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65.何故こうなった

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 私室の玄関から入ると、丁度ルーカスが店の方から駆け込んできた。

 「―――ッ!!ソニア!?ソニアですよね!?どうしたんです!?」

  わたしを見て青くなるルーカスにレドが説明すると、笑顔じゃない笑顔になる。

 「…なるほど…エドガーがやらかしたんですか…そうですか」

  おぉぅ・・・コワイ。ルーカスがコワイです。

 「…エドガー…吐け。何故こんな事になった」

  わたしたちはソファーに座り、エドガーと部下たちは床に正座させられた。




  エドガーの魔人能力は幾つかあるが、その中にとても珍しいユニーク系能力がある。

  それは“縮小”という能力で、名の通り色々なものを縮小させる事が出来る。だがこの縮小、強くてもあまり役には立たない。敵を小さく出来れば無敵な気がするが、発動までに時間がかかる上に中々の集中力を必要とする。実際の戦闘でそんな余裕はないに等しいのだ。弱いと自分で戻す事も出来ない、珍しい事が話題になるだけである。

  そして、自ら戻せもしない話題になるだけの能力を披露しようと発動させた時、ソニアが裏庭に現れて巻き込まれた。近くにいたスタッフの1人が騒ぎに気が付き、レドモンドを呼びに走った。というわけだ。

  わたしも裏庭に行った理由を聞かれ、ありのままを話した。散歩じゃなく訓練にしていたら怒られた事でしょう。あの時のワタシ、グッジョブ!

  というか・・・縮小って普通サイズが小さくなるんじゃない?幼児になるってどういう事ですか。





 「申し訳ありませんでした!」
 「「「申し訳ありませんでした!!」」」

  まずエドガーが頭を下げ、続いて部下たちも頭を下げた。正座をし、床に手をついて。いわゆる土下座、というやつだ。

  ・・・異世界で土下座を見る事になろうとはね。

 「貴様ら…覚悟は出来てるな…?」

  怒りに満ちた声と表情に震え上がり、ガチガチと歯を鳴らす部下たち。真っ青になるエドガー。

 「エドガー。大人しくしてると約束しましたよねぇ?まさか…故意じゃないなら仕方がない、な〜んて思ってませんよね?」

  もう何も言えず、ただ土下座し続ける彼らを冷ややかに見下ろす2人。

  部屋には長い沈黙が降りる。

 「・・・」
 「・・・」

  やがてレドが口を開いた。

 「…身体への影響は」
 「ありません」
 「いつ戻る」
 「2日か3日…長くて5日くらい、だと思いますが…かなり個人差があって…」

  エドガーはひれ伏したまま答えた。まあ、当然といえば当然だ。わざとでないとはいえ、ボスとNo.2の妻をこんな目に遭わせたのだ。しかも大人しくしてるから泊めてくれと頼み込んでおいて、だ。

  レドとルーカスが一瞬視線を交わす。

 「ソニア、何か言いたい事はないか?」
 「言いたい事言って良いんですよ?ブン殴ったっていいですよ?私は急所を狙うのが良いと思いますが?」
 「ああ、代わりに俺がやってやるぞ?」

  ・・・それはちょっと。ここでスプラッタは遠慮したいです。

  身体に影響はないみたいだし、わざとじゃないと言われて土下座されるとねぇ。レドとルーカスが怒ってくれたし、ここはひとつ進言だけしておこう。

 「…ちからはひとにじまんしたり、みせつけたりするものじゃないとおもう」

  ほっ、ちゃんと口が回ってくれましたよ。ここで言えなかったら恥ずかしい。・・・いや、レドの膝に抱かれてる時点でもう恥ずかしいか・・・。

 「「「「「・・・・・」」」」」

  あれ・・・皆さん何故無言?レドとルーカスを見ると、2人は顔を見合わせて深く息を吐いた。

 「ソニアの言う通りだ、エドガー。役に立つとか立たないとか関係無く、その行動自体に問題がある」
 「そうですね。女癖もですが、君のそういう所は直さないと…いつか痛い目をみますよ」

  エドガーは目を見開いてわたしを見ていたが、やがて姿勢を正して言った。

 「はい。申し訳ありませんでした」

  昨日とは違い、彼の声はとても真摯に聞こえた。

 「…全員部屋で謹慎してろ。沙汰は追って言い渡す」

  レドはそう言い放って彼らを部屋に返した。











「さて、何日か分からないが…とにかく服だな」
 「そうですね、待つしかありませんし…他はいいとして服は早急に必要ですね」

  わたしたちだけになった私室のリビングで2人が相談し始める。

 「…フェズに調達を頼むか」
 「それがいいと思います。私たちが子供服を買ったなんて周囲にバレたら、後処理が面倒です」
 「だな。ビスタをフェズの所へ使いに出せ」
 「はい。…ソニアちょっと抱っこしても良いですか?」
 「…いいけど…どしたの、きゅうに」

  何も出来ないわたしは黙って2人の話を聞いていたのだが・・・いきなり話が変わりました。

  ルーカスはわたしを座ったまま片手で抱っこして頭を撫でる。すんごい笑顔で。

 「??なに??」
 「…か…可愛いです!!ソニア、すごく可愛いです!!」
 「え…?」
 「同感だ。ひとりで外を歩いたら即誘拐されるな」

  ・・・そんなに?

 「…かがみがみたい」
 「まだ見ていないんですか?では見に行きましょうね。驚くくらい可愛いですよ!」

  超ハイテンションなルーカスに抱っこされてベッドルームに行き、鏡の前に降ろしてもらった。

  ・・・・・!!!ひぃっ!うさ耳出てるぅ!!!

  鏡を見て飛び上がるほど驚いてしまった。

  そ、そうか、幼児だから!・・・何とか隠れないかな!?

  鏡を睨みつけながら仕舞おうとするが、うさ耳は一向に隠れてくれない。

  うぅ・・・確かに可愛いけど!戻るまでコレ晒して歩くの!?恥ずかしすぎますよ!

  ・・・・・まあ、結局諦めるしか道はないんだけどね。もう一度小さな自分を見る。

  幼児ってうさ耳まで小さいんだ・・・。顔はちょっと丸く、小さくなって目が大きく感じる。手も足もぷにぷにで小さい。そしてお腹が・・・ぽこん、と出ている。ああ、幼児体型。まあ、可愛いけど。そうだ、しっぽも・・・

 カットソーだった服の裾を持ち上げようとしてハッとする。今ノーパンだった!!危なかった・・・。

  その時後ろから声が。

 「しっぽ、見ないのか?」

  レドがニヤニヤしてわたしを見ていた。ルーカスは相変わらず満面の笑みだ。

 「…みない」
 「フフッ、こんなにチビになっても恥ずかしいのか?」

  しゃがんで顔を寄せ、鏡越しに話す。

 「…はずかしい」
 「どれ、さわってみてやる」
 「ぇ!だめ!…きゃう!」

  チビのわたしに止められるわけはなく、ふにふにっ、とさわられた。

  ・・・あれ?驚いて声が出たが大人の時と違う。ただくすぐったいだけ。ぽけっとしているとルーカスも加わる。

 「では私も」

  ふにゅふにゅ。

 「ああ…しっぽまで小さくて可愛いです。…これ、捲って良いですか?」

  良いわけあるかぁ!!

 「だめっ!…って、いったのに!」

  否定しようがお構い無しにぺろん、と捲られた。

 「ああ、可愛いおしりです」
 「…可愛いな」
 「もう!レド!ルーカス!」

  怒っているのに全く迫力のない、どこか舌ったらずな幼い声がベッドルームに響いた。 
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