咎の伝記

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第5章 誰が為の善意

#51 月に啼く

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#51 月に啼く
『月に啼く』



《ステリア地方【東】》

ガッ
ドゴッ
ッドドン
パラパラ
カスタ「あれだけ啖呵切っておいて…なんだアンタその様」
ポン「……っは…っは…!!」
ボタボタ
ポン「…っつぅ……!!!」
カスタ「魔力の制限がどんなもんか知らねぇが…とことん期待はずれだ」
スッ
カスタ「もういいだろ。下手に痛ぶる趣味もない」
ババッ
ガッ
カスタ「アンタじゃ勝てねぇよ」
バキバキバキバキッ
ッドゴォォォォォォォン
ポン「――っは…!!」
パラパラ
ポン「げほっ…けほっ…ぉえ…!!」
ボタボタ
ポン(この人の……言う通りだ…悔しいけど勝てない…ッ)
カスタ「俺もまだ魔力は解放してない」
ポン「!!」
ゾクッ
カスタ「恐怖も感じるか」
ガシッ
カスタ「俺とアンタの格の違いが分かったか?」
ポン「っは…っは…油断は……厳禁…っ」
スッ
カッッ
カスタ「……」
ポン『火暴―』
バチィッ
ッドゴォォォォン
ポン「……!!!」
カスタ「言っても分かんねぇか」
スッ
ズドドドドドドドド
ッドドォォォォォォン
ポン(力…耐久…全部が理不尽クラス)
ググッ
カスタ「なんでそうまでして立つんだ?」
ポン「他の皆が…まだ戦ってるから……!!」
カスタ「へぇ。それも人に溶けた優しさってやつか」
ポン「…?」
カスタ「噂程度に聞いたよ。アンタ目の前で親友見殺しにしたんだろ」
ポン「!!!」
ゾクッ

ーーー
サンドラ「い゛き゛ろ゛…ッ」
ーーー

ポン「サン…ド……ラ」
カスタ「誰も責めやしないだろ。魔族らしいあるがままの姿だ」
ポン「違う!!!」
ゴォッ
カスタ「!」
ポン「私は…お前達と一緒じゃない……私は魔族じゃない…!!!」
ガタガタ
カスタ「…変に震えやがって。どこまで萎えさせるんだ」
ザッザッザッ
ポン(サンドラ…ごめん……違う…違うの……ごめん)
スッ
コォォォォ
ポン「来るな!!!!」
カスタ「!?」
ッドドォォォォォォン
パラパラ
カスタ「けほっ……!!」
ググッ
カスタ(なんだ今の…さっきまでの闇の比じゃなかった)
ポン「はーー…っ……はーー…っ……」
ビキッ
ポン「う…っ」
ガクッ
ポン(身体が…軋む…ッ)
カスタ「っはは……っはははははは……!!!!」
ポン「!?」
カスタ「いいな!今のは中々良かった!まだまだ実力は完全に腐り切ったわけじゃないようだな」
ポン「うぅぅ……!!」
ビキビキ
ダダッ
ポン(倒す…倒すんだ……倒さなきゃ!!)
グァッ
カスタ「――っはは」
ッドドォォォォォォン
ググッ
ポン「……ッ!!」
カスタ「もっと全力を出せよ、さっきみたいな――全力を!!!」
ッドドォォォォォォン
ポン「あぁ――っ」
カスタ「さっさと証明させろ。昔のアンタよりも俺の方が強いと」
ポン「そんなこと…証明して何になるの…ッ」
カスタ「…」
ポン「前にも…出会った。強さを求める遇者に…でもその人はそうなった過去が!経緯があった!!」
カスタ「デューイか」
ポン「!!」
カスタ「アイツも所詮強さを求めようと彷徨うだけの雑魚だ。もっと上へ上がれるミルディに引っ付いて邪魔さえしてる」
ザッザッザッ
カスタ「俺は違うんだよ。俺は強いんだ…三魔官にだって認められてる」
ガッ
ポン「うっ……」
カスタ「認められたくなる経緯が誰にでもあるわけないだろ。俺には重い理由なんかない。ただ…一緒にされたくねぇやつがいるだけだ!!」
バキバキバキバキッ
ッドゴォォォォォォォン
ポン「――ッ!!!」
カスタ「…本気を出す理由をもう少しあげようか」
ポン「…!?」
カスタ「アンタの里を襲って無様にも返り討ちにあった遇者が居たろ」
ポン(ケラ……!?)
カスタ「俺は弟だ」
ポン「!!!」
ググッ
ポン「は……?」
カスタ「俺にアンタの嫌味をガンガン伝えてきたやつも。俺が一緒くたにされたくねぇ奴も全部ケラだ。気に食わねぇんだよ」
ポン「血の繋がった…弟…!?」
カスタ「あぁ。大して強くもねぇくせに好きなのは弱い物いじめ。自分がいつだって最優先で他は格下に見てる。弱いくせにイキるあの姿が嫌いで嫌いで仕方がなかったんだ俺は」
ポン「……!!」
カスタ「これは復讐どうこうの話じゃない。どの道アンタが殺さなければ俺が殺してたさ…血筋の汚点だ」
ポン「もう……やめて」
カスタ「?」
ググッ
ポン「私はあの人が大嫌いだけど…それでも今の貴方には共感できない」
カスタ「は?」
ポン「血の繋がりがあるなら!!まず歩み寄ろうとするべきだ!!!」
カスタ「はっ…何が分かんだよアンタに…ッ」
ググッ
カスタ「強さこそが魔族の象徴なんだろうが!!弱かったら歩み云々以前の問題だ!!魔族として生きる価値がねぇんだよ!!!」
ッドゴォォォォッ
ググッ
ポン「そうだ…そうだよ……ッ」
カスタ「!」
ポン「魔族の…貴方達魔族の……そういう考えが大っ嫌いなんだ!!!」
ッドドォォォォォォン
カスタ「…っ」
ポン「例え……魔族として弱くても…種族として恥晒しと言われても」
ガシッ
ポン「私は…他人の価値を簡単に蔑むその発言が世界で1番嫌いなんだ」
カスタ「知っ……た…ことか…っ」
ググッ
ガシッ
カスタ「アンタはもう所詮……過去の亡霊だ。今更上に立って説教か?」

カスタ《空に紅が浮き上がる者アナイアディスト

ボキボキボキ
ポン「え――」
カスタ「…っはは、もう退け」
グッ
ポン「――ッ!?」
ッドドドドドドドドォォォォォォォン
ポン「あっ…ああぁぁぁ――うあぁぁぁぁあああああ――ッ!!!」
ドクドクドクドク
カスタ「腕を折られたのがそんなにショックか」
ガッ
カスタ「次はどこを折られたい。反対の腕か?足か?」
スッ
カスタ「悪いが首はラストだ……完膚なきまでに叩き潰してやるよ」
ポン「うっ……うぅ…!!!」
ポン(痛い…痛い…痛い痛い痛い……ッ)

“???”

ポン「ここ……どこ…」
ズザザ
ポン(足は…まだ……折れてない…歩ける)
ポン「誰かいる…え……!?」
スッ
サンドラ「……」
ポン「サンドラ……!!」
サンドラ「……」
ポン「なんで…ここに……というか生きて」
ビシッ
ポン「!」
サンドラ「……」
ポン「そう、だよね…私の事を恨んでるに決まってる。ごめん…」
サンドラ「……」
ブンブン
スッ
ポン「…?」
ポン(空…?)

“桜島神社”

ビカァッ
ポン「……紅い…月……」
ドクンッ
ドクンドクンドクンドクン

ポン《月夜に舞い踊る者》

ズズズズ
ゴゴゴゴゴ
カスタ「なんだ…この圧力――」
チリッ
カスタ「ッ!?」
ッドドドドドドドドォォォォォォォン
カスタ「ゲホッ…ゲホッゲホッ……くっそ…!!」
ザッザッザッ
カスタ「!」
ゾクッ
カスタ(寒気……寒気だと?俺が…アンタに恐怖してんのか…!?)
ポン「………………」
シュゥゥゥゥ
――――
ケイパン「!」
カザルミネ「どうした?大丈夫か?」
ケイパン「あ…うん!大丈夫!」
ケイパン(ポン…?)
――――
ポン「…闇が明らかに増幅していく。久しぶりな感覚」
ザッザッザッ
ヒュッ
カスタ「消え―」
ッドゴォォォォォォォン
カスタ「――っは…!!!」
バキバキバキバキッ
カスタ「…っそ…!!」
グァッ
ガシッ
カスタ「!」

ポン『火暴』

ッドドドドドドドドォォォォォォォン
カスタ「――ッ!!」
ビュッ
ガシッ
ブォンッ
カスタ「…ッ」
カスタ(くっそ…これがアイツの本気か…!?)
ポン「待ち望んでたのは貴方だ――加減はしない」
コォォォォ

ポン『魔砲』ッ!!!

ッドドドドドドドドォォォォォォォン
カスタ「か――ッ!!」
ドサッ
カスタ「ゲホッ…ゲホッゲホッ……!!!」
スッ
ポン「動かないで」
カスタ「!」
ポン「…私の勝ちでいいよね」
カスタ「俺はまだ…死んでないが……?」
ググッ
ポン「…そうだね。だけど」
シュゥゥゥゥ
ポン「それだけが決着の付け方じゃないって分かる」
カスタ「そんな力を持っててまだ…よく甘いことを言えるな」
ポン「きっと…貴方は毛嫌うだろうね。これが優しさの力だよ」
カスタ「…!!」
ググッ
カスタ「1つ…教えろ」
ポン「!」
カスタ「アンタの魔力はなんだ…どうして急に制限が解除された」
ポン「…貴方のおかげだよ」
スッ
カスタ(月…?)
ポン「私の魔力は少し特殊なんだ。発動しても出来ることは変わらない。ただ闇の貯蓄速度が上がるだけだから魔力発動中では自由に使っても枯渇することがないの」
カスタ「月がキーパーツだったのか…俺は最後の最後に墓穴を掘って―」
ドサッ
カスタ(あぁくっそ……あんだけ言って俺は負けんのか)
ポン「…戦い自体全然経験してこなかったけど貴方の強さは忘れない」
カスタ「!」
ポン「いい戦いだったと思う」
ザッザッザッ

勝者――【月姫】ポン

#51『月に啼く』“~完~”
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