魔王と配下の英雄譚

るちぇ。

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第1章 偽りの騎士

第18話 解答 1

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 やって来た玉座の間は不気味な程に静まり返っていた。異質だ。ここは俺がふんぞり返るために作った俺のための部屋のはずなのに、一歩踏み出しただけで腰が抜けそうになってしまう。

「我が君、大丈夫ですか?」

 隣で腕を組んでくれていたウロボロスが支えてくれて、何とか持ち直せる。酷いな。全くもって酷い。黒を基調とした部屋だからか、より一層不安な気持ちを掻き立ててくれるらしい。そういう風に自分自身を慰めながら、ひとまずウロボロスにお礼を言う。

「だ、大丈夫。ありがとう、ウロボロス」

 遅れてカルマとルーチェもやって来る。俺の痴態がまた不思議に見えたらしく、ルーチェはカルマに色々と聞いているようだ。まぁ、返答は変わらないだろうが。俺でも危険は絶対にないと答えるので精一杯なのだ。どうしてカルマにそれ以外のことを言えるだろう。
 なにはともあれ、これで役者は揃ったはずだ。せめて早く姿を見せてくれ、と思いながら辺りを見渡すと、神無月は玉座の横に控えるように立っていた。手で座るよう促している。

「神無月……す、座れということで間違いないか?」
「はい。我が主より、魔王様に立ち話をさせる訳にはいかないと指示されておりますので」

 落ち着け、俺。そうだ、これは考えようによっては威厳を回復する好機である。玉座には背もたれと座面があるから、腰かけてしまえばよろめいて倒れることはなくなる。しかも後ろと下に死角は無くなるじゃないか。すると気にするのは前だけで良くて、そこにはウロボロスがいてくれるから、ほら、安心だ。

「お、俺は座るぞ。サポートを頼むな、ウロボロス」
「畏まりました」

 俺は座り、ウロボロスは斜め前に立ってくれた。鎧は身に付けないがグングニル改12は手にしてくれて、防御系統のスキルや魔法をいつでも使用できるよう、ウィンドウをいくつも並べてくれていた。完璧な迎撃態勢である。物々しいと思うだろうか。ところがどっこい。これでもなお不安が無いとは言い切れない。

「では、これよりお呼びします」

 こちらの準備が整うのを待ってくれていたのだろうか。ウロボロスがウィンドウを並べ終えたところで、神無月は本来の入り口へゆったりとした足取りで移動する。そして扉の前に立つと、ギィ、という音を立てて開かれた。そこにいたのは9人のメイドたちだった。
 如月のような純日本風な奴が3人、赤い髪の奴が3人、青い髪の奴が3人である。あの髪の色で役割を明確に変えているのだが、まぁ、今はそんな情報を確認する必要もないだろう。それよりも、ほら。きちんと俺も警戒しろ。メイドたちがアイコンタクトすら取らず、5人ずつ2列に分かれて道を作って頭を垂れたぞ。来る。奴が来る。

「我らが主、お願い致します」

 ひらり、はらりと、何枚かの羽がメイドたちの道に舞い降りてくる。うっすらと神々しい光を帯びた純白の羽である。それらの軌跡を目で追っていくと、天上に天使がいた。
 褐色肌にウェーブのかかった淡い黄金色の髪、紅玉のような鋭い目。ゼルエルに続く俺がイチから創造した配下にしてメイドたちのマスターである、逆転の女神、聖天使ルシファーだ。
 ゆっくりと自身も舞い降りて来ると、奴もまたメイドたちのように一礼する。

「こちらではお初にお目にかかります。第二配下、聖天使ルシファー、ここに」
「あ……あぁ、ひ、久しぶり……元気だった……か?」

 にこりと、ただ微笑えまれただけで自分自身を呪った。なぜ俺はあんな設定にしてしまったんだろう。ウロボロスが俺のフィアンセという設定文に毛を生やしたような内容だろ。それであれだろ。ルシファーはモロなんだよ。ダイレクトな表現が多いんだよ。はっきり言おう。過去最大級の貞操の危機がやって来たと。

「ふふ、お会いできて嬉しゅう御座います、ユウ様」

 言うが早いか、次の瞬間、ルシファーは残像を残して消える。駆け出したのだ。俺に向かって一直線に。辛うじて見えてはいる。でも避けるのは無理だ。立とうと思ったら腰が抜けて動けない。これはあれかな。変質者に襲われて、恐くてすくんでしまう女の子のような状態かな。なんて、冷静に分析する自分がどこかにいた。

「お待ちください、ルシファー様」

 しかし、直ちに間違いは起こらなかった。忘れてはならない。側には守護神ウロボロスがいてくれる。しかも俺の貞操の危機となれば黙ってはいられないだろう。速度負けせずしっかりと立ちはだかってくれて、イージス・スピリットの召喚まで終わらせて周囲に配置してくれている。

「そこを退きなさい、ウロボロス」
「我が君は怯えております。ご理解頂けませんか?」

 頭すら動かせないのか。くそ。せめて必死に頷いて見せたいのに、ガクガク震えて動いてくれそうにない。
 自分でもおかしく思ってしまう。特にこれといった女性に関するトラウマは無いはずだ。なぜなら、そもそも女性と関わった経験すらほぼ無いから。陰で何か言われていたのかもしれないが、幸か不幸か、全く耳にしたことはない。そのくらい女性経験が無いのに、どうしてここまで怯えているんだろう。でも恐いのは恐いんだから仕方ない。いや、仕方ないで本当は済まされないんだけど、じゃあ、もう、どうすればいいんだよ畜生め。

「なるほど、つくづく真面目ですね。しかし甘い――」

 ルシファーの姿が忽然と消える。
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