素直になればよかった

田鶴

文字の大きさ
上 下
25 / 55
本編

25.カフェにて

しおりを挟む
「おはよう、園田君!」

「あ、おはよう……中野さん、佐藤さん」

「お、おはよ……」

 キャンパスで悠はリコに速攻挨拶されたけど、悠と萌はまだぎくしゃくしていた。

「あ、あ、あの、佐藤さん……今日、授業何コマある?」

「4限で終わりだよ」

「じゃ……じゃあ、4限後、ちょっと……じ、時間ある?」

 悠が萌と4限後に待ち合わせしたのは、初めて2人きりで会ったカフェ『ムーンバックス』だ。萌は2人掛けのテーブルに悠を見つけて話しかけた。

「お、お待たせ。待ったよね?」

「ううん、今、来たとこ」

「あの、コーヒー注文してくるね」

 悠のコーヒーはもう目の前にあった。普通のカフェだったら、待ち合わせ相手が来るまで注文しないで待っていてもOKだけど、『ムーンバックス』は混んでいて席をとったらすぐに注文しなければならないのだ。

 しばらくして萌がコーヒーを持って戻ってきた後、2人とも話し始めるきっかけを中々つかめなかった。きまりが悪い無言がしばらく続いた後、悠が勇気を出して話しかけた。

「あ、あっ、あのっ……この間、感じ悪くて……ごめん」

「この間って?」

「この間の飲み会の件で……」

「ああ、でもあれは私の不注意で……恥ずかしかっただけだから気にしないで。私こそ、酔っ払いを介抱させてごめんなさい」

「俺のほうこそごめん。佐藤さんは被害者なのに怒鳴ったりして」

「もういいよ。気にしないで」

「佐藤さんは、優しすぎるよ。もっと周囲を警戒したほうがいい」

「そう?」

 萌が目に見えてしゅんとしたので、悠は慌てた。

「ごめん、責めるつもりはなかったんだ」

「うん、分かってる……」

 その後、悠はまた何を話していいか分からなくなってしまった。萌も下を向いてもじもじしている。しばらくして居心地の悪い無言状態をやっと破ったのは悠だった。

「あ、あ、あのっ! よかったら、また2人で会えないかな? あっ、バ、バイトとは別に!」

 悠の大きな声は裏返っていた。その様子が萌の緊張をほぐしたようだった。

「ふふふっ……じゃあ、週1くらいムーンバックスでお茶しよ?」

「週1?」

「多すぎる?」

「ち、ちがっ……もっと会い……あっ、ちがっ……その、な、何でもないよ! それでいいよ!」

「そう? でもなぁ、うーん、ムーンバックスは高いんだよね。それ以上はきついかも。それじゃ、うち来てコーヒー飲まない?」

「えっ?! いいの?! 中野さんの邪魔にならない?」

 思いがけない提案に悠の声はまた裏返っていた。

「大丈夫だよ。都合がつく日、声かけて。リコが駄目な日は駄目って言うから」

「じゃあ、明日いいかな?」

「私は大丈夫だよ。リコに聞いてみるね」

 その日、悠はなんだか地に足がついていないような、ふわふわした気持ちで萌と別れた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

粗暴で優しい幼馴染彼氏はおっとり系彼女を好きすぎる

春音優月
恋愛
おっとりふわふわ大学生の一色のどかは、中学生の時から付き合っている幼馴染彼氏の黒瀬逸希と同棲中。態度や口は荒っぽい逸希だけど、のどかへの愛は大きすぎるほど。 幸せいっぱいなはずなのに、逸希から一度も「好き」と言われてないことに気がついてしまって……? 幼馴染大学生の糖度高めなショートストーリー。 2024.03.06 イラスト:雪緒さま

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

教え子に手を出した塾講師の話

神谷 愛
恋愛
バイトしている塾に通い始めた女生徒の担任になった私は授業をし、その中で一線を越えてしまう話

百合漫画を買いに行ったら陽キャと仲良くなっていく話

たるたるたーる
恋愛
陰キャである河合睦月〈かわい むつき〉は愛読している百合漫画を買いに行く。 そこで見つけた最後の一冊。 それを手に取ろうとしたのだが、同じく買いに来た人と手が重なってしまう。 その相手はまさかの同じクラスの陽キャである百瀬愛華〈ももせ あいか〉であった。 これは一冊の本から始まる、陰キャと陽キャの物語。 ※このお話は他サイト様にも投稿させていただいております。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる

Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。 でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。 彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。

『恋愛戦国』~陰キャオタクの俺が学園の美少女達にモテだしたのには何か理由があるはずだ~

NOV
恋愛
俺の名前は竹中颯(たけなかはやて) 髪はボサボサで瓶底メガネをしている訳アリ陰キャオタクだ。 そんな中等部から友達が一人もいない様な俺が『仙石(せんごく)学園高等部』に進級した途端に各学年の美少女達から次々と告白されてしまう。 何が起こったんだ!? これは一体どういう事だ!? 俺なんかがモテる要素など何一つ無いはずなのに…… 素直に喜べるはずもないし、逆に恐怖すら感じてしまう。 きっと、こんな状況になったのには何か理由があるはずだ。 でもいくら考えても理由なんて浮かびはしない。 いずれにしても俺としては静かな学園生活をおくりたいのにこの状況は非常に迷惑だ。 なんとかしなくては…… ん? なるほどな。中等部には無かったが高等部にはこういう制度があったのか。 もしかしたらその制度が原因かも……いやでも待てよ。 本当にこの制度のせいで俺はモテているのか? うーん、まだ他に理由がある様な気がするんだが…… 学園トップクラスの美少女達が颯を彼氏にする為に必死にアプローチを始めると同時にライバル達との激しい駆け引きが巻き起こる 『竹中颯争奪戦』まさに学園内は恋愛戦国時代となった!! 果たして颯の彼女になる事ができたのは!? 笑いあり、お色気あり、そして涙あり、たくさんの謎にも包まれた陰キャ男子と美少女達との恋の駆け引きをどうぞ楽しんでください。そしてあなたは感動のラストを体験することになるでしょう!!

処理中です...