魔王と配下の英雄譚

るちぇ。

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第1章 偽りの騎士

第18話 解答 9

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 ここまで違うか。俺がイチから創造したというだけで、皆は拾って育てたというだけで、ここまで差が出るものなのか。まさかとは思うが、ルシファーがこうならばリリスもまた、俺の、俺自身が気付いていない本心に従ってここを離れているだけなのかもしれない。そんな信ぴょう性の全くない妄想すら浮かんでしまうくらいに、そしてそれがどうしようもなく真実だと思えてしまうくらいにショックを受けているらしい。

「先ほども言いましたが、貴女たちはこの世界の何を知っているのですか? 貴女のような状態を井の中の蛙と言うのです」
「問題は現実じゃ。魔王様を越える敵はおるのかのう?」
「今のところいません。ユウ様が最強と私は胸を張って言えます。しかし、貴女にそう主張する権利はありませんね」

 もはや、俺たちにルシファーを言い負かすことはできっこない。完膚なきまでに叩きのめされてしまった。ウロボロスは間違っていた。もう、黙ってそう認めるしかないのか。
 嫌だ。本当は嫌だ。あんなに頑張ってくれて、倒れたのは確かに困ったけど、でもそれくらい俺を思ってくれている表れのはず。暴走気味だけどいつも傍にいてくれて、支えてくれる。いてくれると心から安心できる。そんなウロボロスが間違いだったと言われて、そのまま引き下がれるなんてできるか。

「ルシ――」
「――なるほど。その点において、少なくともワシは劣るじゃろう」

 カルマの声に力が戻っていた。その目は何かを決意したような光のようなものを発していて、俺と言葉が被ったというのに、全く止めるつもりはないらしい。こちらに目を向けることすらしてくれない。
 そうか、お前もまた俺と同じように引き下がるつもりはないんだな。わかったよ。ここは譲ろう。聞かせて欲しい。お前のウロボロスに対する思いを。

「しかし、ウロボロスは別じゃ。魔王様のためを思い、常に傍に控えながら寝る間を惜しんで独自にこの世界の調査をしておった。あやつほど真剣に魔王様を思う配下はおるまい。お主がどう思うおうと、どう酷評しようと、ワシらにとっては心から尊敬する大切な将じゃ。じゃから警告する。ここから先は言葉に気を付けよ。これ以上ウロボロスを否定するのなら……殺しにかかるぞ?」

 本気だ。カルマのあの目、あの口調。間違いなく本気でいく。そう思わせる凄みがあった。だが勝てるはずがない。単身は勿論、ウロボロスが加わっても手も足も出せないであろう強敵だ。それなのに、負けるとわかっているはずなのに威嚇してくれる。ウロボロスのために。
 もしもここで戦闘に発展したら、俺に止めることはできるのだろうか。俺だってウロボロスを守ってやりたいのに、一番見たくない仲間同士の戦いに発展したら、止められるのだろうか。
 ルシファーの方を伺うと、とても冷たい目をしていた。あれは明かに殺意の篭った目だ。俺に向けられたものではないのに、俺まで冷気のようなものが感じて恐怖を覚えてしまう。
 一触即発の状態。どちらかが不審な動きを取ったらそのまま戦闘に発展するだろう。そんな中、それは余りにも唐突に起こった。

「これほど嬉しいこともありませんね」

 くすりと笑ったのだ、ルシファーが。殺意はどこへやら、とても穏やかな笑みを浮かべてカルマを見つめている。新手の脅しではないかと警戒するくらい突然のことだったが、どうやらそうでもないらしい。ここから戦闘など絶対に起こらないと確信が持てる空気になってしまっている。
 これには流石のカルマも呆気に取られたようだが、まだ気は抜いていないようだ。そりゃそうだ。逆にあの流れからこうなって、どうして警戒心を解くことができるだろう。ひと思いに殺すために気を緩ませた。俺がカルマの立場だったらそう考えて警戒してしまうに違いない。

「……どういう意味じゃ?」
「私がウロボロスを差別する? ふふ、むしろ逆。心から期待しているのです。いつの日か、ゼルエル、リリス、そして私に並ぶと確信していますから」

 ルシファーはカルマの横をすり抜ける。余りの発言に呆気に取られたのか、カルマはあっさりとそれを許してしまう。そして俺には目もくれず真っ直ぐにウロボロスの方へ歩み寄ると、膝を着いてしゃがみ込み、項垂れているウロボロスの頬をそっと持って顔を上げさせた。

「良い部下を持ちましたね。ユウ様の決められた役割こそあれ、今の貴女たちは考えることができます。それでもなおここまで慕われるのは貴女の人徳があってこそ。改めて言います。期待していますよ、ウロボロス」
「ルシファー様……」

 安心した。そして嬉しかった。ルシファーは俺のイメージ通りのルシファーだったから。酷いことをスラスラ言われて、ぐうの音も出ないくらいに叩きのめされて、正直に言ってしまうと幻滅した。でもそれはウロボロスを思ってのこと。その思いが、嫌われようとも構わないという覚悟が見られた。こんなにも嬉しいことがあるだろうか。

「ユウ様、私はこんな損をしやすい女ですが……これからも末永くよろしくお願い致しますね?」

 そう言ってペコリと一礼される。くそ、一転してカッコいいじゃないか。惚れてしまったらどうするんだ、って、おっと。この手の内容は思考すら許されないのかもしれない。ルシファーの奴、途端に満面の笑みを浮かべるとにじり寄って来ようとしてきた。油断も隙もあったものじゃない。

「あぁ、そうでした。大切なことを伝えなくては」

 にじり寄って来ようとした、と言った。そう、実際には来ていない。ウロボロスやカルマが止めた訳でもないのに、ピタリと動きが止まったのだ。通信でも入ったのだろうか。その目が空中を泳ぐように動いている。
 一体、大切なことって何だろう。気になる。そんなところで止めないでくれよ、と思いながら続きを待っていると、それから少しして、なぜか視線はウロボロスの方へ注がれながら話が再開する。

「間もなく騎士様が死ぬかもしれません。どうされますか?」
「な、何だとっ!?」

 感動している場合じゃない。よく考えなくても、それは危惧していたじゃないか。それがどうして、こんなにも焦ってしまう事態に陥ったのだろう。なんて、そんな原因について考える暇すら惜しい。早く行かなくては。一刻の猶予も無いぞ、くそ。
 そう思った時だった。ひとつの影が瞬く間に駆け抜けて、転移魔法を使って消えてしまった。
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