上 下
601 / 649
ここで来ちゃうの龍の里編

ものすごいメスガキ感

しおりを挟む
「くっ、わかった。ならば報酬を選ばせてやる」

「ほほう」

「提示するのは三つだ」

「一つ目は吾からアーカーシャのスキルだ」

「二つ目は俺様から、戦って嬢ちゃんに必要だと思ったスキルをやる」

「そして三つ目は俺から、この俺の保有するアーカーシャ以外の全ての魔導の知識だ。この中から一つ選ばせてやる」

 ふむ。ダメ元で突いてみたらなかなかのものが出てきたな。

「アーカーシャはサンクリット語で虚空、空間、天空って意味だったか? って、ことは空間系に関する魔法体系って事か」

「ええ、そうです。加えていえばアーカーシャの知識は特異な立ち位置にあるので神々の中でもインド神話帯か、仏教帯の神しか扱えません」

「おお、レア中のレアやん!」

「二つ目のハクちゃんに必要なスキルも捨て難い所だよね。どんなものかは分からないけど、実際に戦った相手からなら、不得手の強化か得意を伸ばすか。どっちにしろ下手なものより役に立つだろうね」

 うむ。確かにその通りだ。散々嫌がらせまがいの戦い方をしたから大いに情報はあるだろう。

「三つ目の魔導の知識は言うことはないほどの報酬ですね。千の魔法を持つと言われるアジ・ダハーカの知識は多岐に渡り、その価値は何をするにしても、替え難いものでしょう」

「特にハクちゃんは研究とか大好きだからね。そっちに流用出来る知識もあるだろうし、頭の中を具現化するにはちょうどいいだろうね」

 うーん。戦闘はともかくとして、作ってみたいけど技術的に難しいのとか、魔術の知識が足らない、分からない部分結構あるんだよなぁ。もしかしそれが埋まるかも?

「で、ハクちゃんはどれ選ぶの?」

「ああ、それはもう考えてないから平気」

「そうなの?」

「うん」

 まあ、考えるまでもないからねぇ。

「でもいいなぁハクアは」

「ん、何がなんミコト?」

「えっ、だって魔導の知識もそうだけど、アーカーシャって空間系の魔法なんでしょ? 空間系の魔法は使える人が少ないから羨ましいなって」

「そうなん?」

「ええ、ハクアさんも使う空間魔法のボックスも使える人間。もとい全ての種族で見てもは少ないですよ」

 そうだったのか!? 結構普通に使ってても、あんまり人になんにも言われなかったから意識してなかった。

「んー? じゃー、ミコトは選べるならアーカーシャを選ぶ感じ?」

「あはは。そうだね。もし私が選べるならそれを選ぶかな。空間魔法は便利だし強力だから」

「なるほどなるほど。じゃあミコトはアーカーシャで決まりね」

「「「えっ?」」」

「えっ?」

 何故かテア以外の皆が首を傾げながら私を見る。

 えっと……そんな変な事言ってないよね?

「あの……ハクア? 私はアーカーシャで決まりってどういう事?」

「いや、どうも何もミコトはアーカーシャを教えて貰えば良いじゃんって事だが?」

 話が噛み合わず二人して首を傾げる。

「おいおい嬢ちゃんちょっと待てよ」

「なんでいセカンド」

「なんでい。じゃねえよ。俺様達の報酬は嬢ちゃん以外にやるつもりはねぇぜ。そもそもその嬢ちゃんにはもう既に報酬は渡しただろ?」

「いや、足らんが?」

「……足らんとはどういう意味だ」

 私の言葉にザッハークが殺気のこもった視線と共に問い掛ける。

「そのままの意味だ。あれじゃ報酬が足らん」

「巫山戯るな」

 身体が竦みあがる程のプレッシャーを叩き付け怒りを顕にするザッハーク。

「ふざけてんのはそっちだろ。正当な評価に正当な報酬を───これが試練である限りそれが当たり前であるはずだ」

「そ、そうだよ。だからその分の報酬は貰ったし」

「いやいや、だからミコトはどっちの味方なん?」

「だってハクアがめちゃくちゃ言うからつい……」

 味方が相手を庇うんですけど……。

「足んないよ。まず最初に貰った丹薬、あれは貴重な物ではあっても外でも手に入れられる参加賞に近いものだろう」

「まあ、そうなるな」

 私の言葉にファストが同意する。

「そして次の報酬が成果に対する物のはずだ」

 これにも全員が頷き話を続ける。

「ここで質問なんだが、この試練。相手として出て来るのはお前らだけじゃないだろ?」

「えっ、そうなの?」

「ああ、そうだぜ。何人か別の奴が居る」

「そうだよね。全員が全員、アジ・ダハーカみたいなすっげー強いヤツとやりあったらクリア出来る奴、少ないもんね」

「まあ、確かに俺様達が毎回出て来たらクリア出来る奴なんざ大していないからな」

「ああ、出た所で吾を倒す者も今までいない始末」

「うちの末っ子を引っ張りだせるとも思ってなかったしな」

「やっぱそうだよねー。お前ら難易度おかしいもん」

 私の言葉を聞いたザッハークもアジ・ダハーカも満更でもなさそうに聞いている。

「……じゃあやっぱおかしいよね?」

 しかし私のこの言葉を聞いた瞬間、空気がビシリと固まった。

「戦った事で丹薬。そしてセカンドを引っ張り出した事で龍神の力を活性化。じゃあ、ザッハークを引っ張り出した報酬がミコトあってもおかしくないよね?」

「い、いやいやいや、おかしいだろ!」

「そうかな? じゃあ今まで挑んだ奴に丹薬以外の報酬は渡したりしてないのかな?」

「いや、それは……」

 そう。そんなはずがないよね。

 ここまでの苦労が丹薬一個で済むのなら命をかける必要がない。資格の有無をかけてるのだとしてもこの難易度はおかしい。なら当然、他にも報酬はあったはずだ。

「神の力。それは十分な報酬のはずだ」

「いいや、今自分で言ったよな。ファストを倒せた奴は今まで居なかったって、ならセカンドを引っ張り出したその偉業はそれくらいで釣り合ってるよな」

「くっ……」

「それに私達はセカンドも降す事に成功してる。ほら、どう考えても報酬が釣り合ってないだろ? それともアジ・ダハーカという龍はその程度のヤツなのかな?」

「……不服だが、認めよう」

 ザッハークの言葉にファストとセカンドが驚く。しかし何かを言う訳ではないようだ。

「小娘。ならばお前は何を選ぶつもりだ」

「えっ、全部かっぱらうが?」

「「「ぶふっ!?」」」

「おいおいおい。今の理屈ならどう考えても二個までだろうが!? なんで報酬三つ持ってくつもりなんだよ!?」

「えっ、ほらだって私、そっちの手違いで殺されてるし。慰謝料代わりに受け取ってやるよ」 

「……横暴」

 うん。なんでミコトが引いてるのかな?

「だが!」

「だが……なに? 謝ったよね? 悪かったって認めたよね? 認めただけで殺された側が納得するとでも? それとも偉大な偉大な魔龍様になると、それだけで許されちゃうのかぁ?」

「おおぅ。姿も相まってものすごいメスガキ感」

「脅してる相手が神レベルで、脅してる内容がバカにしてるレベルでもありませんけどね」

 ちょっといま大事な所だから黙ってようか保護者共?

「んー? どうなのかなぁ? 口先だけの言葉だったらちょーガッカリなんだが?」

「このガキ……」

「おっと、偉大な魔龍様が口喧嘩に負けたから暴力に訴えちゃう? 今力も何もないただの小娘をちからで黙らせようとしちゃう?」

「やめておけ末っ子」

 一触即発の空気に待ったを掛けたのは、やはり私が予想した通りセカンドだった。

 ちっ、もう少しだったのに。

「何故だ!?」

「ここでやめれば傷が浅いからだ」

「どういう事だセカンド?」

「一言で言えば相手が悪い。俺様達に逆らう奴など今まで居なかったからな、口喧嘩等した事もない俺様達が敵う訳もない。それにこのまま好きにさせればもっと搾り取られるぞ」

 チラリと視線を向けるセカンドにニコリと笑う。

 まあ、確かにその通りだ。

 私は何も無駄に挑発をしていた訳ではない。

 私の見立てではファストは融通が利かず想定外の事態に弱く、ザッハークは挑発すれば乗ってくると思った。

 だからこそ挑発してもっと報酬を釣り上げるつもりだったが、やはりセカンドに止められてしまった。

「同じ負けるなら意味のある負けにしろ。それが最善だ」

 やっぱここまでか。

 意外に思うかも知れないが、粗野な印象があるセカンドだが、この三人の中でも一番厄介なのがこいつ。

 戦闘以外では一番厄介な相手だという見立ては、間違いではなかったようだ。

 価値のある負け方、意味のある負け方が出来る強者など厄介以外の何物でもない。

 ニコニコと笑いながら内心で舌打ちし、報酬の引き上げプランを破り捨てる私だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

凡人領主は優秀な弟妹に爵位を譲りたい〜勘違いと深読みで、何故か崇拝されるんですが、胃が痛いので勘弁してください

黄舞
ファンタジー
クライエ子爵家の長男として生まれたアークは、行方不明になった両親に代わり、新領主となった。 自分になんの才能もないことを自覚しているアークは、優秀すぎる双子の弟妹に爵位を譲りたいと思っているのだが、なぜか二人は兄を崇め奉る始末。 崇拝するものも侮るものも皆、アークの無自覚に引き起こすゴタゴタに巻き込まれ、彼の凄さ(凄くない)を思い知らされていく。 勘違い系コメディです。 主人公は初めからずっと強くならない予定です。

ゆったりおじさんの魔導具作り~召喚に巻き込んどいて王国を救え? 勇者に言えよ!~

ぬこまる
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれ異世界の食堂と道具屋で働くおじさん・ヤマザキは、武装したお姫様ハニィとともに、腐敗する王国の統治をすることとなる。 ゆったり魔導具作り! 悪者をざまぁ!! 可愛い女の子たちとのラブコメ♡ でおくる痛快感動ファンタジー爆誕!! ※表紙・挿絵の画像はAI生成ツールを使用して作成したものです。

転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店
ファンタジー
   訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。  そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。  プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。  しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。  プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。  これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。  こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。  今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。 ※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。 ※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

2年ぶりに家を出たら異世界に飛ばされた件

後藤蓮
ファンタジー
生まれてから12年間、東京にすんでいた如月零は中学に上がってすぐに、親の転勤で北海道の中高一貫高に学校に転入した。 転入してから直ぐにその学校でいじめられていた一人の女の子を助けた零は、次のいじめのターゲットにされ、やがて引きこもってしまう。 それから2年が過ぎ、零はいじめっ子に復讐をするため学校に行くことを決断する。久しぶりに家を出る決断をして家を出たまでは良かったが、学校にたどり着く前に零は突如謎の光に包まれてしまい気づいた時には森の中に転移していた。 これから零はどうなってしまうのか........。 お気に入り・感想等よろしくお願いします!!

この世界をNPCが(引っ掻き)廻してる

やもと
ファンタジー
舞台は、人気が今一つ伸びないVRMMORPGの世界。 自我に目覚め始めたNPCたちによって、ゲーム内は大混乱。 問題解決のため、奔走する運営スタッフたち。 運営×NPC×プレイヤーが織りなすコメディ。 ////////////////////////////////////////////////////// やもと、と申します。宜しくお願い致します。 誤字脱字などありました際は、ご連絡いただけますと幸いです。 週1、2回更新の予定です。

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

親友に彼女を寝取られて死のうとしてたら、異世界の森に飛ばされました。~集団転移からはぐれたけど、最高のエルフ嫁が出来たので平気です~

くろの
ファンタジー
毎日更新! 葛西鷗外(かさい おうがい)20歳。 職業 : 引きこもりニート。 親友に彼女を寝取られ、絶賛死に場所探し中の彼は突然深い森の中で目覚める。 異常な状況過ぎて、なんだ夢かと意気揚々とサバイバルを満喫する主人公。 しかもそこは魔法のある異世界で、更に大興奮で魔法を使いまくる。 だが、段々と本当に異世界に来てしまった事を自覚し青ざめる。 そんな時、突然全裸エルフの美少女と出会い―― 果たして死にたがりの彼は救われるのか。森に転移してしまったのは彼だけなのか。 サバイバル、魔法無双、復讐、甘々のヒロインと、要素だけはてんこ盛りの作品です。

アーティファクトコレクター -異世界と転生とお宝と-

一星
ファンタジー
至って普通のサラリーマン、松平善は車に跳ねられ死んでしまう。気が付くとそこはダンジョンの中。しかも体は子供になっている!? スキル? ステータス? なんだそれ。ゲームの様な仕組みがある異世界で生き返ったは良いが、こんな状況むごいよ神様。 ダンジョン攻略をしたり、ゴブリンたちを支配したり、戦争に参加したり、鳩を愛でたりする物語です。 基本ゆったり進行で話が進みます。 四章後半ごろから主人公無双が多くなり、その後は人間では最強になります。

処理中です...