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第1章 偽りの騎士
第12話 激昂のカルマ 1
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鈍い音を立てて会議室の扉が開かれる。そこには既にアザレアとフェンリスがいた。ムラクモの姿は無い。念のため、アデルの村を守るために出ているためだ。当然、ユウやウロボロスもいなかった。それもそのはず。今頃は2人、色々と積もる話をしているだろうから。
一番遅れてやって来たカルマは、乗り物のケルベロスを適当に空いている所へ座らせる。その上で足を組むと、高圧的な口調で、実に不愉快そうに言葉を発する。
「何の冗談か説明して貰おうかのう?」
そう、内容が内容だけに、カルマは冗談だと心の底から信じて疑っていない。しかしだ。万が一など天地がひっくり返っても無いのだろうが、ならば、一体なぜそんな奇妙な話になっているのかと、問いたださざるを得ない内容でもある。だからこそ彼女は不愉快さを全く隠す様子はなかった。
「論より証拠。言葉よりも実際の映像を見ると早いかな」
アザレアはウィンドウを空中へ拡大表示し、その光景をカルマにも見せる。
映ったのは見下ろす形の草原だ。徹底調査をしたカルマならば、ここが具体的にどの辺りなのか一目でわかる。アデルの村から西へおよそ30キロ離れた所である。
そのカメラの画面中央に、しっかりと、問題のそれは捉えられていた。巧みに槍を振り回し、次々とファントム・シーカーを薙ぎ払いながら、真っすぐにアデルの村へと突き進むその者は、
「……間違いない、のう」
カルマが、ユウ以外に絶対に見間違えるはずがないと胸を張って言える唯一の人物、ウロボロスであった。天文学的確率でたまたまこの世界にいたそっくりさん、ということもあり得ない。武器や防具、戦い方まで、どれを取っても本人だったから。
否定しようのない事実。アザレアが嘘を吐くはずがないのだが、それでも信じられなかった。いや、正確には信じたくなかった現実は確かにあった、というのが正しい。余りの衝撃に、カルマはこの世界に来てから初めて眩暈を覚えて、一瞬、よろめいてしまう。
「カルマ、大丈夫?」
「うむ、心配せずとも良い」
さっと後ろに回って支えてくれたフェンリスに、カルマは気丈に振舞って見せた。それでもなお心配そうにしているため、頭をなでてもやった。そうしてやっと離れて貰えたのだが、お陰で少しばかり冷静な気持ちになれたので、心の中でひとつお礼を言ってから居住まいを正す。
「可能性をひとつずつ潰していこうではないか」
「そうだね。まずは、絶対にあり得ないとわかり切っていることから。確認したい。ウロボロスは今、どこにいるんだい?」
「魔王様と寝室におる」
カルマはつい先ほどユウと別れたばかり。流石に後をつけるような無粋な真似はしていないものの、その直前には眠ったままのウロボロスの傍にいた。だから、あんな所にウロボロスがいるはずがない。仮にそうだとすれば自室にいないのだから、ユウが血相を変えて探し回っているはずである。当然、カルマたちにも連絡が入っているだろう。
「……悩ましいものだ」
ただ、それは絶対的な信頼に基づいた願望という名の推測だ。可能性が皆無とはどうしても言い切れない。そう指摘するべきなのだろう、本来ならば。しかしアザレアもまたウロボロスに対して返し切れない恩を感じ、尊敬もしているからこそ、そう言い出せず頭を悩ませる。
「悩むことの程でもあるまい。ウロボロスがこんなヘマをするはずがないのじゃ」
だが、カルマはその悩みをバッサリと切り捨てる。そもそもだ。仮にウロボロスがもう目覚めて出かけていたとしても、ファントム・シーカーを殺害するなんて考えられない。そんな反逆行為をするはずがない、という感情的な話ではない。あれらは全てユウへと通じている。当然、殺されればユウへ通知がいく。キル・カメラ、つまり、ファントム・シーカーたちが最期に見た光景と共に情報が送られるのだ。例え倒したのが1体だろうとも居場所が露見してしまうのだから、ユウを釣り出すつもりでもない限り、こんなヘマはしないだろう。
「それに、魔王様がおらぬのじゃ。まず間違いなく、ウロボロスと会って大切な話をしておるのじゃろう」
それにファントム・シーカーが殺されたという通知は、敵が明確な敵意を持って攻め込んで来たという警報でもある。そんな一大事に姿を見せないということは、もっと大事な何かをしているということ。あの安全第一、身の保全を何よりも重んじるユウがそうするのは、今ならば、ウロボロスと会っている以外にあり得ないのである。
「一応、まだお部屋にいるか確認に行ってきますか?」
「フェンリス、それは俗に言う野暮なことじゃ。やめておくがよい」
「そうなんですか? わかりました」
純真無垢なフェンリスはわかったと言ったものの小首を傾げており、本気で理解できていないのだが、今はそんな大人の空気の読み方を指導する暇はない。あれがウロボロス本人でないとしても、敵がこちらへ迫って来ているのは事実なのだ。まずはあれの対処法を検討しなければならない。
一番遅れてやって来たカルマは、乗り物のケルベロスを適当に空いている所へ座らせる。その上で足を組むと、高圧的な口調で、実に不愉快そうに言葉を発する。
「何の冗談か説明して貰おうかのう?」
そう、内容が内容だけに、カルマは冗談だと心の底から信じて疑っていない。しかしだ。万が一など天地がひっくり返っても無いのだろうが、ならば、一体なぜそんな奇妙な話になっているのかと、問いたださざるを得ない内容でもある。だからこそ彼女は不愉快さを全く隠す様子はなかった。
「論より証拠。言葉よりも実際の映像を見ると早いかな」
アザレアはウィンドウを空中へ拡大表示し、その光景をカルマにも見せる。
映ったのは見下ろす形の草原だ。徹底調査をしたカルマならば、ここが具体的にどの辺りなのか一目でわかる。アデルの村から西へおよそ30キロ離れた所である。
そのカメラの画面中央に、しっかりと、問題のそれは捉えられていた。巧みに槍を振り回し、次々とファントム・シーカーを薙ぎ払いながら、真っすぐにアデルの村へと突き進むその者は、
「……間違いない、のう」
カルマが、ユウ以外に絶対に見間違えるはずがないと胸を張って言える唯一の人物、ウロボロスであった。天文学的確率でたまたまこの世界にいたそっくりさん、ということもあり得ない。武器や防具、戦い方まで、どれを取っても本人だったから。
否定しようのない事実。アザレアが嘘を吐くはずがないのだが、それでも信じられなかった。いや、正確には信じたくなかった現実は確かにあった、というのが正しい。余りの衝撃に、カルマはこの世界に来てから初めて眩暈を覚えて、一瞬、よろめいてしまう。
「カルマ、大丈夫?」
「うむ、心配せずとも良い」
さっと後ろに回って支えてくれたフェンリスに、カルマは気丈に振舞って見せた。それでもなお心配そうにしているため、頭をなでてもやった。そうしてやっと離れて貰えたのだが、お陰で少しばかり冷静な気持ちになれたので、心の中でひとつお礼を言ってから居住まいを正す。
「可能性をひとつずつ潰していこうではないか」
「そうだね。まずは、絶対にあり得ないとわかり切っていることから。確認したい。ウロボロスは今、どこにいるんだい?」
「魔王様と寝室におる」
カルマはつい先ほどユウと別れたばかり。流石に後をつけるような無粋な真似はしていないものの、その直前には眠ったままのウロボロスの傍にいた。だから、あんな所にウロボロスがいるはずがない。仮にそうだとすれば自室にいないのだから、ユウが血相を変えて探し回っているはずである。当然、カルマたちにも連絡が入っているだろう。
「……悩ましいものだ」
ただ、それは絶対的な信頼に基づいた願望という名の推測だ。可能性が皆無とはどうしても言い切れない。そう指摘するべきなのだろう、本来ならば。しかしアザレアもまたウロボロスに対して返し切れない恩を感じ、尊敬もしているからこそ、そう言い出せず頭を悩ませる。
「悩むことの程でもあるまい。ウロボロスがこんなヘマをするはずがないのじゃ」
だが、カルマはその悩みをバッサリと切り捨てる。そもそもだ。仮にウロボロスがもう目覚めて出かけていたとしても、ファントム・シーカーを殺害するなんて考えられない。そんな反逆行為をするはずがない、という感情的な話ではない。あれらは全てユウへと通じている。当然、殺されればユウへ通知がいく。キル・カメラ、つまり、ファントム・シーカーたちが最期に見た光景と共に情報が送られるのだ。例え倒したのが1体だろうとも居場所が露見してしまうのだから、ユウを釣り出すつもりでもない限り、こんなヘマはしないだろう。
「それに、魔王様がおらぬのじゃ。まず間違いなく、ウロボロスと会って大切な話をしておるのじゃろう」
それにファントム・シーカーが殺されたという通知は、敵が明確な敵意を持って攻め込んで来たという警報でもある。そんな一大事に姿を見せないということは、もっと大事な何かをしているということ。あの安全第一、身の保全を何よりも重んじるユウがそうするのは、今ならば、ウロボロスと会っている以外にあり得ないのである。
「一応、まだお部屋にいるか確認に行ってきますか?」
「フェンリス、それは俗に言う野暮なことじゃ。やめておくがよい」
「そうなんですか? わかりました」
純真無垢なフェンリスはわかったと言ったものの小首を傾げており、本気で理解できていないのだが、今はそんな大人の空気の読み方を指導する暇はない。あれがウロボロス本人でないとしても、敵がこちらへ迫って来ているのは事実なのだ。まずはあれの対処法を検討しなければならない。
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