素直になればよかった

田鶴

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本編

24.纏わりつかれるのと避けられるのと

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カフェテリアで薬剤混入疑惑をぶちまけて以来、悠は真理と顔を合わせることがなくすっきりしていた。なのに朝、家を出ると真理にばったり出会った。偶然同時に家を出た体を装っているが、十中八九、真理は悠を待ち伏せしていたはずだ。

「悠!おはよう!これから大学?私も!」

悠は真理に気のない返事をし、彼女のマシンガントークを右の耳穴から左の耳穴へスルーしながら駅へ向かった。しばらく経つと、悠が聞いていないことに流石に真理も気付いた。

「ちょっと悠!あんた、聞いてるの?!」
「聞いてない」
「なっ!」

電車ではヘッドフォンをつけて音楽を聴いている振りをして話しかけたそうな真理を無視した。ちょっと罪悪感を覚えたが、また優しくすると真理は絶対頭に上って悠を顎で使おうとする。もう経験済みだ。

キャンパスに着くと、萌の姿が見えた。

「佐藤さん、おはよう!」
「あ…園田君、おはよう…」

(よかった!今日は返事してくれた!)

真理はもう親衛隊メンズに囲まれている。そこに野村はいなかったが、悠は萌に気を取られていてそこまで気が付かなかった。

この隙に萌にギクシャクしてるわけを聞こうと悠は思ってもう一度話しかけた。

「あのさ、この間…」
「授業、始まるから行くね。ごめんなさい!――リコ、早く行こう!」
「え、ちょっと萌!待ってよ!」

萌は戸惑うリコを置いて教室へ飛び込んでしまった。

(え、授業が始まるまでまだ10分あって教室はすぐそばなのに?!)

その後もなんだか避けられているみたいで大学でもバイトでも萌とちゃんと話せない。悠はどうしてなのかショックだった。

悠は、勇気を出してどうしても話を聞いて欲しいと萌に頼み込んだ。最初は渋られてショックだったけど、真剣に頼んだら話を聞いてくれた。

「俺、何か悪いことしたかな?気が付かないで何かしてたら教えて。今度から気を付けるから」
「ごめん……園田君は何も悪くない」
「でも俺のこと、避けてたよね?」
「あの…酔っぱらっちゃった時の、見られたのが恥ずかしくて…」

(なんだ!そんなこと気にしてたのか!むしろ酔っぱらって無防備になった佐藤さんはかわいかったなぁ…いや、そうじゃない!彼女が野村の毒牙にかからなくて済んで俺はうれしかったんだ!)

「でもあれは十中八九、野村のせいだろう?」
「でも用心してなかったから自業自得だし…」
「ゼミのグループで飲み物に細工する奴がいるって普通は思わないよ!」

(なんであんな奴らを庇うんだ!あれは犯罪だ!お人好し過ぎる!)

普段、温厚な悠は滅多に怒らないから、そんな人間が声を荒げると怖い。自分の権幕に萌が気圧された様子に気づいた途端、悠ははっと正気に戻って萌に謝った。

(駄目だ!これ以上、このことを話してたら野村と真理への怒りが抑えられない!)

これ以上萌を怖がらせたくないと悠は思い、萌にじゃあねと言って駅へ向かった。振り返らなかったから萌がどんな顔をしていたのか悠は知らなかった。
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