る。

「……以上のような経過をたどり、逆賊キダの野望は潰えたと思われます。報告終わります」

 報告を終えた兵は一礼すると、そそくさと末端の席に戻っていく。その足取りは決して颯爽とはとても言えず、ともすると、立っているのもやっとのように見える程に憔悴し切っていた。

「このような結末に至るとは、何とも後味の悪い結果になってしまいました。四大将軍の代表として謝罪しましょう」

 この場にいる全ての騎士、文官の中で最も玉座に近い位置にいる女性、四大将軍の大将シャルディは謝罪した。緑色の腰まで届く髪がさらりと垂れて、それを直すように耳元から手ですくい上げる。たったそれだけの仕草で、こんな状況でありながら溜め息を吐く者が少なからずいた。
 しかし上に立つ者たちは惚けてなどいられない。すぐさま血相を変えて食ってかかる。

「そ、そうだ! あんな老いぼれと小娘には過ぎた役職だったんだ!」
「そもそもなぜ彼らを向かわせたのです!? 貴女が行けばこんな事にはならなかったでしょう!?」
「どう責任を取るのですか!? 国民は怯えているのですぞ!?」

 これはもう議論にはなり得ない。一方的な感情を投げ付けるだけの無意味な場だ。
 だがこうなることは予想済み。さっさと胸の内に溜め込んだものを吐き出させようと、シャルディは何も言わずに黙って意見という名の暴言が出てしまうのを待つ。

「各々の言いたいことはよくわかりました。全てに解答することはできませんが、そうですね、責任という部分については言及しておきましょう。問います。仮に私たちが揃って辞職したり、腹を掻っ捌いたりすれば丸く収まると思いますか?」
「待て! なぜ我々もやらねばならん!?」
「今回の作戦はあなた方の提案でしょう? 発案者は実行者共々、戦犯として裁かれるのではありませんか?」

 言いたい放題だった者たちは一様に押し黙る。シャルディの言う通りだからだ。この作戦を強く推したのは彼らである。理由は人それぞれで、中には自身の出世のため、上官との取引材料にするためなど様々なものもあったが、ほぼ満場一致でキダの早期討伐をと叫んだ。それでも、ほぼ、となったのはルーチェを除く四大将軍たちが揃って首を横に振ったからだった。

「今は責任の所在など論ずる必要はない。そう結論付けて、次の段階へと進むことを提案させて頂きたいのですが異論ありますか?」

 シャルディの提案に反対する者はいない。悔しそうに拳を震わせたり、俯いたり、唇を噛みしめたりといった状態の者ばかりではあるが、何とか話し合いという状況に移行できるようになった。

「さて、目下最大の脅威が新たに出現しました。まともに剣を交わした者はいないでしょうが、キダに手も足も出なかった私たちが、そのキダを討ち滅ぼした魔王にどうして敵うことがありましょう? この事態に当たるのならば最大戦力で、加えて早急に臨む必要があります」

 シャルディの視線が横へと向く。わざわざ「早急に」と言ったその理由、彼女は名指しされているのだと即座に理解していた。
 聖リリス帝国は諸国が寄せ集められてできたばかりの新興国だ。連携などまだ上手く取れるはずがなく、しかし魔王はいつ襲いかかって来るのか想像も付かない。早急にとなればどうしても以前の国単位での活動となってしまう。そういう意味では最も軍として機能できる彼女ら以上の適任はいなかった。
 少女は誰にも悟られないように小さく溜め息を吐いた時、その凛々しい声を発する。

「その新たな脅威を捨て置けぬなら私たちが出るだけのこと。そういう契約なのですから」

 シャルディの次に高位の場所に立っていた少女は人であって人ではなかった。まだあどけなさは多少残っているものの、その腰には立派な竜翼と尻尾、額には王たる証の竜玉が埋まっている。そう、ウロボロスと同じドラゴンメイドであった。

「私が……とは、まさか」

 騎士や文官たちがその言葉の意味を理解するよりも早く、その子はすくっと立ち上がる。そしてシャルディを一瞥するとすぐに全体を見渡しながら声高らかに宣言する。

「私、ナディア=イスパダールの名においてここに告げます。その魔王とやら、我ら紅竜同盟が対処しましょう」

 紅竜同盟が動く。その言葉に誰もが恐れおののき、しかし四大将軍が2人も出た今回よりもずっと強い希望を抱き、言葉を失った。
 これに対してシャルディは何も言葉を挟まない。挟む必要がない。ナディア率いる紅竜同盟は聖リリス帝国において文句無しの最強の軍団であり、まさに意図した通りの展開になったのだから。
 しんと鎮まり返った場。その静寂を、あろうことか小さな笑い声で破ったのは、玉座に腰かけている神官風の服をまとったその子、リリスであった。

「正気ですか、ナディア?」
「ここに列することが既に狂気の沙汰。ピエロが笛を吹いて滑稽に思いますか?」

 リリスは肩肘をつきながら微動だにせず、その目をじっと見つめた。ナディアもまた見つめ返した。時間にしておよそ3秒。これまたリリスの笑い声で話は進む。

「ふふ、ならば止めはしません。しかしそれなりの覚悟は必要ですよ?」
「災厄の芽を摘み取った相手。情け油断は一切御座いません」
「では行ってらっしゃいな」

 ――そして、ユウ様の御力に絶望するのです
 誰にも聞こえない小さな声で聖少女リリスはそう付け足し、軍議は終わったのだった。
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