魔王と配下の英雄譚

るちぇ。

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第1章 偽りの騎士

第2話 容赦はしない 2

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 もしも何もかもがドミニオンズと同じならば、この扉の向こう、つまり外は雷雲立ち込める荒れ狂う海上に繋がっているはずだ。何も考えずに一歩踏み出せば海へ真っ逆さまである。念のため飛行魔法を俺とウロボロスにかけてから、そっと扉を開けてみる。

「外はどうなっているのか――」

 扉の隙間から眩い光が差し込んできた。この白い光は何だ。全て再現されているのなら海上は真っ暗だぞ、と思いながらうっすらと目を開けて絶句した。
 目の前には緑豊かな草原が広がっており、小動物たちが楽しそうに駆け回っていた。空は晴天。澄み渡るような青い空。爽やかな風が吹き抜けていき、緑の優しい香りがほんのりとした気がした。どんなに探しても、いや、そもそも探すのもおかしな話だが、荒れ狂う海はおろか海すら無い。雷雲も無く、大変に長閑で気持ちが良い。振り返ってみると、何もない空間にぽっかりと扉の形に穴が開いていた。

「……海はどうした、日照ったか」
「い……如何なさいますか?」

 これには流石のウロボロスも動揺を隠せないらしい。少しだけ声が震えている。
無理もない。俺と同じで海上を想像していたのだろう。それがどうだ。実際にはこんなにも平和では肩透かしもいいところ。罠なのではないかと疑ってしまいそうになる。
 念のため遥か後方を見てみれば、遠くにオラクル・ラビリンスであろう形をした巨大な城が空中に浮かんでいた。ここまではワープしたような感じらしい。このシステムは正常に動いているようだから、全くこの世界に干渉できないということはないと言える。

「す、少し歩いてみよう。何か手がかりが見つかるかもしれない。念のため、防具の装備を頼む」
「畏まりました」

 ムラクモの装備している甲冑と同じ、しかし色違いで紅色の物をウロボロスは身に着ける。これはいいものだ。単純な物理、魔法耐久を高めるならばこれ以上の装備はそうそうない。こんな草原に大した脅威は無さそうだけど、罠の可能性が無いと言い切れない以上、油断は禁物だ。
 さぁ、と改めて前を見るものの道は無い。獣道すら無い。仕方なく草花を踏み分けて歩いてみる。だが、どこを目指して歩けばいいのかわからず、立ち止まってしまう。目的地もなければ目指すべき方角すら知らない。強いて目印があるとすれば、もの凄く遠くに山がいくつか見えているくらいだ。あんなものを当てにして歩くのは骨が折れるってレベルじゃないぞ。
 困り果てていると、ウロボロスがおもむろに遠くを指さした。何かあるのだろうか。じーっと目を凝らせて見ようと努力する。

「我が君、あれは村ではありませんか?」

 村、村と言ったか、ウロボロスは。言われてみれば、確かにゴマよりも小さい何かがいくつか建っているように見えなくもない。あのひとつひとつが家だとでもいうのか。もしもそうならあの規模だ。首都や街とは呼べないが村かもしれない。

「よ、よく見つけたな。ていうか見えたな」
「お褒め頂き光栄です、我が君。しかし御身もこの程度、魔法を使えば造作も無いのでは?」
「ま……まさか……?」

 ウロボロスの目が緑の光を帯びている。あの目、俺は知っているぞ。でも、まさか、いや、ドミニオンズの能力が反映されているのならあり得るか。
 半信半疑でメニューから遠見の魔法を選んで使ってみる。すると、まるで望遠鏡を覗いたかのように、びっくりするくらいくっきりと村の様子がわかった。家は木製の壁に藁の屋根を乗せたような質素なものばかり。農村なのだろうか、大根やニンジンらしき野菜がいくつも吊るされていた。そのくらい明瞭に見えてしまい、ただただ驚く。

「ま……魔法が使える……のか」

 視界の上にライフゲージとMPゲージが表示される。目に見えないくらい僅かにMPが消費されたらしい。魔法を使った証拠である。オート・ヒール・魔のパッシブ・スキルでただちに回復し、非表示になってしまうところまで全く同じシステムらしい。

「こういうところはゲームだよなぁ……」

 視界の上に緑色のゲージが見えるなんて、普通に生活していれば絶対にあり得ない。もしも見えてしまったのなら眼科に駆け込むことをお勧めする。そんな異常現象が起こっているんだ。これがゲームでないのならやっぱり夢としか思えない。
 隣を見ると、ウロボロスの息遣いがはっきりと感じられる。とてもリアルだ。ゲームや夢とは到底思えないくらいに。

「こういうところはリアルだよなぁ……」

 この問題についてもいつかは究明しなくちゃな。ただ今は何でもいいから情報が欲しい。そのためにはあの村に接触したいところだ。もっとも言葉が通じない、そもそも敵として認識されるなどの可能性は大いにある。ならもっと近付いて建造物や暮らしぶりだけでも見られないだろうか。ある程度の文明レベルや世界観は掴めるだろうし。

「我が君、あちらをご覧ください」
「ん……人か?」

 村程ではないが結構離れたところに、黒髪の少女が1人、村とは正反対の方向へ歩いているのが見えた。人間の子だ。歳は16、7歳くらいか。知的で優しそうな雰囲気である。
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