異世界ライフは前途洋々

くるくる

文字の大きさ
上 下
130 / 213

117.次は石の街

しおりを挟む
 デミリッチダンジョンをクリアしてから5日が経過した。

 私たちはこの5日間でダンジョンクリアの手続きも済ませ、討伐依頼も久しぶりに熟した。ドルトの工芸品である赤土で出来たカップや皿、香炉などを購入し、街を発つための準備も粗方終えた。

 ギルドではキマイラが出現した場所の調査と確認も終わり、バートンさんに改めてお礼を言われました。

 この街のギルドに来た時、神父らしき人たちを見かけて少し不思議に思っていたが居る理由が分かった。神父は光魔法や回復魔法を持っている者が多く、ギルドの依頼でダンジョン攻略に挑んだ冒険者の状態異常治癒に協力しているのだ。他には冒険者を護衛に雇ってダンジョンへ赴き、スキルのレベル上げに励む者も居るという。そう言えばボスのフロアからセーフティーゾーンに戻ってきたパーティーに冒険者っぽくない人がいたね。


 

 さて。次に向かうのはレオンが行きたがっていた鉱山の街で、ここからだと10日は掛かるという。鉱山といえばあの女性が少なかった街の事もあるので、念入りに情報を集めた。それで分かったのはあの街があんな状態になったのはごく最近らしいという事。何があったのかは分からないが現状を知っている者は少なかった。どうりで情報が無かったわけだ。

 翌朝、私たちは次の街へ向かった。











 次の目的地までの道中は実に平穏だった。9月に入って気温も風も日が経つにつれて過ごしやすいものとなり、テラスで食事出来る日も増えてきて西大陸での旅の状態に戻りつつある。スノウも久しぶりに外を満喫し、西大陸とは違う色々なものを楽しんでいた。

 私は最近やっとDランクになった生活魔法でお布団作りに挑戦中。所々エヴァに手を借りて何とか完成に漕ぎ着けた。コテージに人を泊める事になった時に便利だと思うんです。それと同様の理由でソファーなんかも複製しておきました。

 レオンとエヴァの身体強化と闇魔法もそれぞれランクアップしてAになり、2人は経験値1.5倍のおかげだと喜んでいます。

 途中で一度小さな街に立ち寄ってもう一度鉱山の街の情報を得、ドルトのものとすり合わせて確認を行った。結果大きな違いは見当たらず、特に危険な点なども見当たらなくて取り敢えず一安心です。

 そしてドルトを発って10日後の夕方、予定通り鉱山の街に到着。少々の待ち時間を経て高く堅強な岩壁の中に入ると、そこには石の街があった。

 門から伸びる広い道は真っ直ぐにこの先の高台にある2つのギルドへと続き、両脇には大きな店や宿が建ち並んでいる。横道は広くないがくねくねと曲がりながら上へと続いているようで、岩山を上手く利用した構造になっていた。建物は全て石造り、道にも石畳が敷かれていてまさに石の街といった感じだ。




 街の名はゴレ。高い岩山の3合目ほどの位置にあるこの街はとても大きい。4大陸一鉱山の多い南大陸の中で質、産出量共にトップを誇っていてレアな鉱石や宝石も採掘できる。そのため多数の採掘師や鍛冶師が暮らし、宝石を仕入れに来る商人も多く双方のギルドが揃っている。鉱山にありがちな女性が少ないという状況はここには無い。それは様々な対策が成されているからで、この問題を解決している事がゴレの街を大きくした要因のひとつである。




 高台に並ぶ大きな両ギルドの建物はどちらも3階建てで、真ん中には鐘の付いた高い物見台。前は広場になっていてたくさんの馬車や馬、商人、冒険者で賑わっていた。私たちはサニーとサックスに待っててもらい、馬車はしまってギルドへ入った。

 中の作りは他と変わらず、冒険者もほとんどが男だが上半身裸の人は少ない。そしてやはり視線は感じるもののアルバのようなトゲトゲしさはなく、興味本位のものが多い気がした。

 まずは依頼ボードをチェックしてからカウンターへ行って周囲の情報を得たが、ここで残念な事実が判明した。ゴレ近くにあったダンジョンは数日前に崩壊してしまったというのだ。ダンジョンを楽しみにしていたスノウはしょげていたけどこればかりは仕方がない。3人でスノウを慰めつつ、おすすめの宿を聞いて外に出た。

「アルバとは全然雰囲気が違ったね」
「ああ、情報通りだな」
「そうだね。良かったよ」

 私の言葉に両隣に居る2人が頷く。でもスノウはまだ回復していないようで小さい声で鳴いた。

(だんじょん…)
「仕方ねえだろ。採掘に行くときやらせてやるから」
「この辺の魔物も強そうだし、草木が無いから焼けるよ」
(…まるやきしていい?)
「ああ、良いぜ」
(んっ、わかったの)

 余程がっかりしたのだろう、2人に言われて漸く少し元気を取り戻してレオンの頭上からサニーとサックスの元へ飛んで行った。私たちは顔を見合わせて苦笑し、宿へ向かって歩き始めた。





 目の前の広い石畳の坂道も街並みも夕日で赤く染まっている。私はその景色を眺めて息を吐いた。

「カルコも真っ白で綺麗だったけど、ここも綺麗…」
「石造りはどうしても無骨になるがここは石の形が揃ってるな」
「石の色が薄いから余計綺麗に見えるのかもね」

 坂を下って少し進むと聞いてきた宿に到着。そこはメインストリートに面していて、広い馬車止めの向こうに3階建ての建物があった。大きな契約獣もOKなのでそのスペースもあるはず、そう考えるとかなりの敷地面積だろう。

「いらっしゃいませ、お泊りですか?」
「ああ、契約獣を頼む」
「かしこまりました。こちらを受付カウンターへお持ちください」

 馬車止めに足を踏み入れた私たちに声を掛けてきたのは物腰柔らかな男性。彼はサニーとサックスを見ても全く動じることなく、白っぽい石で出来た薄いカードを2枚差し出した。そこには黒いインクで"契約獣・中型"とあり、契約印のようなマークと黒丸が2つ書かれている。

 馬は1頭当たりの料金が決まっているが馬車と契約獣は大きさで多少差がある。今まで泊まった所では表で宿の人に預けて客自らが申告する形だったが、ここは違うようだ。中でいちいち伝えずともこれを渡せば良いらしい。

「分かった。サニー、サックス、大人しくしてるんだぞ」

 レオンがカードを受け取ってそう言い、少し撫でると2頭が頷く。男性は頭を下げてから2頭を連れて行った。

 宿はやはり1階が食堂でたくさんのテーブルが並んでいる。その向こうには奥へ続く廊下と階段、カウンターは入口近くの右側にあった。先ほど受け取ったカードを出し、2泊分の手続きを済ませてそのまま食事を摂る。その後サニーとサックスの所に行って馬体を綺麗にし、食事を置いてから部屋へ。(契約獣の世話は頼めばしてくれる)

 部屋はこれまでに泊まった中で一番の広さだった。おなじみのクイーンサイズベッドにサイドテーブル、その上にはステンドグラス風のランプ。大きな革張りのソファーに石のローテーブル、姿見の付いたクローゼット、そして極め付けは…バスルーム!

 そう、ここはお風呂付きの部屋がある高級宿。そしてこの部屋は一夫多妻用で全ての家具がそれ用に大きく出来ている。もちろんバスルームも。

(ひろいの~!おふろもあるの!)

 さっきまでしょげていたスノウはもう大喜びしてあちこち飛び回っている。

「フフ、そういえば南大陸の宿は初めてだね」
「まあここは治安も良いみてえだし、いい宿もあったからな」
「素敵な部屋だよね。バスルーム付きの宿って初めて」
「気に入ったか?」
「うん」

 私が頷くとレオンとエヴァは早速腰に手を回して交互にキスし始める。

「んっ…ね、お風呂入ろう?」
「…入ってからゆっくりしようか」
「ああ…ゆっくり、な」
(おっふろ~!なの!)

 極甘な空気に元気のいいスノウの声が響いた。




 その夜キラが眠った後、レオハーヴェンとエヴァントはソファーでウィスキーを飲みながらある相談をしていた。

「やっぱりあの店かな?」
「ああ、店構えから見てもかなり良い品を置いてるだろう。だが自分からは絶対行かないよな」
「そうだね。プレゼントするって言っても遠慮しそうだし…」

 以前からゴレの街に着いたらキラに似合うジュエリーを買うつもりだった。どうせなら良い物を贈りたいが、未だに高級な品は遠慮する傾向がある。

 2人は暫し考えを巡らせていた。
  
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?

すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。 一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。 「俺とデートしない?」 「僕と一緒にいようよ。」 「俺だけがお前を守れる。」 (なんでそんなことを私にばっかり言うの!?) そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。 「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」 「・・・・へ!?」 『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!? ※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。 ※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。 ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。

皇帝陛下の寵愛なんていりませんが……何か?

当麻月菜
恋愛
「異世界の少女、お前は、私の妻となる為に召喚されたのだ。光栄に思え」 「……は?」  下校途中、いつもより1本早い電車に飛び乗ろうとした瞬間、結月佳蓮(ゆづき かれん)はなぜかわからないけれど、異世界に召喚されてしまった。  しかも突然異世界へ召喚された佳蓮に待っていたのは、皇帝陛下アルビスからの意味不明な宣言で。  戸惑うばかりの佳蓮だったけれど、月日が経つうちにアルビスの深い愛を知り、それを受け入れる。そして日本から遙か遠い異世界で幸せいっぱいに暮らす……わけもなかった。 「ちょっ、いや待って、皇帝陛下の寵愛なんていりません。とにかく私を元の世界に戻してよ!!」  何が何でも元の世界に戻りたい佳蓮は、必死にアルビスにお願いする。けれども、無下に却下されてしまい……。  これは佳蓮を溺愛したくて、したくて、たまらない拗らせ皇帝陛下と、強制召喚ですっかりやさぐれてしまった元JKのすれ違いばかりの恋(?)物語です。 ※話数の後に【★】が付くのは、主人公以外の視点のお話になります。 ※他のサイトにも重複投稿しています。 ※1部は残酷な展開のオンパレードなので、そういうのが苦手な方は2部から読むのをおすすめさせていただきます。

魔力∞を魔力0と勘違いされて追放されました

紗南
ファンタジー
異世界に神の加護をもらって転生した。5歳で前世の記憶を取り戻して洗礼をしたら魔力が∞と記載されてた。異世界にはない記号のためか魔力0と判断され公爵家を追放される。 国2つ跨いだところで冒険者登録して成り上がっていくお話です 更新は1週間に1度くらいのペースになります。 何度か確認はしてますが誤字脱字があるかと思います。 自己満足作品ですので技量は全くありません。その辺り覚悟してお読みくださいm(*_ _)m

実は家事万能な伯爵令嬢、婚約破棄されても全く問題ありません ~追放された先で洗濯した男は、伝説の天使様でした~

空色蜻蛉
恋愛
「令嬢であるお前は、身の周りのことは従者なしに何もできまい」 氷薔薇姫の異名で知られるネーヴェは、王子に婚約破棄され、辺境の地モンタルチーノに追放された。 「私が何も出来ない箱入り娘だと、勘違いしているのね。私から見れば、聖女様の方がよっぽど箱入りだけど」 ネーヴェは自分で屋敷を掃除したり美味しい料理を作ったり、自由な生活を満喫する。 成り行きで、葡萄畑作りで泥だらけになっている男と仲良くなるが、実は彼の正体は伝説の・・であった。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

三年目の離縁、「白い結婚」を申し立てます! 幼な妻のたった一度の反撃

紫月 由良
恋愛
【書籍化】5月30日発行されました。イラストは天城望先生です。 【本編】十三歳で政略のために婚姻を結んだエミリアは、夫に顧みられない日々を過ごす。夫の好みは肉感的で色香漂う大人の女性。子供のエミリアはお呼びではなかった。ある日、参加した夜会で、夫が愛人に対して、妻を襲わせた上でそれを浮気とし家から追い出すと、楽しそうに言ってるのを聞いてしまう。エミリアは孤児院への慰問や教会への寄付で培った人脈を味方に、婚姻無効を申し立て、夫の非を詳らかにする。従順(見かけだけ)妻の、夫への最初で最後の反撃に出る。

処理中です...