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127.不思議なマルキーズ君
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「お、お…美味しい!!こんなに美味しい料理は初めて食べました!」
「…いいからまず食え」
「はいっ!」
リビングで口いっぱいご飯を頬張っている彼の名はマルキーズ、21才。ミルクティーのような色の髪は少しカールしていて、大きな瞳は鳶色。見ようによっては女の子に間違われそうな顔立ちをしている。背は私より若干高いので170㎝くらい。肌はやはり小麦色だが筋肉は見当たらない。カードを懐に入れていたため正規の冒険者であることは分かった。
中に入ってから驚きで惚けたままの彼に回復魔法をかけ、洗浄と乾燥もかけて綺麗にした。するとお腹の虫が盛大に鳴いたので取り敢えずは腹ごしらえ、という事で食事を出した次第であります。私たちも簡単な自己紹介はしました。
「ありがとうございました。見ず知らずの僕に回復魔法をかけ、食事までごちそうしてくださるとは…素晴らしい方たちと出会えたことに感謝します」
食事を終え、深く頭を下げながらお礼を言うマルキーズ君。柔らかく微笑むその表情と雰囲気は、育ちの良いお坊ちゃまと言われても納得できる感じがした。
「お前、オアシスに向かってたのか?」
「はい」
「よく1人で行く決心をしたね?まさか砂漠の怖さを知らない訳じゃないだろうし」
「もちろん知っています」
レオンとエヴァの問いに答え、少し躊躇するような素振りを見せてから続ける。
「…実は人を探していまして…足取りを追って旅をしているんです。同じ冒険者なんですが、2人組の男女パーティーでランドさんとライラさんという名前なんですが…ご存じないですか?」
…!つい最近別れた2人の名前が出て思わず声を上げそうになった…のを堪えてチラッと夫たちの方を見る。流石に2人は表情を変えない。
「…知ってる」
「え…!本当ですか!?今どこに…「だが」」
「友人の情報をホイホイ人に教える訳にはいかねえ」
レオンは彼の言葉を遮ってそう言い放った。
「そう…ですよね…でも、僕も簡単に引き下がるわけにはいかないんです。どうしても、会って話さなくてはいけない事があるんです。事情があるので詳しくは言えませんが、決して悪意があるとか、危害を加えようという事では無いんです。どうかお願いします、2人の事を教えてください!」
彼はテーブルにぶつかりそうなほど頭を下げたまま上げようとしない。スノウに欠片の悪意も無いと言われた事もあるし、この短い時間で垣間見た彼の真面目さは信用しても良い気がする。
私たちは顔を見合わせて頷き合い、同じ意見である事を確認した。そして少し間をおいてからレオンが口を開いた。
「分かった、言える範囲でなら教える。それでも良いか?」
「は、はい!もちろんです!ありがとうございます!」
言える範囲、というのはパッと見で分かるような情報だ。それ以外の内情に関わるような事は、本人のいない場所でおいそれと人に話せない。
そしてマルキーズ君が最初に聞いたのは…
「あの、2人はお元気でしたか!?」
という事だった。
それから2人の元気な様子やライラさんが契約獣を連れている事などを話した。それを聞いている彼はとても嬉しそうだった。
「…居場所は分からねえ」
「そうですか…」
居場所が分からないのは本当だ。彼らは次の採掘を終えたら違う街へ移動すると言っていたが、行き先はまだ決めかねているという事だったからだ。
「でも、お元気な様子が分かっただけでも大きな収穫です。今までたくさんの人に話を聞きましたが、実際一緒に居た方には初めて会いましたから。話してくださってありがとうございました」
マルキーズ君は一瞬目を伏せたがすぐに顔を上げて笑顔を見せた。
結局…懐に入れてあった冒険者カード以外全て失った彼を放っておく事など出来る筈もなく、一緒にオアシスに行くことになりました。
彼はオアシスで資金を稼ぎ、また旅の準備を整えると言っている。持っていた物は全部インベントリに入っているというので、アイテムバッグさえあれば取り出せるのでは?と思ってバッグを貸した。でも中にあったのは僅かな水と携帯食、魔除け香にテントと毛布、少々の着替えと日用品だけ。武器は元から腰にあったダガーのみ。更に所持金も少なく、どちらにしてもオアシスで資金を貯めなければ旅を続ける事は出来そうもなかった。
…よくこれで1人砂漠越えに踏み切ったものだ。
するとマルキーズ君が話し始めた。
「僕、街道を普通に歩いていてもよく魔物に遭遇するんですよ。魔法攻撃がメインなのでいつも魔力回復薬なんかは多めに準備してるんです。砂漠越えの前はいつもより更に多く持ってたんですが…それでもなくなってしまって。それと、偶にアイテムバッグが壊されることがあるので予備も準備してたんですが…」
「…まさか、予備も壊されたの?」
「はい。いやぁ~、砂漠には道らしい道なんてないので他より魔物に遭うだろうとは思ってたんですが…まさかこれほどとは」
「「「…」」」
呑気な声で参りましたよ~、なんて言いながらポリポリ頭を掻く。私たちは暫し無言になってしまいましたよ。
確かに街道にだって魔物は出てくるけど少ないのが普通。それがよく遭う?それにアイテムバッグ壊されてよく今まで五体満足で…再度揃えるための資金繰りだって大変だろうに…何だか謎の多い人だなぁ。
「不運なんだか幸運なんだか分からねえ奴だな…」
ボソッと呟くレオン。それには激しく同意です。
こうして不思議なマルキーズ君との数日間の旅が始まりました。
※アイテムバッグについての補足
アイテムバッグはそれ自体にも荷物を入れられますが、自分のインベントリに出し入れするための入口としても使えます。紛失したバッグに他人が手を入れても、インベントリに入れてあれば中身は取り出せません。
「…いいからまず食え」
「はいっ!」
リビングで口いっぱいご飯を頬張っている彼の名はマルキーズ、21才。ミルクティーのような色の髪は少しカールしていて、大きな瞳は鳶色。見ようによっては女の子に間違われそうな顔立ちをしている。背は私より若干高いので170㎝くらい。肌はやはり小麦色だが筋肉は見当たらない。カードを懐に入れていたため正規の冒険者であることは分かった。
中に入ってから驚きで惚けたままの彼に回復魔法をかけ、洗浄と乾燥もかけて綺麗にした。するとお腹の虫が盛大に鳴いたので取り敢えずは腹ごしらえ、という事で食事を出した次第であります。私たちも簡単な自己紹介はしました。
「ありがとうございました。見ず知らずの僕に回復魔法をかけ、食事までごちそうしてくださるとは…素晴らしい方たちと出会えたことに感謝します」
食事を終え、深く頭を下げながらお礼を言うマルキーズ君。柔らかく微笑むその表情と雰囲気は、育ちの良いお坊ちゃまと言われても納得できる感じがした。
「お前、オアシスに向かってたのか?」
「はい」
「よく1人で行く決心をしたね?まさか砂漠の怖さを知らない訳じゃないだろうし」
「もちろん知っています」
レオンとエヴァの問いに答え、少し躊躇するような素振りを見せてから続ける。
「…実は人を探していまして…足取りを追って旅をしているんです。同じ冒険者なんですが、2人組の男女パーティーでランドさんとライラさんという名前なんですが…ご存じないですか?」
…!つい最近別れた2人の名前が出て思わず声を上げそうになった…のを堪えてチラッと夫たちの方を見る。流石に2人は表情を変えない。
「…知ってる」
「え…!本当ですか!?今どこに…「だが」」
「友人の情報をホイホイ人に教える訳にはいかねえ」
レオンは彼の言葉を遮ってそう言い放った。
「そう…ですよね…でも、僕も簡単に引き下がるわけにはいかないんです。どうしても、会って話さなくてはいけない事があるんです。事情があるので詳しくは言えませんが、決して悪意があるとか、危害を加えようという事では無いんです。どうかお願いします、2人の事を教えてください!」
彼はテーブルにぶつかりそうなほど頭を下げたまま上げようとしない。スノウに欠片の悪意も無いと言われた事もあるし、この短い時間で垣間見た彼の真面目さは信用しても良い気がする。
私たちは顔を見合わせて頷き合い、同じ意見である事を確認した。そして少し間をおいてからレオンが口を開いた。
「分かった、言える範囲でなら教える。それでも良いか?」
「は、はい!もちろんです!ありがとうございます!」
言える範囲、というのはパッと見で分かるような情報だ。それ以外の内情に関わるような事は、本人のいない場所でおいそれと人に話せない。
そしてマルキーズ君が最初に聞いたのは…
「あの、2人はお元気でしたか!?」
という事だった。
それから2人の元気な様子やライラさんが契約獣を連れている事などを話した。それを聞いている彼はとても嬉しそうだった。
「…居場所は分からねえ」
「そうですか…」
居場所が分からないのは本当だ。彼らは次の採掘を終えたら違う街へ移動すると言っていたが、行き先はまだ決めかねているという事だったからだ。
「でも、お元気な様子が分かっただけでも大きな収穫です。今までたくさんの人に話を聞きましたが、実際一緒に居た方には初めて会いましたから。話してくださってありがとうございました」
マルキーズ君は一瞬目を伏せたがすぐに顔を上げて笑顔を見せた。
結局…懐に入れてあった冒険者カード以外全て失った彼を放っておく事など出来る筈もなく、一緒にオアシスに行くことになりました。
彼はオアシスで資金を稼ぎ、また旅の準備を整えると言っている。持っていた物は全部インベントリに入っているというので、アイテムバッグさえあれば取り出せるのでは?と思ってバッグを貸した。でも中にあったのは僅かな水と携帯食、魔除け香にテントと毛布、少々の着替えと日用品だけ。武器は元から腰にあったダガーのみ。更に所持金も少なく、どちらにしてもオアシスで資金を貯めなければ旅を続ける事は出来そうもなかった。
…よくこれで1人砂漠越えに踏み切ったものだ。
するとマルキーズ君が話し始めた。
「僕、街道を普通に歩いていてもよく魔物に遭遇するんですよ。魔法攻撃がメインなのでいつも魔力回復薬なんかは多めに準備してるんです。砂漠越えの前はいつもより更に多く持ってたんですが…それでもなくなってしまって。それと、偶にアイテムバッグが壊されることがあるので予備も準備してたんですが…」
「…まさか、予備も壊されたの?」
「はい。いやぁ~、砂漠には道らしい道なんてないので他より魔物に遭うだろうとは思ってたんですが…まさかこれほどとは」
「「「…」」」
呑気な声で参りましたよ~、なんて言いながらポリポリ頭を掻く。私たちは暫し無言になってしまいましたよ。
確かに街道にだって魔物は出てくるけど少ないのが普通。それがよく遭う?それにアイテムバッグ壊されてよく今まで五体満足で…再度揃えるための資金繰りだって大変だろうに…何だか謎の多い人だなぁ。
「不運なんだか幸運なんだか分からねえ奴だな…」
ボソッと呟くレオン。それには激しく同意です。
こうして不思議なマルキーズ君との数日間の旅が始まりました。
※アイテムバッグについての補足
アイテムバッグはそれ自体にも荷物を入れられますが、自分のインベントリに出し入れするための入口としても使えます。紛失したバッグに他人が手を入れても、インベントリに入れてあれば中身は取り出せません。
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