上 下
36 / 113

閑話 ルーカス

しおりを挟む

 数百年前、私はここからかなり遠い村に居た。ある時、その村で私の命を脅かす事件が起きた。一命は取り止めたものの、心に大きな穴を作った。その時に出会ったのがレドだ。私の心は彼に救われ、彼と共にある事を誓った。

  それ以来、彼に関する事が私の最優先事項になった。勿論恋人が居た時期もあるし、セックス経験も結構ある方だと思う。だが夢中になる程の相手はいなかったし、結婚まで考えた事も無かった。そして、女性からは決まってこう言われた。

 「あなたは優しいだけの人ね」と。

  言われてみれば確かにその通りで、相手を好きだとは思っても嫉妬やどうしようもない性欲とは無縁だった。

  そんな私には今、心惹かれる女性がいる。

  彼女はとても可愛らしい。明るく聡明で肝も坐っている。フロアでは笑顔を絶やさず、ステージで歌えば聴いた者全てを虜にする。だが負の感情を隠すのが上手く、レドにさえあまり頼らない。そこが心配で、気が付けば目で追っていた。

  最初は分からなかった。あのレドが彼女を気に入り、面白い女だと言う。だから自分も気になるのだと思っていた。

  それがあの時、一変した。

  サンドラが彼女に一方的に食ってかかり、謝れと言ったのだ。

  本来ならサンドラなど簡単に言い負かす事が出来る相手だろう。しかしそんな事はせず、ソファーでふんぞり返る身勝手な女に頭を下げて謝った。そんな彼女を見て、サンドラに強い憤りを感じた。今すぐ外へ放り出してやりたいのを何とか抑えた。せっかく穏便に済ませたのだ。今夜のステージが終わるまでは夢を見せておいてやろう。そう考えた。

  2人きりになった途端、ふれたくなった。だから謝罪のどさくさに紛れて頭を撫でた。

  閉店後サンドラを呼んで話した時、この期に及んで彼女を睨んだのを見て怒りが頂点に達した。

  そして悟った。自分は彼女を好きになったのだと。

  自覚した私は様々な初体験をした。他のスタッフと談笑しているのを見て嫉妬し、笑顔を見るだけで癒され、店にいてもふれたい衝動に駆られた。

  そんなある夜、私は決心してレドに打ち明けた。

 「レド、私はソニアさんが好きです。彼女を口説く許可をください」

  レドは彼女の最初の夫になる。そして私が最も尊敬する人である。彼の許可なしに口説く気はなかった。

 「…やはりな」

  レドは少しも驚かなかった。

 「分かっていたと?」
 「ああ、前から何となくな。確信したのはサンドラの時だ」
 「そうでしたか…」
 「口説くなら条件がある。お前が、俺と対等になる事だ」
 「え…そ、それは」
 「仕事上の事じゃない、気持ちの問題だ。俺は、お前がこうして真剣に直訴してくるなら認めたいと思っていた。俺がそう思うのはお前だけだ」
 「レド…」
 「確かにソニアを独り占めしたいと思う。だがルーカスなら。いつも後ろに居るお前が、ソニアと俺と、並んで歩くのなら…共に生きたいと思う。勿論、ソニアの気持ちが第一だ。ソニアにその気がなかったら、スッパリ諦めて部下として尽してくれ」


  “お前、俺と一緒に来い。一人はつまらないだろ?”


 あの時も、そうだった。鬼人になってしまう前に命を絶とうとまで考えていた自分を、いとも簡単に救った。

 「…はい、よろしくお願いします。ですがこの口調はもう直りませんから勘弁して下さいね」

  彼が言ってくれるのなら、そうしよう。3人、並んで歩けるように・・・。

  覚悟してくださいね、ソニアさん。 
 
しおりを挟む
感想 30

あなたにおすすめの小説

異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?

すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。 一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。 「俺とデートしない?」 「僕と一緒にいようよ。」 「俺だけがお前を守れる。」 (なんでそんなことを私にばっかり言うの!?) そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。 「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」 「・・・・へ!?」 『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!? ※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。 ※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。 ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。

美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました

市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。 私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?! しかも婚約者達との関係も最悪で…… まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!

召喚されたのに、スルーされた私

ブラックベリィ
恋愛
6人の皇子様の花嫁候補として、召喚されたようなんですけど………。 地味で影が薄い私はスルーされてしまいました。 ちなみに、召喚されたのは3人。 2人は美少女な女子高生。1人は、はい、地味な私です。 ちなみに、2人は1つ上で、私はこの春に女子高生になる予定………。 春休みは、残念異世界への入り口でした。

私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】

Lynx🐈‍⬛
恋愛
 ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。  それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。  14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。 皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。 この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。 ※Hシーンは終盤しかありません。 ※この話は4部作で予定しています。 【私が欲しいのはこの皇子】 【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】 【放浪の花嫁】 本編は99話迄です。 番外編1話アリ。 ※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

継母の心得 〜 番外編 〜

トール
恋愛
継母の心得の番外編のみを投稿しています。 【本編第一部完結済、2023/10/1〜第二部スタート☆書籍化 2024/11/22ノベル5巻、コミックス1巻同時刊行予定】

逃げて、追われて、捕まって

あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。 この世界で王妃として生きてきた記憶。 過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。 人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。 だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。 2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ 2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。 **********お知らせ*********** 2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。 それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。 ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。

処理中です...