上 下
305 / 649
フープ滞在記

お前達を強くするよ

しおりを挟む
 作戦から数日が経ったのでその間に起こった事を話そう。

 まず、オーブからは早速書簡が送られて来た。

 通常ならあり得ないほどの早さで送られて来た書簡には、補償と賠償が適正と言えるほどの金額が提示されていた。それと共に食料、その他の物資なども多く含まれていた。

 未だ爪痕が大きく残るフープにとって今回の提示された物は大変助かる物だった。そして何よりも口約束とはいえ不可侵条約を結べた事は大きいだろう。こちらも日程を調整して後日細かい取り決めを行う予定だ。

 アリスベルへの賠償はまだ行っていない。それに関しては私が直接行う予定だからだ。その代わり今回の件に対する謝罪の手紙は送られてきた。それと共に今回の件に関わり生き延びた騎士達を貴族から除籍、または家ごと取り潰ししたそうだ。

 この事を知らされた時、アイギスから「アリスベルはよっぽど貴女を敵に回したく無いのね」とか言われた。

 失敬な。私はそんなに怖くないぞ。

 まあ、そんな感じでアリスベルへの賠償はアイギス達と話し合いを行ったうえで決める積もりだ。

 亡くなった騎士達の遺族への保証も行った。色々と言われたが当たり前の事なので受け入れるしかない。

 それと助け出した女性達も回復に向かっているようだ。女騎士達は流石と言うべきか精神的にも大分立ち直って来ている。しかし元々村にいた女性の中には、ゴブリンの相手をさせられた子もいる為、これからも細心の注意を払ってケアをしていきたい。

 その内、アリスベルで作ったコスメ部門をフープにも出し店員を任せるのも良いかも知れない。コスメ部門ならこの世界では珍しい女性だけの職場にも出来るしね。

 後、捕まえた勇者達の処遇も決まった。

 あの二人のギフトは私が【喰吸.魂】を使い吸収した事で無くなったが、それでも今回しでかした事は看過できるものではないという事で、奴隷にした後に強制労働送りになった。

 何でも強制労働は、常にモンスターの蔓延る全線地に配属される斥候役らしく、情報を持ち帰れば御の字、死んだらそれまでという死刑の次に重い刑なのだとか。

 まっ、自業自得だね。

 因みにギフトを吸収した私は新しく【座標転移】というスキルと【魂創改者】などというスキルを手に入れました。

【座標転移】は、知っている場所なら一瞬で移動出来る能力、早く言っちゃうとルー○だよね?因みにあの勇者のように戦闘にも使えるかというと答えはNOだ。座標の指定には予め決めたポイントしか出来ないらしく、更に移動までに身動きも出来ず一分ほどの時間が掛かる。これでは流石に使えない。無念なり。

【魂創改者】は、元からあったスキル【魔獣調教】【魔物改造】【配下能力構成】の三つを含めた複合スキルらしく、更に配下にしたモンスターがレア進化する確率が上がり、私の成長に合わせて配下にしたモンスターのステータスに補正が掛かるようになるのだとか。

 これに関しては要検証って所だね。

 そして更にもう一つ。

 作戦も終わり城に帰って寝て起きたら、何と白滅鬼(絶滅種)と、いう物に進化してました。

 進化に辺り姿はあまり変わらなかったが、今まで額にあった布で隠していた小さな角が無くなり、その代わり額にクリスタルの様な物が増えた。何でも白滅鬼の角はエネルギー体の物で戦闘になるとクリスタルを核に角が現れるらしい。少し楽しみである。

 駄女神曰く、白滅鬼は半鬼人の一種らしくオーガよりも更に強力な鬼の力を宿した鬼人種という種族に入るらしい、進化深度こそホブゴブリンと同じだがその強さはオーガに勝るとの事だ。

 ゴブリンが仮に鬼人種にまで進化するとしたら、普通なら順調にいってもゴブリン→ホブゴブリン→半鬼人と進化するらしいのだが、どうやら私はすっとばして進化しているのだそうだ。余談だが疫鬼や白雷鬼などは小鬼種らしく、もっと進化すると鬼人種になるのだと言っていた。

 これも白雷鬼の影響なのかね?

 そして私が進化した白滅鬼とは、今はこの世界に存在していないらしく、鬼人種の中でも荒人神のような扱いなのだそうだ。

 特に素早さと特殊な能力に秀でた個体らしく、その辺は白雷鬼と変わらない成長の仕方だが、それに加えて魔法防御も高くなっているそうだ。更に絶滅種というのはその特徴が亜種、希少種などよりも更に強く出ているそうだ。駄女神が言うには亜種、希少種等は得意な物は得意、苦手な物は苦手とその辺が特に顕著なステータスなのだとか。まあ、その割りには皆と比べるとステータスまだ弱いけどね。

 とはいえ、これには流石の私もビックリだった。確かに進化可能とか何とか言われた気がしなくもないが、はっきり言って全く頭に入ってなかった。お陰でいつもの楽しみが減ってしまったのだよ。これまた無念なり。

 と、まあ起こった事はこんな感じな訳だ。

 そんな風にここ最近の事を思い出していた私は、今も下で集まる沢山の人達を見詰める。

「ここに居たのか。お前は行かないのか?」

「・・・私はここでいいよ」

「そうか。気にするなと言っても無駄だろうな」

「まあね。私には私のやり方があってそれはもう済んでるからね。あそこは・・・私の行く場所じゃないよ」

 そう、私が見ていた沢山の人達は今回の作戦で亡くなった兵を悼む人達だ。勇敢な兵達に対し、感謝とその行いで救われた事実を忘れない為に、そんな名目で女王自らが指揮を取り行っているものだ。

「それにさ。知ってるでしょ。私の考えは」

「そうだな。墓や葬式なんて物は亡くなった人間に対してでは無く。これからも生きていく遺族が区切りを付ける為の行為。だったか?」

「うん。あくまで私の考えは・・・だけどね。だから私にはあそこに行く権利が無いんだよ」

 ガームが死んで以来私はリンクとリンナとは会っていない。避けている訳では無くあの二人は家に閉じ籠っているそうだ。掛ける言葉もわからないし、何よりも私はガームを死なせた側の人間。リンクにもリンナにも、あそこで大切な人間の死を悼んでいる人間にも掛ける言葉は無いだろう。

 私の言葉に澪が、はぁ、とため息を吐き。面倒な奴めと吐き捨てる。

「まあいい。今回の事に関して私が何を言っても無駄だろうからな。邪魔者はさっさと去って後は任せるとするか」

「邪魔者って、んな事言って。って、オイ!」

 何なんだ?言いたい事だけ言って行きやがって。

 私が澪の行動に頭を傾げていると、またも後ろから誰かが来る気配がする。

 ガチャッと扉を開けて出て来たのは久しぶりに見るリンクとリンナの二人だった。

「ハクア様。ここに居たんですね」

「ハクア様は行かないんですか?」

「・・・ああ、私のやる事は終わったからな。それよりも何か用か?」

 罵倒なら受ける覚悟がある。

 そんな私を前に二人は互いに顔を合わせ頷くと、いきなり頭を下げ謝ってきた。

「えっと。どうした?」

「その、今まで気持ちの整理が着かなくて会うのが遅れてしまったので」

「リンナと沢山話しました。それにあの時兄ちゃんとも。だから俺達はハクア様が悪く無いって知ってます。皆、自分の仕事をやり遂げたんです。だから・・・その・・えっと、あれ?」

「ハクア様は自分の事を責めないで下さい。そんなのお兄ぃだってそれに他の人だって望んでません。だって皆、ハクア様に沢山感謝してました。だから自分の事を責めないで下さい」

 そんな事を言いに来たのか?ははっ、なんだ。

「・・・・強いな二人は・・・・うん。ありがとう」

 本当に、私なんかよりよっぽど強いな。これは私が持てなかった強さだもん。

 私の言葉を聞いた二人はまた顔を合わせると笑いだす。そして・・・。

「ハクア様。また私達に稽古を付けて下さい。ユエちゃん達みたいに」

「俺達約束したんです。兄ちゃんと。強くなって兄ちゃんの守りたかった物を守るって。だから」

「「これからもよろしくお願いいたします!」」

「うん。お前達がその強さを持ち続ける限り。私も・・・私もガームに託されたお前達を強くするよ」

「「はい!」」

 こうして三国の共同のゴブリン討伐作戦はひとまず終わったのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

凡人領主は優秀な弟妹に爵位を譲りたい〜勘違いと深読みで、何故か崇拝されるんですが、胃が痛いので勘弁してください

黄舞
ファンタジー
クライエ子爵家の長男として生まれたアークは、行方不明になった両親に代わり、新領主となった。 自分になんの才能もないことを自覚しているアークは、優秀すぎる双子の弟妹に爵位を譲りたいと思っているのだが、なぜか二人は兄を崇め奉る始末。 崇拝するものも侮るものも皆、アークの無自覚に引き起こすゴタゴタに巻き込まれ、彼の凄さ(凄くない)を思い知らされていく。 勘違い系コメディです。 主人公は初めからずっと強くならない予定です。

ゆったりおじさんの魔導具作り~召喚に巻き込んどいて王国を救え? 勇者に言えよ!~

ぬこまる
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれ異世界の食堂と道具屋で働くおじさん・ヤマザキは、武装したお姫様ハニィとともに、腐敗する王国の統治をすることとなる。 ゆったり魔導具作り! 悪者をざまぁ!! 可愛い女の子たちとのラブコメ♡ でおくる痛快感動ファンタジー爆誕!! ※表紙・挿絵の画像はAI生成ツールを使用して作成したものです。

転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店
ファンタジー
   訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。  そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。  プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。  しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。  プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。  これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。  こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。  今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。 ※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。 ※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

2年ぶりに家を出たら異世界に飛ばされた件

後藤蓮
ファンタジー
生まれてから12年間、東京にすんでいた如月零は中学に上がってすぐに、親の転勤で北海道の中高一貫高に学校に転入した。 転入してから直ぐにその学校でいじめられていた一人の女の子を助けた零は、次のいじめのターゲットにされ、やがて引きこもってしまう。 それから2年が過ぎ、零はいじめっ子に復讐をするため学校に行くことを決断する。久しぶりに家を出る決断をして家を出たまでは良かったが、学校にたどり着く前に零は突如謎の光に包まれてしまい気づいた時には森の中に転移していた。 これから零はどうなってしまうのか........。 お気に入り・感想等よろしくお願いします!!

この世界をNPCが(引っ掻き)廻してる

やもと
ファンタジー
舞台は、人気が今一つ伸びないVRMMORPGの世界。 自我に目覚め始めたNPCたちによって、ゲーム内は大混乱。 問題解決のため、奔走する運営スタッフたち。 運営×NPC×プレイヤーが織りなすコメディ。 ////////////////////////////////////////////////////// やもと、と申します。宜しくお願い致します。 誤字脱字などありました際は、ご連絡いただけますと幸いです。 週1、2回更新の予定です。

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

親友に彼女を寝取られて死のうとしてたら、異世界の森に飛ばされました。~集団転移からはぐれたけど、最高のエルフ嫁が出来たので平気です~

くろの
ファンタジー
毎日更新! 葛西鷗外(かさい おうがい)20歳。 職業 : 引きこもりニート。 親友に彼女を寝取られ、絶賛死に場所探し中の彼は突然深い森の中で目覚める。 異常な状況過ぎて、なんだ夢かと意気揚々とサバイバルを満喫する主人公。 しかもそこは魔法のある異世界で、更に大興奮で魔法を使いまくる。 だが、段々と本当に異世界に来てしまった事を自覚し青ざめる。 そんな時、突然全裸エルフの美少女と出会い―― 果たして死にたがりの彼は救われるのか。森に転移してしまったのは彼だけなのか。 サバイバル、魔法無双、復讐、甘々のヒロインと、要素だけはてんこ盛りの作品です。

アーティファクトコレクター -異世界と転生とお宝と-

一星
ファンタジー
至って普通のサラリーマン、松平善は車に跳ねられ死んでしまう。気が付くとそこはダンジョンの中。しかも体は子供になっている!? スキル? ステータス? なんだそれ。ゲームの様な仕組みがある異世界で生き返ったは良いが、こんな状況むごいよ神様。 ダンジョン攻略をしたり、ゴブリンたちを支配したり、戦争に参加したり、鳩を愛でたりする物語です。 基本ゆったり進行で話が進みます。 四章後半ごろから主人公無双が多くなり、その後は人間では最強になります。

処理中です...