13 / 55
本編
13.降雪注意報解除後の朝
しおりを挟む
降雪注意報のあった夜のバイトの後、萌は泥のように深く寝入ったので、翌朝すっきり目が覚めた。ベッドサイドの目覚まし時計を見ると、もう8時だった。
あまりにぐっすり眠っていたので、悠が本当はチャイムを鳴らしたのではと萌は焦った。
萌はさっと身支度をしてバイト先の居酒屋へ向かった。バイトから帰る時には積もっていた雪はすっかり溶けていた。
居酒屋の表のドアは閉まっており、通用口に回ってチャイムを鳴らしたが、反応がない。
もう1度チャイムを鳴らしてしばらく待つと、ボサボサ頭の真中店長が眠そうな眼をこすりながら通用口のドアを開けた。
「あ゙~、佐藤さん……どうしたの?」
「あっ、すみません、起こしちゃいましたか?」
「いや、片づけが終わったんでもうそろそろひと寝入りしようかと思ってたところだよ」
「えっ、そんなに長く店開けてたんですか?」
「ああ、最後の客が帰ったのが1時間ちょい前かな?」
「あの……園田君はどうしましたか?」
「彼もちょっと休んだら家に帰るって」
「ちょっと話したいので、中に入っていいですか?」
萌が真中店長に許しを得て店内に入ると、悠はテーブルに突っ伏していた。
「……ん? あれ?! 佐藤さん? どうしたの?」
「ごめん、起こしちゃった?」
「いや、まだ寝てないから大丈夫」
「うちに来てひと眠りして休んでから帰ればいいのに」
「いや、そんな女の子だけの家で寝るわけにいかないよ」
「そんな遠慮しなくてもいいのに。リコだって了解してるから」
「でも中野さんは、泊りでまだ帰ってきてないんでしょ?」
「うん、多分、ホテルでゆっくりしてくるんじゃないかな」
――ピンポーン!
その時、通用口のチャイムが鳴った。真中店長が『誰だろ?』とぶつくさ言いながらドアを開けに行った。
「うちの奥さんだったよ」
真中店長は奥さんが来るとは予想していなかったようだった。
「おはようございます。真中の妻です。お疲れ様でした。朝まで大変でしたね。サンドイッチ作ってきたので、よかったら朝食にどうぞ」
「バイトの園田です。ありがたくいただきます!」
「おはようございます、バイトの佐藤です。お気遣いありがとうございます。でも私は真夜中で退勤したので、いただくわけには……」
「いいのよ、雪の夜に働いてくれたんだから。車で来たから、食べ終わったら家まで送るわよ」
朝になったら雪が溶けていたので、真中店長の奥さんは、徹夜の後に電車で帰るのは辛かろうと思って降雪注意報解除後の渋滞の中、わざわざ車で夫を迎えに来た。
真中夫妻は開店当初は店の近くに住んでいたのだが、子供ができたのをきっかけに郊外の一軒家を買って引っ越した。店長は出勤時に電車で来れても、閉店時には終電の時間を過ぎているので、引っ越し以降、店長は近くの月極駐車場を借りて車で通勤している。
でも店長はスタッドレスタイヤを持っていないし、雪の中の運転の自信がないから、昨日は車を置いて電車で来たのだ。
店から自宅が徒歩10分以内の萌は、当然のことながら送迎を辞退した。悠の家は真中夫妻の家より遠く、反対方向の千葉にある。
「店長の家って南林間でしたよね? うちと反対方向なので、電車で帰ります」
「ちょっとぐらい寄り道なんて大丈夫よ」
「でもうち、千葉なんで……」
「あら、そうなの?! でも構わないわよ?」
最初は店長の奥さんも構わないと言っていたのだが、悠の実家のある千葉に行って神奈川へ戻るのはさすがに面倒だったようで、悠が遠慮したらあっさり引いた。
真中夫妻の車を見送った後、萌は悠と別れて家路に着こうとしたが、悠がフラフラと歩いているのを見てやっぱり声をかけた。
「園田君、大丈夫? フラフラだよ?」
「あ、うん。でも電車の中で寝てくから大丈夫」
「ねえ、うちにおいでよ。休んでいったほうがいいよ」
「でも女の子の家で寝るわけには……」
「私達、友達でしょ。女の子とか、男の子とか関係ないよ」
「うーん、そっか……それじゃあ、お言葉に甘えてもいいかな?」
「もちろん!」
悠は徹夜明けが堪えているようでフラフラだったからか、案外あっさりと萌の申し出を受け入れた。
あまりにぐっすり眠っていたので、悠が本当はチャイムを鳴らしたのではと萌は焦った。
萌はさっと身支度をしてバイト先の居酒屋へ向かった。バイトから帰る時には積もっていた雪はすっかり溶けていた。
居酒屋の表のドアは閉まっており、通用口に回ってチャイムを鳴らしたが、反応がない。
もう1度チャイムを鳴らしてしばらく待つと、ボサボサ頭の真中店長が眠そうな眼をこすりながら通用口のドアを開けた。
「あ゙~、佐藤さん……どうしたの?」
「あっ、すみません、起こしちゃいましたか?」
「いや、片づけが終わったんでもうそろそろひと寝入りしようかと思ってたところだよ」
「えっ、そんなに長く店開けてたんですか?」
「ああ、最後の客が帰ったのが1時間ちょい前かな?」
「あの……園田君はどうしましたか?」
「彼もちょっと休んだら家に帰るって」
「ちょっと話したいので、中に入っていいですか?」
萌が真中店長に許しを得て店内に入ると、悠はテーブルに突っ伏していた。
「……ん? あれ?! 佐藤さん? どうしたの?」
「ごめん、起こしちゃった?」
「いや、まだ寝てないから大丈夫」
「うちに来てひと眠りして休んでから帰ればいいのに」
「いや、そんな女の子だけの家で寝るわけにいかないよ」
「そんな遠慮しなくてもいいのに。リコだって了解してるから」
「でも中野さんは、泊りでまだ帰ってきてないんでしょ?」
「うん、多分、ホテルでゆっくりしてくるんじゃないかな」
――ピンポーン!
その時、通用口のチャイムが鳴った。真中店長が『誰だろ?』とぶつくさ言いながらドアを開けに行った。
「うちの奥さんだったよ」
真中店長は奥さんが来るとは予想していなかったようだった。
「おはようございます。真中の妻です。お疲れ様でした。朝まで大変でしたね。サンドイッチ作ってきたので、よかったら朝食にどうぞ」
「バイトの園田です。ありがたくいただきます!」
「おはようございます、バイトの佐藤です。お気遣いありがとうございます。でも私は真夜中で退勤したので、いただくわけには……」
「いいのよ、雪の夜に働いてくれたんだから。車で来たから、食べ終わったら家まで送るわよ」
朝になったら雪が溶けていたので、真中店長の奥さんは、徹夜の後に電車で帰るのは辛かろうと思って降雪注意報解除後の渋滞の中、わざわざ車で夫を迎えに来た。
真中夫妻は開店当初は店の近くに住んでいたのだが、子供ができたのをきっかけに郊外の一軒家を買って引っ越した。店長は出勤時に電車で来れても、閉店時には終電の時間を過ぎているので、引っ越し以降、店長は近くの月極駐車場を借りて車で通勤している。
でも店長はスタッドレスタイヤを持っていないし、雪の中の運転の自信がないから、昨日は車を置いて電車で来たのだ。
店から自宅が徒歩10分以内の萌は、当然のことながら送迎を辞退した。悠の家は真中夫妻の家より遠く、反対方向の千葉にある。
「店長の家って南林間でしたよね? うちと反対方向なので、電車で帰ります」
「ちょっとぐらい寄り道なんて大丈夫よ」
「でもうち、千葉なんで……」
「あら、そうなの?! でも構わないわよ?」
最初は店長の奥さんも構わないと言っていたのだが、悠の実家のある千葉に行って神奈川へ戻るのはさすがに面倒だったようで、悠が遠慮したらあっさり引いた。
真中夫妻の車を見送った後、萌は悠と別れて家路に着こうとしたが、悠がフラフラと歩いているのを見てやっぱり声をかけた。
「園田君、大丈夫? フラフラだよ?」
「あ、うん。でも電車の中で寝てくから大丈夫」
「ねえ、うちにおいでよ。休んでいったほうがいいよ」
「でも女の子の家で寝るわけには……」
「私達、友達でしょ。女の子とか、男の子とか関係ないよ」
「うーん、そっか……それじゃあ、お言葉に甘えてもいいかな?」
「もちろん!」
悠は徹夜明けが堪えているようでフラフラだったからか、案外あっさりと萌の申し出を受け入れた。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
〖完結〗幼馴染みの王女様の方が大切な婚約者は要らない。愛してる? もう興味ありません。
藍川みいな
恋愛
婚約者のカイン様は、婚約者の私よりも幼馴染みのクリスティ王女殿下ばかりを優先する。
何度も約束を破られ、彼と過ごせる時間は全くなかった。約束を破る理由はいつだって、「クリスティが……」だ。
同じ学園に通っているのに、私はまるで他人のよう。毎日毎日、二人の仲のいい姿を見せられ、苦しんでいることさえ彼は気付かない。
もうやめる。
カイン様との婚約は解消する。
でもなぜか、別れを告げたのに彼が付きまとってくる。
愛してる? 私はもう、あなたに興味はありません!
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
沢山の感想ありがとうございます。返信出来ず、申し訳ありません。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
前世軍医だった傷物令嬢は、幸せな花嫁を夢見る
花雨宮琵
恋愛
侯爵令嬢のローズは、10歳のある日、背中に刀傷を負い生死の境をさまよう。
その時に見た夢で、軍医として生き、結婚式の直前に婚約者を亡くした前世が蘇る。
何とか一命を取り留めたものの、ローズの背中には大きな傷が残った。
“傷物令嬢”として揶揄される中、ローズは早々に貴族女性として生きることを諦め、隣国の帝国医学校へ入学する。
背中の傷を理由に六回も婚約を破棄されるも、18歳で隣国の医師資格を取得。自立しようとした矢先に王命による7回目の婚約が結ばれ、帰国を余儀なくされる。
7人目となる婚約者は、弱冠25歳で東の将軍となった、ヴァンドゥール公爵家次男のフェルディナンだった。
長年行方不明の想い人がいるフェルディナンと、義務ではなく愛ある結婚を夢見るローズ。そんな二人は、期間限定の条件付き婚約関係を結ぶことに同意する。
守られるだけの存在でいたくない! と思うローズは、一人の医師として自立し、同時に、今世こそは愛する人と結ばれて幸せな家庭を築きたいと願うのであったが――。
この小説は、人生の理不尽さ・不条理さに傷つき悩みながらも、幸せを求めて奮闘する女性の物語です。
※この作品は2年前に掲載していたものを大幅に改稿したものです。
(C)Elegance 2025 All Rights Reserved.無断転載・無断翻訳を固く禁じます。
わたしのことはお気になさらず、どうぞ、元の恋人とよりを戻してください。
ふまさ
恋愛
「あたし、気付いたの。やっぱりリッキーしかいないって。リッキーだけを愛しているって」
人気のない校舎裏。熱っぽい双眸で訴えかけたのは、子爵令嬢のパティだ。正面には、伯爵令息のリッキーがいる。
「学園に通いはじめてすぐに他の令息に熱をあげて、ぼくを捨てたのは、きみじゃないか」
「捨てたなんて……だって、子爵令嬢のあたしが、侯爵令息様に逆らえるはずないじゃない……だから、あたし」
一歩近付くパティに、リッキーが一歩、後退る。明らかな動揺が見えた。
「そ、そんな顔しても無駄だよ。きみから侯爵令息に言い寄っていたことも、その侯爵令息に最近婚約者ができたことも、ぼくだってちゃんと知ってるんだからな。あてがはずれて、仕方なくぼくのところに戻って来たんだろ?!」
「……そんな、ひどい」
しくしくと、パティは泣き出した。リッキーが、うっと怯む。
「ど、どちらにせよ、もう遅いよ。ぼくには婚約者がいる。きみだって知ってるだろ?」
「あたしが好きなら、そんなもの、解消すればいいじゃない!」
パティが叫ぶ。無茶苦茶だわ、と胸中で呟いたのは、二人からは死角になるところで聞き耳を立てていた伯爵令嬢のシャノン──リッキーの婚約者だった。
昔からパティが大好きだったリッキーもさすがに呆れているのでは、と考えていたシャノンだったが──。
「……そんなにぼくのこと、好きなの?」
予想もしないリッキーの質問に、シャノンは目を丸くした。対してパティは、目を輝かせた。
「好き! 大好き!」
リッキーは「そ、そっか……」と、満更でもない様子だ。それは、パティも感じたのだろう。
「リッキー。ねえ、どうなの? 返事は?」
パティが詰め寄る。悩んだすえのリッキーの答えは、
「……少し、考える時間がほしい」
だった。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる