38 / 56
番外編1 カールのその後
5.魔獣狩り
しおりを挟む
6日前、強制入隊のある男が魔獣狩り中に脚を骨折した。骨折がそれだけの期間で治る訳もなく、休みだしてから5日目、彼は添え木を付けた脚を引きずりながら荷馬車に悲壮な顔をして乗り込んだ。パンパンに腫れた脚はノロノロと歩いても激痛が走り、まだ魔獣狩りに参加できる状態ではとてもない。でも参加しなくても強制的に荷馬車に乗せられて森に放置される。それなら無理を承知で魔獣狩りに形だけでも参加して百万分の一にも満たないような生存率に賭けるのだ。
そんな男を横目で見ながら、カールや他の隊員達は、魔獣退治用に特別に交配された魔馬と馬の雑種に跨った。カールは左脚の怪我を負った当初は馬に乗るのに一苦労したが、それも訓練するうちに慣れて今や問題ない。
警備隊の一行は、基地の裏手にまわり、森に入って行った。しばらくは轍と足跡で自然にできた道に沿って移動していく。ある程度進んだ後、その道を反れて森の深部へ入って行って最近魔獣を狩っていない地帯を目指す。荷馬車が辛うじて通れるような木の間をジグザグ進み、灌木等で通れない所は隊員達が切り開く。そのため、道から外れた後、一行は牛歩のようにゆっくりと進んだ。それでも地面が凸凹しているので、荷馬車が揺れ、その度に骨折している男はうめき声を上げて御者に『うるせぇ』と文句を言われた。
そうして苦労して進んでしばらく経っても魔獣1匹たりとも見当たらない。しかたなく御者が魔獣を引き寄せる香を焚き始めた。御者はすぐに荷台に移って骨折している男に怒鳴る。
「早く降りろ!」
ノロノロと立ち上がった男に苛ついた御者は男を荷台からドカッと蹴り落とした。
「ギャーッ!」
香の匂いと男の悲鳴に惹きつけられて遠くから魔獣の遠吠えが聞こえた。その吠声から推測するに狼型の魔獣『魔狼』のようだ。隊員達の表情は緊張で一気に引き締まった。
小熊ほどあろうかという大きな魔狼がそれより小さめの魔狼を何頭も引き連れて隊員達の目の前に現れた。目はギラギラと輝き、大きな口には鋭い牙が見え、涎がだらだらと垂れている。ボスとみられる一番大きい魔獣が負傷している男を瞬時に見分けてダッと飛び掛かった。
「うわー、助けてくれー!」
男は無駄を承知で助けを呼んで叫び、恐怖のあまり失禁して失神した。バタリと倒れたその男の前にカールが乗馬したまま割り込んだ。ボス魔狼がカールの馬に飛び掛かり、首を噛もうとする。馬は辛うじて避けたが、魔狼の爪が馬の肌を裂いた。馬は痛みで暴れてカールを振り落とし、その場から逃げて行く。落馬と共にカールの古傷の右肩に激痛が走った。他にも落馬で負傷した箇所がありそうだが、魔狼との闘いの緊張と興奮で痛みを感じないのだろう。
落馬の隙を見逃さず、ボス魔狼がカールを襲ってきた。カールは落とした剣を素早く拾って脚を切り付けた。ボス魔狼は負傷してますます狂暴化し、カールは防戦一方になったが、爪がカールに届きそうな間一髪のところでボス魔狼の眉間を素早く剣で貫いた。剣を引き抜くと、ブシューッと血が噴き出て魔狼がドサッと倒れた。その間に他の隊員達も他の魔狼を倒しつつあったが、残りの魔狼は案外気が弱く、ボスが倒されたのに気付いて森の奥に逃げ戻って行った。
カールは気を失った男の頬をベチベチと叩いた。目覚めないようだったが、これ以上この場に留まるのは危険だ。魔獣は別種の魔獣を好んで喰らう。だから一度魔獣を倒すと、血の匂いに惹かれて他の魔獣が襲ってくるため、撤退が原則だ。
カールは失神したままの男から目を離し、急いで自分の倒した魔狼の左胸を切り裂いた。そして魔石となる核を取り出して持参した革袋に入れた。
カールは、魔狼を馬の背に載せて荷馬車に積み替えようと思い、自分の馬を探すと馬は荷馬車の後ろに隠れていた。負傷で興奮気味になっているが、魔馬と普通の馬の雑種は貴重なので、この程度なら安楽死させずとも基地に帰ってから手当をすることにした。
そんな男を横目で見ながら、カールや他の隊員達は、魔獣退治用に特別に交配された魔馬と馬の雑種に跨った。カールは左脚の怪我を負った当初は馬に乗るのに一苦労したが、それも訓練するうちに慣れて今や問題ない。
警備隊の一行は、基地の裏手にまわり、森に入って行った。しばらくは轍と足跡で自然にできた道に沿って移動していく。ある程度進んだ後、その道を反れて森の深部へ入って行って最近魔獣を狩っていない地帯を目指す。荷馬車が辛うじて通れるような木の間をジグザグ進み、灌木等で通れない所は隊員達が切り開く。そのため、道から外れた後、一行は牛歩のようにゆっくりと進んだ。それでも地面が凸凹しているので、荷馬車が揺れ、その度に骨折している男はうめき声を上げて御者に『うるせぇ』と文句を言われた。
そうして苦労して進んでしばらく経っても魔獣1匹たりとも見当たらない。しかたなく御者が魔獣を引き寄せる香を焚き始めた。御者はすぐに荷台に移って骨折している男に怒鳴る。
「早く降りろ!」
ノロノロと立ち上がった男に苛ついた御者は男を荷台からドカッと蹴り落とした。
「ギャーッ!」
香の匂いと男の悲鳴に惹きつけられて遠くから魔獣の遠吠えが聞こえた。その吠声から推測するに狼型の魔獣『魔狼』のようだ。隊員達の表情は緊張で一気に引き締まった。
小熊ほどあろうかという大きな魔狼がそれより小さめの魔狼を何頭も引き連れて隊員達の目の前に現れた。目はギラギラと輝き、大きな口には鋭い牙が見え、涎がだらだらと垂れている。ボスとみられる一番大きい魔獣が負傷している男を瞬時に見分けてダッと飛び掛かった。
「うわー、助けてくれー!」
男は無駄を承知で助けを呼んで叫び、恐怖のあまり失禁して失神した。バタリと倒れたその男の前にカールが乗馬したまま割り込んだ。ボス魔狼がカールの馬に飛び掛かり、首を噛もうとする。馬は辛うじて避けたが、魔狼の爪が馬の肌を裂いた。馬は痛みで暴れてカールを振り落とし、その場から逃げて行く。落馬と共にカールの古傷の右肩に激痛が走った。他にも落馬で負傷した箇所がありそうだが、魔狼との闘いの緊張と興奮で痛みを感じないのだろう。
落馬の隙を見逃さず、ボス魔狼がカールを襲ってきた。カールは落とした剣を素早く拾って脚を切り付けた。ボス魔狼は負傷してますます狂暴化し、カールは防戦一方になったが、爪がカールに届きそうな間一髪のところでボス魔狼の眉間を素早く剣で貫いた。剣を引き抜くと、ブシューッと血が噴き出て魔狼がドサッと倒れた。その間に他の隊員達も他の魔狼を倒しつつあったが、残りの魔狼は案外気が弱く、ボスが倒されたのに気付いて森の奥に逃げ戻って行った。
カールは気を失った男の頬をベチベチと叩いた。目覚めないようだったが、これ以上この場に留まるのは危険だ。魔獣は別種の魔獣を好んで喰らう。だから一度魔獣を倒すと、血の匂いに惹かれて他の魔獣が襲ってくるため、撤退が原則だ。
カールは失神したままの男から目を離し、急いで自分の倒した魔狼の左胸を切り裂いた。そして魔石となる核を取り出して持参した革袋に入れた。
カールは、魔狼を馬の背に載せて荷馬車に積み替えようと思い、自分の馬を探すと馬は荷馬車の後ろに隠れていた。負傷で興奮気味になっているが、魔馬と普通の馬の雑種は貴重なので、この程度なら安楽死させずとも基地に帰ってから手当をすることにした。
0
お気に入りに追加
18
あなたにおすすめの小説
このやってられない世界で
みなせ
ファンタジー
筋肉馬鹿にビンタをくらって、前世を思い出した。
悪役令嬢・キーラになったらしいけど、
そのフラグは初っ端に折れてしまった。
主人公のヒロインをそっちのけの、
よく分からなくなった乙女ゲームの世界で、
王子様に捕まってしまったキーラは
楽しく生き残ることができるのか。
少女漫画の当て馬女キャラに転生したけど、原作通りにはしません!
菜花
ファンタジー
亡くなったと思ったら、直前まで読んでいた漫画の中に転生した主人公。とあるキャラに成り代わっていることに気づくが、そのキャラは物凄く不遇なキャラだった……。カクヨム様でも投稿しています。
【完結】悪役令嬢の反撃の日々
アイアイ
恋愛
「ロゼリア、お茶会の準備はできていますか?」侍女のクラリスが部屋に入ってくる。
「ええ、ありがとう。今日も大勢の方々がいらっしゃるわね。」ロゼリアは微笑みながら答える。その微笑みは氷のように冷たく見えたが、心の中では別の計画を巡らせていた。
お茶会の席で、ロゼリアはいつものように優雅に振る舞い、貴族たちの陰口に耳を傾けた。その時、一人の男性が現れた。彼は王国の第一王子であり、ロゼリアの婚約者でもあるレオンハルトだった。
「ロゼリア、君の美しさは今日も輝いているね。」レオンハルトは優雅に頭を下げる。
女神に嫌われた俺に与えられたスキルは《逃げる》だった。
もる
ファンタジー
目覚めるとそこは地球とは違う世界だった。
怒る女神にブサイク認定され地上に落とされる俺はこの先生きのこることができるのか?
初投稿でのんびり書きます。
※23年6月20日追記
本作品、及び当作者の作品の名称(モンスター及び生き物名、都市名、異世界人名など作者が作った名称)を盗用したり真似たりするのはやめてください。
美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました
市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。
私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?!
しかも婚約者達との関係も最悪で……
まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!
モブはモブらしく生きたいのですっ!
このの
恋愛
公爵令嬢のローゼリアはある日前世の記憶を思い出す
そして自分は友人が好きだった乙女ゲームのたった一文しか出てこないモブだと知る!
「私は死にたくない!そして、ヒロインちゃんの恋愛を影から見ていたい!」
死亡フラグを無事折って、身分、容姿を隠し、学園に行こう!
そんなモブライフをするはずが…?
「あれ?攻略対象者の皆様、ナゼ私の所に?」
ご都合主義です。初めての投稿なので、修正バンバンします!
感想めっちゃ募集中です!
他の作品も是非見てね!
訳あり冷徹社長はただの優男でした
あさの紅茶
恋愛
独身喪女の私に、突然お姉ちゃんが子供(2歳)を押し付けてきた
いや、待て
育児放棄にも程があるでしょう
音信不通の姉
泣き出す子供
父親は誰だよ
怒り心頭の中、なしくずし的に子育てをすることになった私、橋本美咲(23歳)
これはもう、人生詰んだと思った
**********
この作品は他のサイトにも掲載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる