魔王と配下の英雄譚

るちぇ。

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第1章 偽りの騎士

第16話 会議をします 3

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 困り果ててチラリと皆の方へ目を向けると、俺と同じような状態らしく、うんうん唸っていた。こりゃ、リスクはあるけどファントム・シーカーを出すので決まりかな。なんて考えていると、肩をトントンと叩かれる。

「あの、我が君。私からひとつ方法を提案させて頂きたいのですが、宜しいでしょうか?」

 ウロボロスだった。できる限り意見を言うなとお願いしたためか、どこか申し訳なさそうにしている。
 いつから思い付いていたのだろう。せっかく考えてくれたんだろうに、こんなに言いにくそうにさせて、悪いことをしてしまったな。

「是非お願いするよ。あぁ、心配しなくてもいい。これだけ難航しているんだ。ひとつでも多く意見が出た方がいい」
「畏まりました。では、僭越ながら提案させて頂きます。まず、ここ、イース・ディードは聖リリス帝国から目を付けられているのは確実でしょう。これを利用します。その原因を解決し、報告という形で正面から行くのは如何ですか?」

 あぁ、それは難しい方法だな。なにせ、その原因とやら自体を俺たちは知らない訳だし。ましてその解決なんて、内容を知らない内からできるかどうかなんて判断できないだろう。しかし、だ。うまくいけば一番スマートな方法でもある。リリスが俺の配下のリリスだったとすれば、ファントム・シーカーが見付かるという危険無く堂々と会いに行ける。逆に別人だったとしても、そういう理由なら邪険にはされまい。むしろ歓迎される可能性すらある。

「うーん、うまくいけば一番良い方法だな。そうだ、カルマ。以前、ファントム・シーカーを使って大規模な一斉調査をしていたよな。その時、何か手がかりになりそうなものは無かったか?」
「うむぅ……それなのじゃが……」

 なぜか、今度はカルマが言いにくそうにしている。まさか、ウロボロスがまた何かを言いたげにしているのだろうか。そう思って隣を見るが、ニコリと微笑まれただけで、どうやら今回は違うらしい。他の皆がそうなのかと思ったが、誰も何かを言いたそうにはしていない。では、どうしてそんなにためらうのだろう。

「どうした、カルマ? そんなに言いにくいことでもあるのか?」
「現状、これを手がかりと言って良いのかどうかわからぬが……そうじゃな、見て頂くのが手っ取り早いじゃろう」

 カルマは映像を画像にして記録するメモリーのアイテムを取り出して、ふわりと、手の平大の緑の球体を俺の前に浮かべてくれる。すると球体の上部へ光が発せられ、ウィンドウの形を成して映像を映し出す。
 これらは村や町で良いのだろうか。たくさんの家々や田畑が並ぶ画像が、ひとつ、またひとつと切り替わりながら表示されていく。
 このどこかに不可解な点があるのだろうか。少なくとも言えることは、文明レベルについては最初のアデルの村と同等くらいだから、外観上の異常は無さそうなことか。

「これらを見ればわかるかのう?」

 ごめんなさい、俺にはわかりません。なんてすぐに認められる訳がない。カルマはこれを見て何か感じ取ったはずなのだ。主の俺が見付けられなくてどうする。よく見ろ、よく見るんだ。でも見れば見るほどに、至って普通の建物や田畑ばかりである。せめて童話に出てくるようなお菓子の家や、天へと続く豆の木でもあれば、ほら、そこそことすぐに指させるんだけどなぁ。

「普通の街並みじゃないか。まぁ、僕の手がけた村には遠く及ばないけどね」

 なんて一生懸命考えていると、アザレアが先に指摘してしまった。もう少し考えさせてくれよ、と突っ込みたかったが、グッと堪える。つまらない意地を張っていても時間の無駄だ。ここはさっさと答えを聞いておいて、その不可解とやらについて考えを巡らせた方がずっと有益だろう。

「……なるほど、そういう意味でも不思議ではあるのう」

 一体どんな手がかりが、と身構えていたのに、どうやらカルマはまた別の点に気付いてしまったらしい。何だ、何がある。普通の街並みだったからどうしたというんだ。もしかしてあれか。魔法がある世界なのだから、もっと発展していなくちゃおかしいとか。いやいや、そんな突拍子もないことで不思議がるはずがない。では、一体何なのだ。

「あの村はアデルに技術提供されたこともあって、あそこまで発展したのじゃろう? しかしこの街並みはどうじゃ。その技術が欠片も見えんではないか」

 あぁ、言われてみればその通りだ。具体的にどのくらいアザレアが技術提供を受けたのかわからないものの、あの半分でもこの世界の技術によるものなら、もっと発展していなくてはおかしい。辺境の村だけでなく街と呼ぶに相応しそうな大きな所でさえ、道は土がむき出しででこぼこ、街灯は無く、ほとんどの建物が木造建築で、石材の家なんてほとんど無いではないか。なぜこんなにも差があるのだろう。確かに不思議な点であった。

「なるほど、そういう見方もあったね。しかし、それはアデルの父親が四大将軍とやらに選ばれる程の学者だったからと考えれば納得できなくもない話さ」

 これまたアザレアに言われてみれば、アデルの父親はその頭脳を買われて四大将軍になった程の人物だ。きっと世界の最先端をいく知識と技術を持っていたのだろう。アデルの村も以前はこの画像の村や街と同等くらいだったが、それは、その知識や技術に基づいて発展させるには余りにも高コストだったからなのかもしれない。

「うむ、アザレアの話は一理あるのじゃが、その点については、これ以上の議論はできないじゃろう。問題はもっと明確なものが別にある。見方を変えれば見えてくるじゃろうて」
「見方を変える……まさか。なんだ、これは。カルマ、もしかしてこれは!」
「気付いたか、アザレア。やはりお主は優れておるのう」

 アザレアはこれまで聞いたことがないくらい声を張り上げ、見たことがないくらい目を見開き、驚いていた。
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