魔王と配下の英雄譚

るちぇ。

文字の大きさ
上 下
58 / 176
第1章 偽りの騎士

第10話 眠り姫は置いておいて 4

しおりを挟む
 そうとわかれば話は少し変わる。これまではルーチェとの約束を果たすために、と考えていたが、アデルへのせめてもの罪滅ぼしのためにも、なるべく急いでセッティングしてあげたい。

「そ、そうか。なら急いで場所を用意する――」
「――今じゃ駄目なんですか!?」

 さっきまでも大概なのに、それを上回る鬼気迫る勢いだ。アデルってこんなに積極的な子だったのか。俺と接している時は外行きの顔で、特に親しい人が絡むとこうなると。いや、それとは別に何か理由があるのは確実なのだ。あのアデルが、こんなにも身を乗り出して、目に涙を浮かべて、これでもかと必死にお願いする。それくらいの何かがあるのだ。

「き、気持ちはわかるけど……」

 だからこそ応えてあげたいのだが、生憎とそうもいかない。肝心のルーチェが目を覚まさないからだ。いや、いっそ寝たままでも再会させていい気もする。これだけ互いにがっついているのだから。
 いい気もするのだが、どうしてだろう。心の中で引っかかっている。ロアの言葉が。「アデルに気を付けろ」という警告が。それに俺は見ている。アデルがまるで別人のようになってしまった瞬間を。そして聞いている。その直前の「もう私を信じないで」というお願いを。あれらの謎を解明するまでは、今度は逆に、ルーチェのことを守ってやらなくてはならない状況なのだ。

「お願いします! 今でないと、私……私……っ!」
「どうなるんだ?」
「そ……それは……」

 この様子だと、恐らく今のアデルは俺の知っているアデルなのだろう。その理由までは教えてくれないようだが、もしかすると、あの別人のような状態になることを恐れているのかもしれない。だから完全に取って代わられる前に、友達に会いたくて取り乱していると。うーん、無理やり過ぎるな。いや、会いたいという気持ちはわからないでもないが、ここまで強く出るだろうか。何かしら別に理由があると考える方が自然だろう。
 全く根拠の無い話だが、こう考えればどうだろう。ルーチェはこの事態を打開する手段を持っている、もしくは情報を有している。だから一刻も早くアデルに会いたがっていた。こんな具合の方がずっと納得できそうではないだろうか。

「なぁ、ウロボロス。どうすればいいと思う?」
「……えっ」

 何の根拠も無い話で、ともすると全てを狂わせかねないこの選択を単独で決めるのはよそう。そう思って聞いてみたのだが、ウロボロスの目はどこか虚ろで、ここまでの話を聞いていないようだった。顔を覗き込むと明らかに顔色が悪い。カルマに言われたことを気にしていたのだろう。

「申し訳ありません、もう一度お聞かせ願えないでしょうか?」

 もう聞いてしまった以上叶わない望みだが、負担をかけないためには意見を求めない方が良かったのかもしれないな。いや、女々しいかもしれないが、今からでも遅くないかもしれない。忘れろと強く言えば負担を減らせるかもしれない。いやいや、それこそあり得ないか。普通に接すると決めたんだ。普通。それは、普段と同じように疑問に思ったことをウロボロスに投げかけて意見を貰う。このやり取りもあってこそ成り立つものだ。ならば貫き通さなくてはならないか。

「え、えーと、アデルとルーチェを会わせてあげたいんだけど、どうしようかなって」
「日を改めるべきです。ルーチェはまだ眠っていますから。なんでしたら、私が――」

 そう答えてくれた直後だった。余りにも突然のことに驚いたのだろう。そんな冷静な分析ができるくらい頭は冴えているはずなのに、体は動いてくれなかった。景色はとてもゆっくりだ。まるでスロー再生を見せられているようで、ゆっくり、ゆっくりと、しかし確実に、ウロボロスは地面へ倒れ込んでいった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

排泄時に幼児退行しちゃう系便秘彼氏

mm
ファンタジー
便秘の彼氏(瞬)をもつ私(紗歩)が彼氏の排泄を手伝う話。 排泄表現多数あり R15

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。 だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。 そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。 全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。 気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。 そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。 すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。

性欲排泄欲処理系メイド 〜三大欲求、全部満たします〜

mm
ファンタジー
私はメイドのさおり。今日からある男性のメイドをすることになったんだけど…業務内容は「全般のお世話」。トイレもお風呂も、性欲も!? ※スカトロ表現多数あり ※作者が描きたいことを書いてるだけなので同じような内容が続くことがあります

旦那様、どうやら御子がお出来になられたようですのね ~アラフォー妻はヤンデレ夫から逃げられない⁉

Hinaki
ファンタジー
「初めまして、私あなたの旦那様の子供を身籠りました」  華奢で可憐な若い女性が共もつけずに一人で訪れた。  彼女の名はサブリーナ。  エアルドレッド帝国四公の一角でもある由緒正しいプレイステッド公爵夫人ヴィヴィアンは余りの事に瞠目してしまうのと同時に彼女の心の奥底で何時かは……と覚悟をしていたのだ。  そうヴィヴィアンの愛する夫は艶やかな漆黒の髪に皇族だけが持つ緋色の瞳をした帝国内でも上位に入るイケメンである。  然もである。  公爵は28歳で青年と大人の色香を併せ持つ何とも微妙なお年頃。    一方妻のヴィヴィアンは取り立てて美人でもなく寧ろ家庭的でぽっちゃりさんな12歳年上の姉さん女房。  趣味は社交ではなく高位貴族にはあるまじき的なお料理だったりする。  そして十人が十人共に声を大にして言うだろう。 「まだまだ若き公爵に相応しいのは結婚をして早五年ともなるのに子も授からぬ年増な妻よりも、若くて可憐で華奢な、何より公爵の子を身籠っているサブリーナこそが相応しい」と。  ある夜遅くに帰ってきた夫の――――と言うよりも最近の夫婦だからこそわかる彼を纏う空気の変化と首筋にある赤の刻印に気づいた妻は、暫くして決意の上行動を起こすのだった。  拗らせ妻と+ヤンデレストーカー気質の夫とのあるお話です。    

処理中です...