26 / 55
本編
26.ドキドキおうちカフェ
しおりを挟む
悠とちゃんと話せた日、萌は家に帰ってすぐにリコの都合を聞いた。
「リコ、明日授業の後、園田君が家に来るけど、いい?」
「えっ?! そこまで進展したの?!」
「ち、違うよ! そ、そこまでって何?!」
「付き合ってるんじゃないの?」
「違う、違う!」
「なんだ……ヘタレだなぁ」
「え、何?」
「何でもない。私、出かける用事あるけど、2人で楽しんで」
「な、な、楽しむって何を?!」
『2人で楽しんで』というリコの言葉に萌は真っ赤になった。
「リコも一緒に園田君とコーヒー飲もうよ。用事あるなら、別の日にするよ」
「いいよ。園田君は私には用事ないんだから、お邪魔虫は出かけてるほうがいいの」
「な、何、『お邪魔虫』って?!」
萌はまた赤面してしまった。
翌日、悠との約束の時間15分前、萌は外出しようとするリコを玄関で引き留めようと頑張っていた。
「リコォ~、ほんとに出かけるの?!」
「出かけるよ。今日こそヘタレ返上してよ」
「なっ……何、ヘタレって?!」
「2人ともヘタレだよね」
「えっ?!」
リコはバイバーイと手を振って部屋を出て行った。
◇ ◇ ◇
リコが外出してから5分もしないうちに、悠が萌たちのアパートの前に到着した。萌の部屋がある3階を見上げては、スマホの時計を確認して、それを何度も繰り返した。悠が3度目にスマホを見た時、突然メッセージアプリの着信音が鳴った。
「うわっ?!」
『ヘタレ返上してね!』
「何だよ、中野さん、俺がヘタレ?!」
メッセはリコからだった。悠は、リコに届かないと分かっていても、スマホの画面に向かって文句を言ってしまった。
「よし! 行くぞ!」
気合を入れて悠はようやくアパートの中に入り、階段を昇って萌の部屋のドアの前に着いた。チャイムを押す指が震えながらボタンに近づく。悠はガチガチに緊張していた。
ピンポン――
「はぁ~い」
ドアがガチャリと開いて萌が顔を出した。
「いらっしゃい! 中に入って」
「あ、ありがと……お、お邪魔……します」
悠はキッチンの食卓でコーヒーを飲むのかなと思っていた。だけど、予想外に萌の部屋に通されて緊張がマックスになった。
萌の部屋にはソファはなくて、フローリングの上に敷いたマットの上にちゃぶ台のような小さなテーブルとクッションが置いてあった。
「どうぞ、どうぞ、座って!」
「ありがとう。あ、あの……中野さんは?」
「リコは用事があるって」
「あ、そうなんだ……」
その後、何を話していいのか、悠は分からずずっと俯いたまま、テーブルの上を眺めていた。時々チラッと上目遣いで見ると、萌ももぞもぞしているのが悠にも見えた。
「あっ、ごめん! 飲み物出してなかった! コーヒーと紅茶どっちがいい?」
「コ、コーヒーでっ」
悠は思わず声が裏返ってしまった。
「あ、あのっ! これ、ケーキ持って来たんで、中野さんと後で一緒に食べて」
「ありがとう。せっかくだから、今、一緒に食べようよ」
萌は悠からケーキの箱を受け取り、キッチンへ向かった。すぐにコーヒーをコポコポ淹れる音が聞こえ、萌がケーキを皿の上に乗せて戻ってきた。
「ありがとう。ケーキ3個買ってきてくれたんだね。残りの1個はリコにあげるね。あ、コーヒーできたみたい。ミルクと砂糖いる?」
「ミルクだけで」
「私と同じだね」
萌が持って来たコーヒーにはミルクの泡が乗っていた。
「これ、どうやったの?」
「牛乳を泡立てる機械があるんだよ。見る?」
萌はキッチンから小さいポットのように見えるミルクフォーマーを持ってきて悠に見せた。
「これに牛乳を入れて蓋をしてスイッチオンしたら泡が出来上がり! ちょっと高いけどいいよ。前は手に持って泡立てるミルク専用の電動泡立て器を使ってたんだけど、1年もしたらちゃんと回転しなくなって牛乳があんまり泡立たなくなっちゃった」
「へぇ~、そうなんだ。いいね、これ」
「でしょ?」
「触ってもいい?」
「もちろん!」
悠がテーブルの上のミルクフォーマーに手を伸ばすと、カップの縁に腕が当たり、カップが倒れてしまった。
「あっ! ごめん! こぼしちゃった! 拭くものある?」
悠は、テーブルから下にコーヒーが垂れないように手でテーブルの縁を抑えた。それでもコーヒーが垂れそうになって自分の脚をテーブルの下に入れた。
萌が布巾をキッチンから持って来た時には、悠のジーンズの上にコーヒーが垂れていた。
「あーあ、園田君のジーンズまで汚れちゃったね。ちょっと待ってて」
萌は濡らした別の布巾を持ってきて悠のジーンズを拭こうとした。
「あっ、えっ、えっ、い、いいよっ……じ、自分で、ふ、拭くっ」
萌の布巾を持っている手首を悠は掴んだ。萌と悠の顔が知らず知らずのうちに近づいていた。
「あっ、あっ、ご、ご、ごめん……」
一瞬時間が止まったようだった。2人とも自分の心臓の音が相手に聞こえるんじゃないかと思うぐらい、胸の鼓動がうるさく感じた。
「リコ、明日授業の後、園田君が家に来るけど、いい?」
「えっ?! そこまで進展したの?!」
「ち、違うよ! そ、そこまでって何?!」
「付き合ってるんじゃないの?」
「違う、違う!」
「なんだ……ヘタレだなぁ」
「え、何?」
「何でもない。私、出かける用事あるけど、2人で楽しんで」
「な、な、楽しむって何を?!」
『2人で楽しんで』というリコの言葉に萌は真っ赤になった。
「リコも一緒に園田君とコーヒー飲もうよ。用事あるなら、別の日にするよ」
「いいよ。園田君は私には用事ないんだから、お邪魔虫は出かけてるほうがいいの」
「な、何、『お邪魔虫』って?!」
萌はまた赤面してしまった。
翌日、悠との約束の時間15分前、萌は外出しようとするリコを玄関で引き留めようと頑張っていた。
「リコォ~、ほんとに出かけるの?!」
「出かけるよ。今日こそヘタレ返上してよ」
「なっ……何、ヘタレって?!」
「2人ともヘタレだよね」
「えっ?!」
リコはバイバーイと手を振って部屋を出て行った。
◇ ◇ ◇
リコが外出してから5分もしないうちに、悠が萌たちのアパートの前に到着した。萌の部屋がある3階を見上げては、スマホの時計を確認して、それを何度も繰り返した。悠が3度目にスマホを見た時、突然メッセージアプリの着信音が鳴った。
「うわっ?!」
『ヘタレ返上してね!』
「何だよ、中野さん、俺がヘタレ?!」
メッセはリコからだった。悠は、リコに届かないと分かっていても、スマホの画面に向かって文句を言ってしまった。
「よし! 行くぞ!」
気合を入れて悠はようやくアパートの中に入り、階段を昇って萌の部屋のドアの前に着いた。チャイムを押す指が震えながらボタンに近づく。悠はガチガチに緊張していた。
ピンポン――
「はぁ~い」
ドアがガチャリと開いて萌が顔を出した。
「いらっしゃい! 中に入って」
「あ、ありがと……お、お邪魔……します」
悠はキッチンの食卓でコーヒーを飲むのかなと思っていた。だけど、予想外に萌の部屋に通されて緊張がマックスになった。
萌の部屋にはソファはなくて、フローリングの上に敷いたマットの上にちゃぶ台のような小さなテーブルとクッションが置いてあった。
「どうぞ、どうぞ、座って!」
「ありがとう。あ、あの……中野さんは?」
「リコは用事があるって」
「あ、そうなんだ……」
その後、何を話していいのか、悠は分からずずっと俯いたまま、テーブルの上を眺めていた。時々チラッと上目遣いで見ると、萌ももぞもぞしているのが悠にも見えた。
「あっ、ごめん! 飲み物出してなかった! コーヒーと紅茶どっちがいい?」
「コ、コーヒーでっ」
悠は思わず声が裏返ってしまった。
「あ、あのっ! これ、ケーキ持って来たんで、中野さんと後で一緒に食べて」
「ありがとう。せっかくだから、今、一緒に食べようよ」
萌は悠からケーキの箱を受け取り、キッチンへ向かった。すぐにコーヒーをコポコポ淹れる音が聞こえ、萌がケーキを皿の上に乗せて戻ってきた。
「ありがとう。ケーキ3個買ってきてくれたんだね。残りの1個はリコにあげるね。あ、コーヒーできたみたい。ミルクと砂糖いる?」
「ミルクだけで」
「私と同じだね」
萌が持って来たコーヒーにはミルクの泡が乗っていた。
「これ、どうやったの?」
「牛乳を泡立てる機械があるんだよ。見る?」
萌はキッチンから小さいポットのように見えるミルクフォーマーを持ってきて悠に見せた。
「これに牛乳を入れて蓋をしてスイッチオンしたら泡が出来上がり! ちょっと高いけどいいよ。前は手に持って泡立てるミルク専用の電動泡立て器を使ってたんだけど、1年もしたらちゃんと回転しなくなって牛乳があんまり泡立たなくなっちゃった」
「へぇ~、そうなんだ。いいね、これ」
「でしょ?」
「触ってもいい?」
「もちろん!」
悠がテーブルの上のミルクフォーマーに手を伸ばすと、カップの縁に腕が当たり、カップが倒れてしまった。
「あっ! ごめん! こぼしちゃった! 拭くものある?」
悠は、テーブルから下にコーヒーが垂れないように手でテーブルの縁を抑えた。それでもコーヒーが垂れそうになって自分の脚をテーブルの下に入れた。
萌が布巾をキッチンから持って来た時には、悠のジーンズの上にコーヒーが垂れていた。
「あーあ、園田君のジーンズまで汚れちゃったね。ちょっと待ってて」
萌は濡らした別の布巾を持ってきて悠のジーンズを拭こうとした。
「あっ、えっ、えっ、い、いいよっ……じ、自分で、ふ、拭くっ」
萌の布巾を持っている手首を悠は掴んだ。萌と悠の顔が知らず知らずのうちに近づいていた。
「あっ、あっ、ご、ご、ごめん……」
一瞬時間が止まったようだった。2人とも自分の心臓の音が相手に聞こえるんじゃないかと思うぐらい、胸の鼓動がうるさく感じた。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
【完結】お父様。私、悪役令嬢なんですって。何ですかそれって。
紅月
恋愛
小説家になろうで書いていたものを加筆、訂正したリメイク版です。
「何故、私の娘が処刑されなければならないんだ」
最愛の娘が冤罪で処刑された。
時を巻き戻し、復讐を誓う家族。
娘は前と違う人生を歩み、家族は元凶へ復讐の手を伸ばすが、巻き戻す前と違う展開のため様々な事が見えてきた。
10 sweet wedding
国樹田 樹
恋愛
『十年後もお互い独身だったら、結婚しよう』 そんな、どこかのドラマで見た様な約束をした私達。 けれど十年後の今日、私は彼の妻になった。 ……そんな二人の、式後のお話。
あぁ、もう!婚約破棄された騎士がそばにいるからって、聖女にしないでください!
gacchi
恋愛
地味で目立たなかった学園生活も終わり、これからは魔術師学校の講師として人生楽しもう!と思った卒業を祝うパーティ。同じ学年だったフレッド王子が公爵令嬢に婚約破棄を言い渡し、側近騎士ユリアスの婚約者を奪った!?どこにでも馬鹿王子っているんだな…かわいそうと思ったら、ユリアスが私の生徒として魔術師学校に入学してきた!?
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
婚約者を奪われた私が悪者扱いされたので、これから何が起きても知りません
天宮有
恋愛
子爵令嬢の私カルラは、妹のミーファに婚約者ザノークを奪われてしまう。
ミーファは全てカルラが悪いと言い出し、束縛侯爵で有名なリックと婚約させたいようだ。
屋敷を追い出されそうになって、私がいなければ領地が大変なことになると説明する。
家族は信じようとしないから――これから何が起きても、私は知りません。
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
【完結】あなたのいない世界、うふふ。
やまぐちこはる
恋愛
17歳のヨヌク子爵家令嬢アニエラは栗毛に栗色の瞳の穏やかな令嬢だった。近衛騎士で伯爵家三男、かつ騎士爵を賜るトーソルド・ロイリーと幼少から婚約しており、成人とともに政略的な結婚をした。
しかしトーソルドには恋人がおり、結婚式のあと、初夜を迎える前に出たまま戻ることもなく、一人ロイリー騎士爵家を切り盛りするはめになる。
とはいえ、アニエラにはさほどの不満はない。結婚前だって殆ど会うこともなかったのだから。
===========
感想は一件づつ個別のお返事ができなくなっておりますが、有り難く拝読しております。
4万文字ほどの作品で、最終話まで予約投稿済です。お楽しみいただけましたら幸いでございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる