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第1章 偽りの騎士
第10話 眠り姫は置いておいて 4
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そうとわかれば話は少し変わる。これまではルーチェとの約束を果たすために、と考えていたが、アデルへのせめてもの罪滅ぼしのためにも、なるべく急いでセッティングしてあげたい。
「そ、そうか。なら急いで場所を用意する――」
「――今じゃ駄目なんですか!?」
さっきまでも大概なのに、それを上回る鬼気迫る勢いだ。アデルってこんなに積極的な子だったのか。俺と接している時は外行きの顔で、特に親しい人が絡むとこうなると。いや、それとは別に何か理由があるのは確実なのだ。あのアデルが、こんなにも身を乗り出して、目に涙を浮かべて、これでもかと必死にお願いする。それくらいの何かがあるのだ。
「き、気持ちはわかるけど……」
だからこそ応えてあげたいのだが、生憎とそうもいかない。肝心のルーチェが目を覚まさないからだ。いや、いっそ寝たままでも再会させていい気もする。これだけ互いにがっついているのだから。
いい気もするのだが、どうしてだろう。心の中で引っかかっている。ロアの言葉が。「アデルに気を付けろ」という警告が。それに俺は見ている。アデルがまるで別人のようになってしまった瞬間を。そして聞いている。その直前の「もう私を信じないで」というお願いを。あれらの謎を解明するまでは、今度は逆に、ルーチェのことを守ってやらなくてはならない状況なのだ。
「お願いします! 今でないと、私……私……っ!」
「どうなるんだ?」
「そ……それは……」
この様子だと、恐らく今のアデルは俺の知っているアデルなのだろう。その理由までは教えてくれないようだが、もしかすると、あの別人のような状態になることを恐れているのかもしれない。だから完全に取って代わられる前に、友達に会いたくて取り乱していると。うーん、無理やり過ぎるな。いや、会いたいという気持ちはわからないでもないが、ここまで強く出るだろうか。何かしら別に理由があると考える方が自然だろう。
全く根拠の無い話だが、こう考えればどうだろう。ルーチェはこの事態を打開する手段を持っている、もしくは情報を有している。だから一刻も早くアデルに会いたがっていた。こんな具合の方がずっと納得できそうではないだろうか。
「なぁ、ウロボロス。どうすればいいと思う?」
「……えっ」
何の根拠も無い話で、ともすると全てを狂わせかねないこの選択を単独で決めるのはよそう。そう思って聞いてみたのだが、ウロボロスの目はどこか虚ろで、ここまでの話を聞いていないようだった。顔を覗き込むと明らかに顔色が悪い。カルマに言われたことを気にしていたのだろう。
「申し訳ありません、もう一度お聞かせ願えないでしょうか?」
もう聞いてしまった以上叶わない望みだが、負担をかけないためには意見を求めない方が良かったのかもしれないな。いや、女々しいかもしれないが、今からでも遅くないかもしれない。忘れろと強く言えば負担を減らせるかもしれない。いやいや、それこそあり得ないか。普通に接すると決めたんだ。普通。それは、普段と同じように疑問に思ったことをウロボロスに投げかけて意見を貰う。このやり取りもあってこそ成り立つものだ。ならば貫き通さなくてはならないか。
「え、えーと、アデルとルーチェを会わせてあげたいんだけど、どうしようかなって」
「日を改めるべきです。ルーチェはまだ眠っていますから。なんでしたら、私が――」
そう答えてくれた直後だった。余りにも突然のことに驚いたのだろう。そんな冷静な分析ができるくらい頭は冴えているはずなのに、体は動いてくれなかった。景色はとてもゆっくりだ。まるでスロー再生を見せられているようで、ゆっくり、ゆっくりと、しかし確実に、ウロボロスは地面へ倒れ込んでいった。
「そ、そうか。なら急いで場所を用意する――」
「――今じゃ駄目なんですか!?」
さっきまでも大概なのに、それを上回る鬼気迫る勢いだ。アデルってこんなに積極的な子だったのか。俺と接している時は外行きの顔で、特に親しい人が絡むとこうなると。いや、それとは別に何か理由があるのは確実なのだ。あのアデルが、こんなにも身を乗り出して、目に涙を浮かべて、これでもかと必死にお願いする。それくらいの何かがあるのだ。
「き、気持ちはわかるけど……」
だからこそ応えてあげたいのだが、生憎とそうもいかない。肝心のルーチェが目を覚まさないからだ。いや、いっそ寝たままでも再会させていい気もする。これだけ互いにがっついているのだから。
いい気もするのだが、どうしてだろう。心の中で引っかかっている。ロアの言葉が。「アデルに気を付けろ」という警告が。それに俺は見ている。アデルがまるで別人のようになってしまった瞬間を。そして聞いている。その直前の「もう私を信じないで」というお願いを。あれらの謎を解明するまでは、今度は逆に、ルーチェのことを守ってやらなくてはならない状況なのだ。
「お願いします! 今でないと、私……私……っ!」
「どうなるんだ?」
「そ……それは……」
この様子だと、恐らく今のアデルは俺の知っているアデルなのだろう。その理由までは教えてくれないようだが、もしかすると、あの別人のような状態になることを恐れているのかもしれない。だから完全に取って代わられる前に、友達に会いたくて取り乱していると。うーん、無理やり過ぎるな。いや、会いたいという気持ちはわからないでもないが、ここまで強く出るだろうか。何かしら別に理由があると考える方が自然だろう。
全く根拠の無い話だが、こう考えればどうだろう。ルーチェはこの事態を打開する手段を持っている、もしくは情報を有している。だから一刻も早くアデルに会いたがっていた。こんな具合の方がずっと納得できそうではないだろうか。
「なぁ、ウロボロス。どうすればいいと思う?」
「……えっ」
何の根拠も無い話で、ともすると全てを狂わせかねないこの選択を単独で決めるのはよそう。そう思って聞いてみたのだが、ウロボロスの目はどこか虚ろで、ここまでの話を聞いていないようだった。顔を覗き込むと明らかに顔色が悪い。カルマに言われたことを気にしていたのだろう。
「申し訳ありません、もう一度お聞かせ願えないでしょうか?」
もう聞いてしまった以上叶わない望みだが、負担をかけないためには意見を求めない方が良かったのかもしれないな。いや、女々しいかもしれないが、今からでも遅くないかもしれない。忘れろと強く言えば負担を減らせるかもしれない。いやいや、それこそあり得ないか。普通に接すると決めたんだ。普通。それは、普段と同じように疑問に思ったことをウロボロスに投げかけて意見を貰う。このやり取りもあってこそ成り立つものだ。ならば貫き通さなくてはならないか。
「え、えーと、アデルとルーチェを会わせてあげたいんだけど、どうしようかなって」
「日を改めるべきです。ルーチェはまだ眠っていますから。なんでしたら、私が――」
そう答えてくれた直後だった。余りにも突然のことに驚いたのだろう。そんな冷静な分析ができるくらい頭は冴えているはずなのに、体は動いてくれなかった。景色はとてもゆっくりだ。まるでスロー再生を見せられているようで、ゆっくり、ゆっくりと、しかし確実に、ウロボロスは地面へ倒れ込んでいった。
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