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160.体調の変化
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雪で出発が1日順延となったが、山越えは順調に進んだ。山道は結構狭くて数㎝雪が積もっているものの、サニーとサックスには何の影響も無くパワフルに山を駆け上がってくれた。馬車同士がすれ違うのにはギリギリだと思われたが、対向馬車も来なかった。
当初の予定通り山頂付近で1泊し、この辺り特有の魔物や植物を探索。ついでにスレートのレベリングを行なっているのだが、何とその方法は武器を持たせて攻撃させるというもの。
プロテクトスライムのスレートには攻撃系のスキルが無く、攻撃方法は体当たりくらい。そこでレオンとエヴァが考えたのが小さな投げナイフでの攻撃だった。最初は教えても出来なかったが、何度も繰り返すうちに獲物に向かって投げられるようになった。 目的がレベル上げなので、魔物にトドメを刺したり傷を負わせたりする必要は無い。とにかく当たればOKだ。
こうして進める中で最も驚いたのはスレートの成長の早さ。契約した時6だったレベルはもう24まで上がっていた。数値はやはり防御だけが飛び抜けて良く、アクセサリ装備分も加算すると90ほどある。
そんなこんなでレベリングも採取も上手く行き、何事も無く山を越えて平地へと出た。
私の体調に変化が現れたのは山を降りてから5日後、次の街に到着した頃だった。
⬛️
「少し横になって」
「ん、ありがとう」
街の近くに設置したコテージ内のベッドルーム。到着時間が早かったのでいつもなら街中を回りギルドへも行ってから落ち着く所だが、気分が優れないと訴えた私のために変更してくれた。
「…何か欲しいものは?」
「今は大丈夫」
「そう?」
ベッドに横になった私の傍に座り、優しく頭を撫でてくれるエヴァ。
実は今朝から何となく怠く、馬車での移動が始まってから気分が悪くなり始めた。でも原因に心当たりはあったので、走行中夫たちに気付かれないように自分のステータスを確認した。私の見当違いだったら2人にぬか喜びさせるからだ。
結果は予想通りで、通常は無い状態という項目に“妊娠中”の文字があった。私はにやける顔を必死に引き締めたのだ。
「キラ、大丈夫か?」
「うん」
サニーとサックスの世話を終えたレオンがベッドルームに入ってきて尋ねる。彼も傍に腰掛けて手を握ってくれた。スノウとスレートはベッド脇からこちらを見上げている。
私はベッドに起き上がって夫たちに告げた。
「あのね…できたの。赤ちゃん」
話し合っていたのだからいつ妊娠してもおかしくないのに、伝える瞬間は何故かドキドキした。
「赤ちゃん…」
「うん」
驚きに目を見開いていた2人は、私が頷くと左右からふわっと抱きしめてくれる。
「こんなに早く実現するとはな…嬉しいぜ、キラ」
「オレも嬉しいよ、キラ」
喜びの言葉を聞いてホッとしていると、柔らかな笑みとともにキスが降ってきた。
ちょっとイチャついた後、2人に言われて再びベッドに横になった。ベッドで休む程ではないのだが、夫たちが心配気な表情をするのだ。
「気分が悪かったのは今日から?」
「うん。今朝から何となくおかしくて、馬車で走ってるうちに少し吐き気がしてきたの」
「…そうか。ステータスは調べたか?」
「うん、調べたよ。妊娠中になってた」
レオンとエヴァが一度顔を見合わせる。
「体調が落ち着いたら自分を診察してみて?予定日とか分かると思うから」
「診察…?あ、薬師の技?」
「そうだよ」
エヴァの話によると、通常は妊娠すると薬師の診察を受けて体調を診てもらうのだという。その時に予定日も分かるらしい。産む時は産婆さんのお世話になるのだが、それはもう少し先でも良いという事だった。
そういえば薬師には調合の他にもう一つ、最初から使える技があった。それが診察だ。診察は解析スキルの病気特化版という感じで、必要な薬や薬効成分が分かる。それを調合して処方し、病に対処する。ランクが上がるほど詳しい解析が可能になり、より対処できる病が増えるのだ。
今まで必要なかったからすっかり忘れていた。
「休んでからで良いからな?」
「うん、分かった」
私が頷くとスノウがベッドの上に飛んで来た。
「あかちゃん?あかちゃんうまれるの?いつ?たまご?スノウよりちっちゃい?」
どうやら話したいのを我慢していた様で興奮気味に質問する。
「「「…」」」
私たちは3人揃って一瞬無言になり、目をパチクリさせてしまった。
「…くくっ、たまごじゃねえよ」
「…そうなの?じゃいつ?」
「フフ…まだまだ先だよ」
「まだまだなの?それはがっくしなの…」
あからさまにシュンとするスノウ。でもすぐに気を取り直して胸を張る。
「スノウのほうがおっきいから、うまれたらよしよしするの!」
「ふふ…そうだね。スノウの方がお兄ちゃんだから、産まれたら可愛がってあげてね?」
「はいなの!」
視線を交わした私たちは、一緒に喜んでくれているスノウをとても嬉しい気持ちで見つめた。
後で診察し、予定日が9月7日だと分かった。計算してみるとまだ妊娠7日目くらいで、悪阻というのはこんなに早くから起こるものなのだと驚いた。
ヘルプしてみると悪阻は妊娠10日目くらいからひと月程続き、120日目前後から安定期だと分かった。初産はやはり予定日を過ぎる傾向にある。
夕食後に少し話し合い、取り敢えず悪阻が治るまではこの辺りに滞在する事になった。
⬛️
夜、レオハーヴェンとエヴァントは皆が寝静まった後のリビングで飲んでいた。
ウィスキーの入ったグラスをカチン、と合わせて乾杯する。
「…俺が父親か。まだ実感ねえな」
「オレもだよ。ずっと欲しいと思ってたけど、何だかまだ夢見気分だ」
「そうだな」
2人は静かに語り合いながらグラスを傾ける。
「そういえば…ヴェスタで一緒に暮らし始めた時、夜2人で子供の話したね」
「そういやそうだったな。あの時はまだ何年も先の話だと思ってた」
「だね。まさか1年も経たないうちに授かるなんて、オレたちは恵まれてる」
「ああ、同感だ。…全ての始まりが異世界転移だと思うと神にも感謝だな」
「キラの体調をみて、近いうちに教会へ行こうか」
「ああ」
その夜2人は幸せを噛みしめるようにゆっくりとお酒を楽しんだ。
当初の予定通り山頂付近で1泊し、この辺り特有の魔物や植物を探索。ついでにスレートのレベリングを行なっているのだが、何とその方法は武器を持たせて攻撃させるというもの。
プロテクトスライムのスレートには攻撃系のスキルが無く、攻撃方法は体当たりくらい。そこでレオンとエヴァが考えたのが小さな投げナイフでの攻撃だった。最初は教えても出来なかったが、何度も繰り返すうちに獲物に向かって投げられるようになった。 目的がレベル上げなので、魔物にトドメを刺したり傷を負わせたりする必要は無い。とにかく当たればOKだ。
こうして進める中で最も驚いたのはスレートの成長の早さ。契約した時6だったレベルはもう24まで上がっていた。数値はやはり防御だけが飛び抜けて良く、アクセサリ装備分も加算すると90ほどある。
そんなこんなでレベリングも採取も上手く行き、何事も無く山を越えて平地へと出た。
私の体調に変化が現れたのは山を降りてから5日後、次の街に到着した頃だった。
⬛️
「少し横になって」
「ん、ありがとう」
街の近くに設置したコテージ内のベッドルーム。到着時間が早かったのでいつもなら街中を回りギルドへも行ってから落ち着く所だが、気分が優れないと訴えた私のために変更してくれた。
「…何か欲しいものは?」
「今は大丈夫」
「そう?」
ベッドに横になった私の傍に座り、優しく頭を撫でてくれるエヴァ。
実は今朝から何となく怠く、馬車での移動が始まってから気分が悪くなり始めた。でも原因に心当たりはあったので、走行中夫たちに気付かれないように自分のステータスを確認した。私の見当違いだったら2人にぬか喜びさせるからだ。
結果は予想通りで、通常は無い状態という項目に“妊娠中”の文字があった。私はにやける顔を必死に引き締めたのだ。
「キラ、大丈夫か?」
「うん」
サニーとサックスの世話を終えたレオンがベッドルームに入ってきて尋ねる。彼も傍に腰掛けて手を握ってくれた。スノウとスレートはベッド脇からこちらを見上げている。
私はベッドに起き上がって夫たちに告げた。
「あのね…できたの。赤ちゃん」
話し合っていたのだからいつ妊娠してもおかしくないのに、伝える瞬間は何故かドキドキした。
「赤ちゃん…」
「うん」
驚きに目を見開いていた2人は、私が頷くと左右からふわっと抱きしめてくれる。
「こんなに早く実現するとはな…嬉しいぜ、キラ」
「オレも嬉しいよ、キラ」
喜びの言葉を聞いてホッとしていると、柔らかな笑みとともにキスが降ってきた。
ちょっとイチャついた後、2人に言われて再びベッドに横になった。ベッドで休む程ではないのだが、夫たちが心配気な表情をするのだ。
「気分が悪かったのは今日から?」
「うん。今朝から何となくおかしくて、馬車で走ってるうちに少し吐き気がしてきたの」
「…そうか。ステータスは調べたか?」
「うん、調べたよ。妊娠中になってた」
レオンとエヴァが一度顔を見合わせる。
「体調が落ち着いたら自分を診察してみて?予定日とか分かると思うから」
「診察…?あ、薬師の技?」
「そうだよ」
エヴァの話によると、通常は妊娠すると薬師の診察を受けて体調を診てもらうのだという。その時に予定日も分かるらしい。産む時は産婆さんのお世話になるのだが、それはもう少し先でも良いという事だった。
そういえば薬師には調合の他にもう一つ、最初から使える技があった。それが診察だ。診察は解析スキルの病気特化版という感じで、必要な薬や薬効成分が分かる。それを調合して処方し、病に対処する。ランクが上がるほど詳しい解析が可能になり、より対処できる病が増えるのだ。
今まで必要なかったからすっかり忘れていた。
「休んでからで良いからな?」
「うん、分かった」
私が頷くとスノウがベッドの上に飛んで来た。
「あかちゃん?あかちゃんうまれるの?いつ?たまご?スノウよりちっちゃい?」
どうやら話したいのを我慢していた様で興奮気味に質問する。
「「「…」」」
私たちは3人揃って一瞬無言になり、目をパチクリさせてしまった。
「…くくっ、たまごじゃねえよ」
「…そうなの?じゃいつ?」
「フフ…まだまだ先だよ」
「まだまだなの?それはがっくしなの…」
あからさまにシュンとするスノウ。でもすぐに気を取り直して胸を張る。
「スノウのほうがおっきいから、うまれたらよしよしするの!」
「ふふ…そうだね。スノウの方がお兄ちゃんだから、産まれたら可愛がってあげてね?」
「はいなの!」
視線を交わした私たちは、一緒に喜んでくれているスノウをとても嬉しい気持ちで見つめた。
後で診察し、予定日が9月7日だと分かった。計算してみるとまだ妊娠7日目くらいで、悪阻というのはこんなに早くから起こるものなのだと驚いた。
ヘルプしてみると悪阻は妊娠10日目くらいからひと月程続き、120日目前後から安定期だと分かった。初産はやはり予定日を過ぎる傾向にある。
夕食後に少し話し合い、取り敢えず悪阻が治るまではこの辺りに滞在する事になった。
⬛️
夜、レオハーヴェンとエヴァントは皆が寝静まった後のリビングで飲んでいた。
ウィスキーの入ったグラスをカチン、と合わせて乾杯する。
「…俺が父親か。まだ実感ねえな」
「オレもだよ。ずっと欲しいと思ってたけど、何だかまだ夢見気分だ」
「そうだな」
2人は静かに語り合いながらグラスを傾ける。
「そういえば…ヴェスタで一緒に暮らし始めた時、夜2人で子供の話したね」
「そういやそうだったな。あの時はまだ何年も先の話だと思ってた」
「だね。まさか1年も経たないうちに授かるなんて、オレたちは恵まれてる」
「ああ、同感だ。…全ての始まりが異世界転移だと思うと神にも感謝だな」
「キラの体調をみて、近いうちに教会へ行こうか」
「ああ」
その夜2人は幸せを噛みしめるようにゆっくりとお酒を楽しんだ。
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