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第1章 偽りの騎士
第6話 怪現象の対策 3
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禍々しい扉を開け放つと、これまた星々の煌めきのような灯りに照らされながら、真っ暗闇の中にポツンと祭壇と女神像が1セットあった。他には何もない。その一角だけがぼんやりと見えている。
「やっぱり、ここにいたか」
見上げるほど大きな女神像の下で、一人の天使、いや、堕天使が祈りを捧げていた。肌は雪のように白く、藍色の長い髪と同じ色の目を持つ子だ。最大の特徴は背中にある漆黒色の毛に覆われた天使の翼だろう。
彼女はゆっくりと立ち上がると、こちらを向いた。突然の来訪だというのに驚く素振りを見せない。いや、感情というものが一切欠落した人形のような表情であった。ドミニオンズの時、つまりNPCだった頃のままであるように見える。でもウロボロスと同じように息をして、瞬きをしている。生きているのだとはっきりとわかる。
「ここは特別」
「あ……あぁ、そうだな」
綺麗だった。見惚れた。そしてこの上ない程の感動を覚えた。当然だ。俺が全てを創造したんだ。見た目も、性格設定も、能力も何もかも。しかも最初に育てた子で、一番長く戦ってきた最強のパートナーでもある。そんな子がさ、俺の思い描いた通りに動いてくれて、話しかけてくれるんだぞ。これを最高と言わずして何と言う。ぶっちゃけ生返事しか返せないくらいに動揺しているようだ。あぁ、くそ。顔が熱い。きっと耳まで真っ赤になっているんだろうな。
「お久し振りで御座います、ゼルエル様。今までこちらにいらっしゃったのですか?」
俺が何も言わないからか、ウロボロスが話しかけ始める。やや緊張した面持ち、かつ固い口調だ。俺がこんな風なんだから怒るかと思ったが、2人の関係性を考えればこれが普通だろう。ゼルエルはウロボロスの師匠であると同時に、命の恩人でもあるだろうから。
それにしても、こんな反応をするウロボロスもまた可愛いな。なんて、気を紛らわせる意味でも悠長に眺めていると、
「そうだ。ユウにはお前たちがいればいい」
ゼルエルの一言で何かが変わってしまった気がした。そんなものはないんだが、もしも空気とやらがガラスのような性質を持っていたとすれば、こう、ピシリと音を立てて、大きく亀裂が走ってしまったんじゃなかろうか。とにかく、隣から体の芯まで凍えてしまいそうなくらいの冷気が感じられる。なんだ、何がトリガーだったんだ。ゼルエルとまだ一言交わしただけじゃないか。さっきのワードの中に、一体どんな爆弾が仕込まれていたというんだ。
「我が君を名前で呼ぶなど……! いくらゼルエル様でも、そのような無礼は!」
名前で呼ぶ、と聞いて、あぁと納得する。そういえばウロボロスたちは俺を我が君、魔王としか呼んでいないな。ところがゼルエルは呼び捨てだった。俺としては別に普通な気がするけど、どうやらそれが癪に障ったらしい。
「そ……そんなに怒ることか? 名前で呼ぶくらい普通だろ?」
「な、何を仰るのですか!? 偉大なる我が君の名を口にするなど、私には到底許されません!」
そんな大それたことなんだろうか。俺としては名前で呼んで貰った方が嬉しい気もするんだが。うん、そうだ。さっきはウロボロスが恐ろしくて考えが及ばなかったけど、よくよく考えてみれば名前で呼ばれるのって嬉しいものだぞ。例えばそうだな、先輩と呼ばれるのも嬉しいものだが、彼女になった後輩から名前で呼ばれるのはそそられないだろうか。変態な俺だけかな。
とにかくだ、俺は大変に幸福を感じられる。余り遊んでいる暇は無いが良い機会だ。ゼルエルとの間に変なわだかまりができても困るし、ウロボロスにも名前で呼んで貰ってみたい。
「試しに呼んでみてくれないか?」
するとどうだろう。一体何を想像したのか、ウロボロスは耳まで真っ赤にしてしまう。真っ赤というか、灼熱色と言えばいいのか。頭から湯気でも立ち上っていそうなくらいであり、ダラダラと滝のような汗を出し始めもする。見るからに無理そうだ。そんなにハードルが高いのか、俺の名前を呼ぶっていうのは。
「で、で……では私も……ゆ……いえ、やはり、我が君を名前で呼ぶなど……あぁ、しかしフィアンセならばそれが自然で、ですがその一線を越えるのは余りにも……っ!」
「おーい、ウロボロス。大丈夫か?」
「ユウ、壊した?」
「は? いやいやいや、俺が原因か? いや原因か、たぶんそうだよなぁ」
何やら口早にブツブツと呟いた後、オーバーヒートでもしたのか、突然無反応になってしまう。目の前で手を振ってみたけど全く反応が返ってこない。突いてみる。身をよじりもしない。眉ひとつ動いていない。これはもう決まりだな。まず間違いなくフリーズしている。俺を名前で呼んで貰うのは諦めよう、そう誓った。
「やっぱり、ここにいたか」
見上げるほど大きな女神像の下で、一人の天使、いや、堕天使が祈りを捧げていた。肌は雪のように白く、藍色の長い髪と同じ色の目を持つ子だ。最大の特徴は背中にある漆黒色の毛に覆われた天使の翼だろう。
彼女はゆっくりと立ち上がると、こちらを向いた。突然の来訪だというのに驚く素振りを見せない。いや、感情というものが一切欠落した人形のような表情であった。ドミニオンズの時、つまりNPCだった頃のままであるように見える。でもウロボロスと同じように息をして、瞬きをしている。生きているのだとはっきりとわかる。
「ここは特別」
「あ……あぁ、そうだな」
綺麗だった。見惚れた。そしてこの上ない程の感動を覚えた。当然だ。俺が全てを創造したんだ。見た目も、性格設定も、能力も何もかも。しかも最初に育てた子で、一番長く戦ってきた最強のパートナーでもある。そんな子がさ、俺の思い描いた通りに動いてくれて、話しかけてくれるんだぞ。これを最高と言わずして何と言う。ぶっちゃけ生返事しか返せないくらいに動揺しているようだ。あぁ、くそ。顔が熱い。きっと耳まで真っ赤になっているんだろうな。
「お久し振りで御座います、ゼルエル様。今までこちらにいらっしゃったのですか?」
俺が何も言わないからか、ウロボロスが話しかけ始める。やや緊張した面持ち、かつ固い口調だ。俺がこんな風なんだから怒るかと思ったが、2人の関係性を考えればこれが普通だろう。ゼルエルはウロボロスの師匠であると同時に、命の恩人でもあるだろうから。
それにしても、こんな反応をするウロボロスもまた可愛いな。なんて、気を紛らわせる意味でも悠長に眺めていると、
「そうだ。ユウにはお前たちがいればいい」
ゼルエルの一言で何かが変わってしまった気がした。そんなものはないんだが、もしも空気とやらがガラスのような性質を持っていたとすれば、こう、ピシリと音を立てて、大きく亀裂が走ってしまったんじゃなかろうか。とにかく、隣から体の芯まで凍えてしまいそうなくらいの冷気が感じられる。なんだ、何がトリガーだったんだ。ゼルエルとまだ一言交わしただけじゃないか。さっきのワードの中に、一体どんな爆弾が仕込まれていたというんだ。
「我が君を名前で呼ぶなど……! いくらゼルエル様でも、そのような無礼は!」
名前で呼ぶ、と聞いて、あぁと納得する。そういえばウロボロスたちは俺を我が君、魔王としか呼んでいないな。ところがゼルエルは呼び捨てだった。俺としては別に普通な気がするけど、どうやらそれが癪に障ったらしい。
「そ……そんなに怒ることか? 名前で呼ぶくらい普通だろ?」
「な、何を仰るのですか!? 偉大なる我が君の名を口にするなど、私には到底許されません!」
そんな大それたことなんだろうか。俺としては名前で呼んで貰った方が嬉しい気もするんだが。うん、そうだ。さっきはウロボロスが恐ろしくて考えが及ばなかったけど、よくよく考えてみれば名前で呼ばれるのって嬉しいものだぞ。例えばそうだな、先輩と呼ばれるのも嬉しいものだが、彼女になった後輩から名前で呼ばれるのはそそられないだろうか。変態な俺だけかな。
とにかくだ、俺は大変に幸福を感じられる。余り遊んでいる暇は無いが良い機会だ。ゼルエルとの間に変なわだかまりができても困るし、ウロボロスにも名前で呼んで貰ってみたい。
「試しに呼んでみてくれないか?」
するとどうだろう。一体何を想像したのか、ウロボロスは耳まで真っ赤にしてしまう。真っ赤というか、灼熱色と言えばいいのか。頭から湯気でも立ち上っていそうなくらいであり、ダラダラと滝のような汗を出し始めもする。見るからに無理そうだ。そんなにハードルが高いのか、俺の名前を呼ぶっていうのは。
「で、で……では私も……ゆ……いえ、やはり、我が君を名前で呼ぶなど……あぁ、しかしフィアンセならばそれが自然で、ですがその一線を越えるのは余りにも……っ!」
「おーい、ウロボロス。大丈夫か?」
「ユウ、壊した?」
「は? いやいやいや、俺が原因か? いや原因か、たぶんそうだよなぁ」
何やら口早にブツブツと呟いた後、オーバーヒートでもしたのか、突然無反応になってしまう。目の前で手を振ってみたけど全く反応が返ってこない。突いてみる。身をよじりもしない。眉ひとつ動いていない。これはもう決まりだな。まず間違いなくフリーズしている。俺を名前で呼んで貰うのは諦めよう、そう誓った。
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