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第1章 偽りの騎士
第8話 緊急速報 6
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ただ、である。アデルは非力だ。村人たちはアデルを大切に思っているから始末となると黙っていないだろう。それこそ、クワやカマでも握って騎士と戦ったのかもしれない。だから聖戦と謳って村ごと焼き討ちにしたと。
「……一応、筋は通った気がする」
何度も言うが、アデルはステータスチェックをしても何ら特筆する点は無い。この子自体に害が無いのはほぼ確実だ。まぁ、この世界についてまだまだ疎いだけで、ひょっとしたら隠れた力が備わっているのかもしれない。だが今目の前で見えている情報から推測すればそういうこと。騎士たちが警戒していたのはアデル自身の力ではないと、そう仮定した上で続けるとするか。
「辛いことかもしれないけど、教えてくれ。アデルの父親はどういう人だったんだ?」
「私のお父さんは学者でした。魔法をよりよく運用するための科学者で、その功績が認められて四大将軍になったんです」
あぁ、これでアデルが科学技術に精通していてもおかしくなくなったな。科学者の娘だったとは。父親が喜々として話したのか、アデルが教えてとせがんだのかはわからないが、そのどっちもあり得そうだ。
なるほどと納得していると、アデルの目に涙が浮かび始めるのに気付く。
「でも……殺されたんです。あの大災厄の後、必死に戦っていたのに……」
「もういい、もういいよ、アデル。貴重な話をありがとう」
俺にはこれ以上聞けない。大人びているからと色々踏み込んでしまったけど、アデルはまだ16歳だ。しかも父親の死因は病死や戦死じゃなくて、殺されたという。大災厄に立ち向かおうとしていた父親が、国のために働いていたのに殺された。悲しまないはずがないじゃないか。そう簡単に割り切れるはずがないじゃないか。それなのにズカズカと、くそ、人として最低だ。
「いえ、よくありません。アデル、それはとても重要な話です」
いつの間に話に戻って来ていたのか、ウロボロスが割って入って来た。
信じられなかった。ウロボロスは弱い者の悲しみをよく理解してくれるものだと思っていたのに、まさか、よりにもよってこんな悲し気なアデルの一番痛いところを容赦なく抉るなんて。
「ウロボロス! もう、今はいいだろ――」
グッと、強く手を握られる。ウロボロスが手を繋いでいた。痛い。ギリギリと強く握り締められていて、皮膚が紫色に変色しても一向に離そうとしてくれない。
その顔色は悪かった。顔が青冷めていて、今にも倒れそうな程に辛そうにしている。それでも絶対に譲れない、任せろと言わんばかりに、手を離してはくれなかった。
「御身の辛いことは私が代わりましょう。これは我が君の……そして、私たちにとっても大切な情報ですから」
「それは……その、気持ちは嬉しいけど……」
何て言えばいい。こんなに辛そうな顔をして、それでも無理を貫き通して、俺のために、皆のためにと自ら悪役を引き受けようとしてくれているのに。俺は止めていいのか、止めてどうするのか。この覚悟を打ち砕いて俺に二の句を言えるか。無理だ。ではどうしてくれる。ここで止めて、アデルの気持ちを察してあげて、それで終わりか。ふざけるな。それはウロボロスに対して余りにも失礼。侮辱。主というより、人として失格ではないか。
「……これだけは聞かせて貰いたい。大災厄。これは一体、何ですか?」
俺には止められない。でも、ウロボロスもまた俺の表情を見て察してくれたのか、手を離すとふらふらの足取りでアデルの方へ歩み寄る。そして質問を続ける。きっとこの世界の誰もがトラウマになっているはずの、大災厄について切り込む。
「私なら大丈夫です」
それに対して、アデルは涙を強引に拭って答えてくれた。真っ赤な目だ。頬は涙の痕に沿って腫れて、まだ鼻をグシュグシュとすすっている。足は震え、いや、全身が震えていて、今にも卒倒しそうで、とても大丈夫には見えない。それでも大丈夫と言い張って、グッと力を込めて立っている。
「それに……決めました。これはもう私の戦いでもあります。魔王様……どうか聞いて貰えないでしょうか?」
どうしてウロボロスも、アデルもこんなに強いんだよ。くそ、俺はどうしてこうも優柔不断なんだ。あれこれと考えを巡らせているだけで、自分は一番安全なところでぬくぬくしているだけで。こんな無様な姿を晒すために魔王になったのではない。
「……わかった。しっかりと聞かせて欲しい」
だから話を聞こう。俺から聞こう。2人の思いに報いるために。戦いとまで言い切ったアデルの思いを、過去の辛い記憶をしっかりと聞かせて貰おう。
「……一応、筋は通った気がする」
何度も言うが、アデルはステータスチェックをしても何ら特筆する点は無い。この子自体に害が無いのはほぼ確実だ。まぁ、この世界についてまだまだ疎いだけで、ひょっとしたら隠れた力が備わっているのかもしれない。だが今目の前で見えている情報から推測すればそういうこと。騎士たちが警戒していたのはアデル自身の力ではないと、そう仮定した上で続けるとするか。
「辛いことかもしれないけど、教えてくれ。アデルの父親はどういう人だったんだ?」
「私のお父さんは学者でした。魔法をよりよく運用するための科学者で、その功績が認められて四大将軍になったんです」
あぁ、これでアデルが科学技術に精通していてもおかしくなくなったな。科学者の娘だったとは。父親が喜々として話したのか、アデルが教えてとせがんだのかはわからないが、そのどっちもあり得そうだ。
なるほどと納得していると、アデルの目に涙が浮かび始めるのに気付く。
「でも……殺されたんです。あの大災厄の後、必死に戦っていたのに……」
「もういい、もういいよ、アデル。貴重な話をありがとう」
俺にはこれ以上聞けない。大人びているからと色々踏み込んでしまったけど、アデルはまだ16歳だ。しかも父親の死因は病死や戦死じゃなくて、殺されたという。大災厄に立ち向かおうとしていた父親が、国のために働いていたのに殺された。悲しまないはずがないじゃないか。そう簡単に割り切れるはずがないじゃないか。それなのにズカズカと、くそ、人として最低だ。
「いえ、よくありません。アデル、それはとても重要な話です」
いつの間に話に戻って来ていたのか、ウロボロスが割って入って来た。
信じられなかった。ウロボロスは弱い者の悲しみをよく理解してくれるものだと思っていたのに、まさか、よりにもよってこんな悲し気なアデルの一番痛いところを容赦なく抉るなんて。
「ウロボロス! もう、今はいいだろ――」
グッと、強く手を握られる。ウロボロスが手を繋いでいた。痛い。ギリギリと強く握り締められていて、皮膚が紫色に変色しても一向に離そうとしてくれない。
その顔色は悪かった。顔が青冷めていて、今にも倒れそうな程に辛そうにしている。それでも絶対に譲れない、任せろと言わんばかりに、手を離してはくれなかった。
「御身の辛いことは私が代わりましょう。これは我が君の……そして、私たちにとっても大切な情報ですから」
「それは……その、気持ちは嬉しいけど……」
何て言えばいい。こんなに辛そうな顔をして、それでも無理を貫き通して、俺のために、皆のためにと自ら悪役を引き受けようとしてくれているのに。俺は止めていいのか、止めてどうするのか。この覚悟を打ち砕いて俺に二の句を言えるか。無理だ。ではどうしてくれる。ここで止めて、アデルの気持ちを察してあげて、それで終わりか。ふざけるな。それはウロボロスに対して余りにも失礼。侮辱。主というより、人として失格ではないか。
「……これだけは聞かせて貰いたい。大災厄。これは一体、何ですか?」
俺には止められない。でも、ウロボロスもまた俺の表情を見て察してくれたのか、手を離すとふらふらの足取りでアデルの方へ歩み寄る。そして質問を続ける。きっとこの世界の誰もがトラウマになっているはずの、大災厄について切り込む。
「私なら大丈夫です」
それに対して、アデルは涙を強引に拭って答えてくれた。真っ赤な目だ。頬は涙の痕に沿って腫れて、まだ鼻をグシュグシュとすすっている。足は震え、いや、全身が震えていて、今にも卒倒しそうで、とても大丈夫には見えない。それでも大丈夫と言い張って、グッと力を込めて立っている。
「それに……決めました。これはもう私の戦いでもあります。魔王様……どうか聞いて貰えないでしょうか?」
どうしてウロボロスも、アデルもこんなに強いんだよ。くそ、俺はどうしてこうも優柔不断なんだ。あれこれと考えを巡らせているだけで、自分は一番安全なところでぬくぬくしているだけで。こんな無様な姿を晒すために魔王になったのではない。
「……わかった。しっかりと聞かせて欲しい」
だから話を聞こう。俺から聞こう。2人の思いに報いるために。戦いとまで言い切ったアデルの思いを、過去の辛い記憶をしっかりと聞かせて貰おう。
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