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本編
閑話2 初恋は実らないもの
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クラウスが出て行った後、マリオンはしばらく放心状態だった。ヨロヨロとソファの上に座り、心を落ち着かせる。1人になりたかったので、クラウスが在室中の時に部屋に控えさせた侍女は退室させた。
「あれがファーストキスなんて…酷いわ…」
マリオンの目から雫が溢れてきた。
ひとしきり泣いた後、マリオンはノロノロとソファから立ち上がって続き部屋になっている衣裳部屋へ入った。両側にはびっしりとドレスがかけられ、作り付けの棚には帽子やバッグ、靴などが収納されている。衣裳部屋の一番奥まで進むと、奥の壁に造り付けの金庫の鍵を開けた。家宝級の高価なものは父の執務室の金庫に入っているが、普段使いのアクセサリーや自家より下位の貴族主催のお茶会や夜会につけていく宝飾品はここで保管している。マリオンは、真っ二つに割れてしまった青い魔石のペンダントの入っているケースを手に取って開けた。何も覚えていないのにこのペンダントは何か気になる。
「これは誰がくれたの?カールかしら?どうして割れちゃったの?カール、貴方はどこにいるの?」
誰も答えてくれないとわかっていても疑問が口をついてでた。
「…オン、マリオン?」
掌の上に置いたペンダントをじっと見て考え込んでいたので、母が呼んでいるのに気付くのが遅れた。
「あ、お母様」
「侍女に聞いたら、貴女は部屋にいるはずと言うから、衣裳部屋かなと思ってここに来たのよ」
「ねえ、お母様。このペンダント、カールがいなくなる前にくれたのよね?割れた石を直したいわ」
「どうして?」
母は否定も肯定もしなかったが、母の質問はマリオンの疑問を肯定したようなものだった。
「カールは私の初恋だったの…」
「だからペンダントを修理させたいの?」
「クラウスと結婚するのは分かってる。でもカールとの思い出は持ってたっていいでしょう?」
「そんなことしたら辛くなるだけよ。それにクラウスさんは焼きもち焼きだからお勧めできないわ」
「クラウスとは結婚する。でも、せめてカールの思い出だけは持っていたいの。ねえ、お母様、彼はどこにいるの?教えて」
「駄目よ。会ったら余計に未練ができるでしょう?」
「今更カールと駆け落ちするとか考えてないわ。ただ、会ってちゃんと別れを言いたいだけ」
「それだけじゃ済まなくなるわよ」
「そんなことない…しちゃいけないの…」
カールは出奔1ヶ月前にマリオンに別れを告げた。でも今のマリオンにはその記憶はない。
マリオンは、自分に言い聞かせるように戒めの言葉を口にすると、心の中につかえていたものが一気に涙として溢れ出てきた。母は、涙を流す娘が痛々しくてたまらなくなり、そっと胸の中に抱き寄せた。
「お母様…私、カールと結ばれたかった…どうして彼じゃ駄目だったの?!」
マリオンは半ば分かっていたが、聞かずにはいられなかった。カールの家は、公爵家に騎士として代々仕えていたが、世襲できる爵位はなく、当主は切磋琢磨して騎士として騎士爵を賜ってきた。そんな家の息子の地位は、公爵家の婿として十分ではないし、マリオンの父が亡くなったら後ろ盾もない。
「…それに彼の両親はルチアと結婚させて彼に家を継がせるつもりだったのよ。それが貴女と結婚させられなかった一番の理由」
「え?!カールはルチアの兄でしょう?!」
「ああ、貴女、覚えていなかったのよね…」
マリオンの母は余計な事まで話してしまったと後悔した。
「お母様、お願い。教えて」
「…カールはね、よそからもらってきた子だったのよ」
「じゃあどうしてカールはルチアと結婚しなかったの?」
「さあ…妹としてしか見られなかったからじゃないの」
カールがマリオンへの想い故に義妹との結婚を拒否していたことまでマリオンが知ったら、彼女はカールをますます忘れられなくなるだろう。母は娘にこの事は話すまいと決意した。
「こんな想いを抱えたまま、結婚してもいいのかしら?クラウスの想いには応えられないもの」
「大丈夫よ。クラウスさんは貴女がカールを忘れられないことも知っているわ。それでも貴女を愛してるから、結婚したいのよ。こんなに愛されていれば、貴女も彼を愛するようになるわ」
「そうかしら…」
マリオンは大好きな母の言うことでも懐疑的だった。
「あれがファーストキスなんて…酷いわ…」
マリオンの目から雫が溢れてきた。
ひとしきり泣いた後、マリオンはノロノロとソファから立ち上がって続き部屋になっている衣裳部屋へ入った。両側にはびっしりとドレスがかけられ、作り付けの棚には帽子やバッグ、靴などが収納されている。衣裳部屋の一番奥まで進むと、奥の壁に造り付けの金庫の鍵を開けた。家宝級の高価なものは父の執務室の金庫に入っているが、普段使いのアクセサリーや自家より下位の貴族主催のお茶会や夜会につけていく宝飾品はここで保管している。マリオンは、真っ二つに割れてしまった青い魔石のペンダントの入っているケースを手に取って開けた。何も覚えていないのにこのペンダントは何か気になる。
「これは誰がくれたの?カールかしら?どうして割れちゃったの?カール、貴方はどこにいるの?」
誰も答えてくれないとわかっていても疑問が口をついてでた。
「…オン、マリオン?」
掌の上に置いたペンダントをじっと見て考え込んでいたので、母が呼んでいるのに気付くのが遅れた。
「あ、お母様」
「侍女に聞いたら、貴女は部屋にいるはずと言うから、衣裳部屋かなと思ってここに来たのよ」
「ねえ、お母様。このペンダント、カールがいなくなる前にくれたのよね?割れた石を直したいわ」
「どうして?」
母は否定も肯定もしなかったが、母の質問はマリオンの疑問を肯定したようなものだった。
「カールは私の初恋だったの…」
「だからペンダントを修理させたいの?」
「クラウスと結婚するのは分かってる。でもカールとの思い出は持ってたっていいでしょう?」
「そんなことしたら辛くなるだけよ。それにクラウスさんは焼きもち焼きだからお勧めできないわ」
「クラウスとは結婚する。でも、せめてカールの思い出だけは持っていたいの。ねえ、お母様、彼はどこにいるの?教えて」
「駄目よ。会ったら余計に未練ができるでしょう?」
「今更カールと駆け落ちするとか考えてないわ。ただ、会ってちゃんと別れを言いたいだけ」
「それだけじゃ済まなくなるわよ」
「そんなことない…しちゃいけないの…」
カールは出奔1ヶ月前にマリオンに別れを告げた。でも今のマリオンにはその記憶はない。
マリオンは、自分に言い聞かせるように戒めの言葉を口にすると、心の中につかえていたものが一気に涙として溢れ出てきた。母は、涙を流す娘が痛々しくてたまらなくなり、そっと胸の中に抱き寄せた。
「お母様…私、カールと結ばれたかった…どうして彼じゃ駄目だったの?!」
マリオンは半ば分かっていたが、聞かずにはいられなかった。カールの家は、公爵家に騎士として代々仕えていたが、世襲できる爵位はなく、当主は切磋琢磨して騎士として騎士爵を賜ってきた。そんな家の息子の地位は、公爵家の婿として十分ではないし、マリオンの父が亡くなったら後ろ盾もない。
「…それに彼の両親はルチアと結婚させて彼に家を継がせるつもりだったのよ。それが貴女と結婚させられなかった一番の理由」
「え?!カールはルチアの兄でしょう?!」
「ああ、貴女、覚えていなかったのよね…」
マリオンの母は余計な事まで話してしまったと後悔した。
「お母様、お願い。教えて」
「…カールはね、よそからもらってきた子だったのよ」
「じゃあどうしてカールはルチアと結婚しなかったの?」
「さあ…妹としてしか見られなかったからじゃないの」
カールがマリオンへの想い故に義妹との結婚を拒否していたことまでマリオンが知ったら、彼女はカールをますます忘れられなくなるだろう。母は娘にこの事は話すまいと決意した。
「こんな想いを抱えたまま、結婚してもいいのかしら?クラウスの想いには応えられないもの」
「大丈夫よ。クラウスさんは貴女がカールを忘れられないことも知っているわ。それでも貴女を愛してるから、結婚したいのよ。こんなに愛されていれば、貴女も彼を愛するようになるわ」
「そうかしら…」
マリオンは大好きな母の言うことでも懐疑的だった。
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