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第1章 偽りの騎士
第18話 解答 8
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事実、俺は弱くて、強敵がいる、いないという問題以外にも苦しめられた。そんな弱さを支えてくれたのだ、外ならぬウロボロスたちが。だからこそ断言しよう。俺がまだへこたれず立っていられるのは皆のお陰だ。俺自身の力ではない。
「貴女の覚悟は私も知っています。それだけの思いを懐くからこそ、全てを任せたのです。ただ……その結果、貴女には何ができましたか? 人間に敗北し、倒れてユウ様にご迷惑をかけ、この世界の事は何も把握していない」
「おい、言い過ぎじゃないか? ウロボロスのお陰で俺はこうしていられるのは間違いないんだ」
大切なことだろうからと黙っているつもりだったが、いくら何でもそれは聞き捨てならない。流石に口を挟ませて貰った。それから、普段なら絶対に拒否されるだろうが力ずくでウロボロスを後ろにやって、ルシファーと向き合う。
「頑張ったのは認めますが、その結果に苦言を呈しています。ウロボロスはまだ何もなし得ていないではないですか」
「そんなことは絶対にない。それに、それを言うなら俺の方が何もやっていないぞ? むしろ世界を壊すような真似ばかりしてきた」
「いいえ、ユウ様は数々のご決断をされ、ウロボロスの代わりに指示を出し、ここまで来られました。ご立派ではありませんか」
「でも、それはウロボロスがサポートしてくれたからだ」
「ユウ様の歩みを補佐するのは配下として当然のこと。とても誇れたことではありません」
駄目だ。この強固な意志を崩せる気がしない。俺を貶すようなことこそ言わないが、ウロボロスに関しては痛いところばかりを突いてきて、俺まで悲しくなってくる。それに何より、悔しいけど言う通りではあるのだ。それ自体を否定することができない以上、他に何を言ってやれるのか。
どうしたものか、何て言い返すかと必死に考えていると、ウロボロスに掴まれている手が軽くなる。繋いだままのはずの手が弱々しく小刻みに震えていた。見ると、その表情は呆然としていて力なく項垂れている。
「ウロボロスに代わり、言いたいことがあるのじゃ」
俺と同じく聞く側に回っていたカルマは、遂に不敵に笑いながら歩き出す。ケロベロスはいなく、本人の足で歩いている。本気だった。戦闘ではなく、俺の命令でもないのに本気になっている。つまりカルマ自身の意思で言いたいことがあるということだ。一体、何を言うつもりなのか。
「ルシファー様にとって、この世で最も大切なものは何じゃ?」
「当然、ユウ様です」
何を言い出すかと思えば。それはお前たちにとって、その、当り前のことだろう。聞かなくてもわかることをどうしてわざわざ聞いたのか、なんて考える間もなく、カルマは言葉を続ける。
「それ故にこの世界について調べて回っておったのじゃろう。一方でワシらは魔王様とイチャイチャしておっただけ、なるほど言い返せることはあるまい。それが魔王様の望みならば……のう?」
「ユウ様の望み……というのは?」
「魔王様はワシらと共にあることを望まれ、ワシらはそれに応えた。確かにそれでは、この世界の調査が多少遅れるやもしれぬ。しかし、ワシらは魔王様を心から信頼しておる。極端な話、御心に従った結果ならば、例え命を落とそうとも誰も悔いはあるまい」
そうか、カルマはそういう風に考えてくれていたのか。
本当は嫌だ。皆が負けるところなんて見たくないし、せっかく皆と一緒に生きられる世界なのに死ぬなんて真っ平ごめんだ。でも、きっと俺もそう考えていたと思う。効率を考えればルシファーのように皆を調査に出すのが一番だ。でも、それでは寂しい。今でこそ世界に関わってしまっているものの、この世界に来て、ウロボロスたちと出会って、俺は皆とずっと一緒にいたいと思った。その願いは今も変わっていない。その結果、例え命を落とすようなことになっても、バラバラになったまま死んでしまうよりはずっといい。
「なるほど、一理ありますね。カルマはそれでも良いでしょう。しかしウロボロスは別ですね」
「ほぉ、差別すると言うのかのう?」
「いいえ、断じて違います。貴女たちは生きているのでしょう? ユウ様にこう言われたから。ユウ様がこう望まれたから。そんな盲目的なイエスマン……データの頃と何が違うのです?」
返す言葉が無かった。そうだ、皆は俺のことを思ってくれて、大切にしてくれて、何でも望みを叶えようとしてくれて。それが当たり前になっていたからか、言われるまで気が付かなかった。
皆は生きていると俺は言った。本当にそうだっただろうか。戦え、防御しろ、待機だ。そんな命令コマンドを入力していた頃と何が違う。データと何も変わっていない。ただ息をして、瞬きをして、触れると温かくなっただけではないか。
「一体、いつまで設定に囚われているのですか? 確かに、貴女たちを構成する一要素ではありましょう。ただ、それは人で言うところの生まれや育ちというもので片付く程度のものでしかないのです。親が悪い、社会が悪いと言って駄々をこねるだけの子どもではないのならば、さっさと自立しなさい。それが生きるということではないのですか?」
ルシファーの言葉は痛いものばかりだけど、そのどれもがどうしようもなく正しい。皆に生きて貰いたい。そのためには設定文にとらわれ過ぎず、そこから自立して欲しい。全くその通りだ。それは、俺が皆に生きて欲しいと言ったあの願望そのものではないか。ルシファーは見抜いていたのだろう。俺の本心まで全てを。
「ワシらも細かいことは考え決断するのじゃ。全ては魔王様のためにのう」
「ユウ様のため。それを免罪符にしても、明確な脅威から目を反らしたのは事実ですよ。ユウ様の命すら軽視するつもりですか?」
「魔王様は最強じゃ。実際、この世界の住人たちは脆弱じゃろう。負けることなど、万にひとつも無いのじゃ」
カルマもまた、俺と同じように気勢をそがれてしまっているらしい。言葉に覇気が無くなってきて、言っている内容も破綻し始めている。
「貴女の覚悟は私も知っています。それだけの思いを懐くからこそ、全てを任せたのです。ただ……その結果、貴女には何ができましたか? 人間に敗北し、倒れてユウ様にご迷惑をかけ、この世界の事は何も把握していない」
「おい、言い過ぎじゃないか? ウロボロスのお陰で俺はこうしていられるのは間違いないんだ」
大切なことだろうからと黙っているつもりだったが、いくら何でもそれは聞き捨てならない。流石に口を挟ませて貰った。それから、普段なら絶対に拒否されるだろうが力ずくでウロボロスを後ろにやって、ルシファーと向き合う。
「頑張ったのは認めますが、その結果に苦言を呈しています。ウロボロスはまだ何もなし得ていないではないですか」
「そんなことは絶対にない。それに、それを言うなら俺の方が何もやっていないぞ? むしろ世界を壊すような真似ばかりしてきた」
「いいえ、ユウ様は数々のご決断をされ、ウロボロスの代わりに指示を出し、ここまで来られました。ご立派ではありませんか」
「でも、それはウロボロスがサポートしてくれたからだ」
「ユウ様の歩みを補佐するのは配下として当然のこと。とても誇れたことではありません」
駄目だ。この強固な意志を崩せる気がしない。俺を貶すようなことこそ言わないが、ウロボロスに関しては痛いところばかりを突いてきて、俺まで悲しくなってくる。それに何より、悔しいけど言う通りではあるのだ。それ自体を否定することができない以上、他に何を言ってやれるのか。
どうしたものか、何て言い返すかと必死に考えていると、ウロボロスに掴まれている手が軽くなる。繋いだままのはずの手が弱々しく小刻みに震えていた。見ると、その表情は呆然としていて力なく項垂れている。
「ウロボロスに代わり、言いたいことがあるのじゃ」
俺と同じく聞く側に回っていたカルマは、遂に不敵に笑いながら歩き出す。ケロベロスはいなく、本人の足で歩いている。本気だった。戦闘ではなく、俺の命令でもないのに本気になっている。つまりカルマ自身の意思で言いたいことがあるということだ。一体、何を言うつもりなのか。
「ルシファー様にとって、この世で最も大切なものは何じゃ?」
「当然、ユウ様です」
何を言い出すかと思えば。それはお前たちにとって、その、当り前のことだろう。聞かなくてもわかることをどうしてわざわざ聞いたのか、なんて考える間もなく、カルマは言葉を続ける。
「それ故にこの世界について調べて回っておったのじゃろう。一方でワシらは魔王様とイチャイチャしておっただけ、なるほど言い返せることはあるまい。それが魔王様の望みならば……のう?」
「ユウ様の望み……というのは?」
「魔王様はワシらと共にあることを望まれ、ワシらはそれに応えた。確かにそれでは、この世界の調査が多少遅れるやもしれぬ。しかし、ワシらは魔王様を心から信頼しておる。極端な話、御心に従った結果ならば、例え命を落とそうとも誰も悔いはあるまい」
そうか、カルマはそういう風に考えてくれていたのか。
本当は嫌だ。皆が負けるところなんて見たくないし、せっかく皆と一緒に生きられる世界なのに死ぬなんて真っ平ごめんだ。でも、きっと俺もそう考えていたと思う。効率を考えればルシファーのように皆を調査に出すのが一番だ。でも、それでは寂しい。今でこそ世界に関わってしまっているものの、この世界に来て、ウロボロスたちと出会って、俺は皆とずっと一緒にいたいと思った。その願いは今も変わっていない。その結果、例え命を落とすようなことになっても、バラバラになったまま死んでしまうよりはずっといい。
「なるほど、一理ありますね。カルマはそれでも良いでしょう。しかしウロボロスは別ですね」
「ほぉ、差別すると言うのかのう?」
「いいえ、断じて違います。貴女たちは生きているのでしょう? ユウ様にこう言われたから。ユウ様がこう望まれたから。そんな盲目的なイエスマン……データの頃と何が違うのです?」
返す言葉が無かった。そうだ、皆は俺のことを思ってくれて、大切にしてくれて、何でも望みを叶えようとしてくれて。それが当たり前になっていたからか、言われるまで気が付かなかった。
皆は生きていると俺は言った。本当にそうだっただろうか。戦え、防御しろ、待機だ。そんな命令コマンドを入力していた頃と何が違う。データと何も変わっていない。ただ息をして、瞬きをして、触れると温かくなっただけではないか。
「一体、いつまで設定に囚われているのですか? 確かに、貴女たちを構成する一要素ではありましょう。ただ、それは人で言うところの生まれや育ちというもので片付く程度のものでしかないのです。親が悪い、社会が悪いと言って駄々をこねるだけの子どもではないのならば、さっさと自立しなさい。それが生きるということではないのですか?」
ルシファーの言葉は痛いものばかりだけど、そのどれもがどうしようもなく正しい。皆に生きて貰いたい。そのためには設定文にとらわれ過ぎず、そこから自立して欲しい。全くその通りだ。それは、俺が皆に生きて欲しいと言ったあの願望そのものではないか。ルシファーは見抜いていたのだろう。俺の本心まで全てを。
「ワシらも細かいことは考え決断するのじゃ。全ては魔王様のためにのう」
「ユウ様のため。それを免罪符にしても、明確な脅威から目を反らしたのは事実ですよ。ユウ様の命すら軽視するつもりですか?」
「魔王様は最強じゃ。実際、この世界の住人たちは脆弱じゃろう。負けることなど、万にひとつも無いのじゃ」
カルマもまた、俺と同じように気勢をそがれてしまっているらしい。言葉に覇気が無くなってきて、言っている内容も破綻し始めている。
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