異世界ライフは前途洋々

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113.ドルトの街へ

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 頂上を発ってから2日後、予定通り次の街に到着した。



 ここはドルトの街。岩山の麓にあり、近くで採れる赤い土で創られた質の良い工芸品で有名な所。そのため職人が多く住み、商業が盛んに行われている。それほど大きな街ではないが、工芸品を求めて商人や旅人が足繁く訪れる活気に溢れた場所だ。少し東へ行くとダンジョンがあるため冒険者の出入りも激しい。



 私たちは商店が軒を連ねる道を通って冒険者ギルドへ向かっていた。店先に並ぶ工芸品に目を奪われそうになるが、キマイラの報告があるので今見ている時間はない。後でゆっくり買い物したいな、と思いつつ先を急いだ。

 ギルド内はアルバのような筋肉だらけではなく、何故か神父のような人たちがチラホラいる。

「岩山の頂上付近でキマイラに遭遇した。討伐は済んだから確認を頼む」

 レオンがカウンターでそう伝えると、受付嬢は目を見開いて一瞬固まってから我に返った。

「しょ、少々お待ちください」

 受付嬢は後ろに居た男性職員に何やら話してすぐ戻り、私たちを裏の倉庫へ案内した。

 倉庫には解体の職員が数名居て作業の真っ最中だった。訳を話してスペースを開けてもらうと別の扉から2人の男性が入ってくる。1人は先程の職員でもう1人はマッチョの中年男性。上半身裸、色黒、胸に爪痕のような大きい古傷。年齢的にみても彼がギルマスかサブマスターだろう。

「キマイラを討伐したのはお前らか。現物を見せてくれ」
「ああ。…キラ」
「うん」

 促されて広いスペースにキマイラを出すと、他の作業をしていた職員も揃って歓声を上げた。唯一ギルマスであろう男性だけは注意深く魔物を調べている。

「…大した腕だな。たった3人で、しかもこれだけの攻撃でキマイラを倒すとは」

 男は称賛の言葉と共に感嘆の息を吐いた。

 その後私たちは経緯説明のため部屋へと移動した。











「…出現してからそう日が経ってねえって事か」
「状況から考えるとそうなる」

 やはりギルマスだった男性の名はバートン、彼は一通り説明を聞いて暫し思案顔をしてから口を開く。

「分かった、早速調査しよう。…しかし討伐済みで助かった」
「通り道に居たからやっただけだ」
「そう言ってもらえるとありがたいが…随分あっさりしてんなぁ」

 ギルマスは拍子抜けしたように言った。



 このような場合は冒険者側から何かしらの要求がある事も少なくない。内容は様々だが魔物が強いほど要求も高くなる傾向にあり、タチの悪い奴らが相手だとギルド側、特に小さな街のギルドは対処に困る。それでも街が魔物に襲われた可能性を考えれば無下にも出来ないのが実際のところだ。

 そして今回の魔物はS級。S級は最低でもAランクパーティーでなければ倒すことは困難。その上キマイラのような攻撃的な奴は周囲への被害も大きいため、早急に討伐する必要がある。しかしAランク以上のパーティーが常時どの街にもいるとは限らない。

 故に街への直接的な被害もケガ人も皆無で済んだのは素晴らしい事で、それ相応の報酬を要求されても仕方が無かった。

 ただレックスの面々からすれば遭遇したから倒したに過ぎない。S級は経験値も稼げるし良い素材も手に入る恰好の相手だったのだ。



「俺らは旅の冒険者だし、別に要求するような事はねえ」
「旅か…もしかしてダンジョンに行くのか?」
「そのつもりだ」
「そうか…お前らは強いのは分かったが、ここのダンジョンはちぃと厄介だぞ」

 私たちはその言葉に顔を見合わせる。

「どういうことだ?」
「魔物がアンデッド系だからだ」

 ギルマスはニヤリと笑ってそう言った。











 ギルマスの部屋を後にした私たちは、そのまま依頼ボードをチェックしてダンジョンの情報を得てからギルドを出た。買い物は後日ゆっくりすることにして街のすぐそばにコテージを設置して休んでいた。

「さて、どうしようか?」
「そうだな…」

 3人で暫し思案する。ある意味困っているとも言えるが、恐らく他の冒険者とは違う理由だ。

「キラの魔除け香を使えば一発だがレベリングにはならねえな」
「効く範囲が広過ぎて、他の挑戦者と対峙してる奴まで倒しちゃうよね」
(まるやきしていい?)
「状況によるな。スノウの炎じゃあっという間に終わっちまう可能性が高い」

 スノウが首を傾げながら聞くが答えは微妙。



 アンデッド系は通常攻撃が効きにくく魔法耐性もある上、攻撃力が高く状態異常攻撃もしてくるので普通は倒すのに手間取る相手だ。しかしレックスは物理・魔法共にとても高い攻撃力と多数の攻撃パターンを持っているし、キラの魔除け香は即死効果がある。

 如何にして手際良くレベリングするか、要するに倒す手立てが多数あって決めかねていた。急いでいる訳ではなくてもダンジョン内でダラダラするつもりはない。



「やっぱり交代でやるのが一番かな」
「かもな。…キラ、聖水作れるか?」
「うん…たぶん作れると思う」

 聖水は浄化スキルと同様の効果を持ったもので調合で作る事が出来る。同様といっても効力は劣るが、浄化は珍しいスキルなのでアンテッド系討伐には聖水を用意する者が多い。私は実際に作ったことはないけれどレシピも分かるので作れるだろう。

「レオン、聖水は何に使うの?」
「どうにかして武器に仕込めねえかと思ってな」
「ああ、魔剣の代わりか」
「え、魔剣があるの?」
「うん」

 魔剣の存在を知らなかった私が声を上げるとエヴァが教えてくれる。



 剣に拘らず魔法が仕込まれた武器は存在するが使用者は少ない。例えば魔剣は剣に魔石を組み込み、魔力を流して使用することで物理と魔法の同時攻撃を可能にしたもの。仕込めるのは属性魔法のみだが、これだけ聞いても便利なものに思える。

 しかし実際はそう上手くいかない原因が幾つかある。

 まず魔物にダメージを与えるほどの威力を発するには相応の魔力量が必要だという事。メイン攻撃を武器にしているのは魔力が高くない者が多く、魔法で消費してしまっては武器技が出せなくなってしまう。次に仕込んだ魔石が消耗品だという事。それは家電的魔道具も同じなのだが、そもそも家事と攻撃では消耗の仕方が違うのだ。そして最後は価格が高い事。使われているのが魔力伝導率が良い素材で高めな上、鍛冶スキルが上級でないと製作出来ないためどうしても高価になってしまう。



「だから実際使ってる冒険者は上級ランクの一握りだと思うよ。レオンは持ってるよね?」
「ああ、一応な。今はほぼ用なしだが、魔石の代わりに違うものが仕込めれば良い武器になるかもしれねえだろ?」
「なるほど」

 私は説明を聞いて頷いた。今は素材さえ手に入れば自分たちで作れるのだからコストも低くて済む。攻撃方法が増えればスムーズに対処できる状況も増え、ダンジョンだけでなくこれからの旅もより一層快適になるという訳だ。

「だがどうやって組み込むか…」
「その方法が問題だね」

 魔剣か…あれ、そういえば…

「ねえ…このアクセサリみたいに2人共同制作でならどう?」
「「…」」

 私が示したのは耳に着けているお揃いのアクセサリ。どうやったか詳しくは知らないけれど、双方のスキルを活用して創ったと聞いた。それならもしかしてと思って話してみると、2人は一瞬目をパチクリさせ…

「「それだ!」」

 と叫ぶ。

「この方法をすっかり忘れてたぜ」
「魔石に…いや、直接金属に移す?」
「直接の方が良いかもな、馴染みさえすれば障害が少ねえ分威力が高くなる」
「じゃあ魔力の乗りそうな金属で…うん、これならイケそうだね」
「ああ。応用すれば他にも色々使える」

 興奮気味のレオンとエヴァは2人の世界(?)に入ってしまいました…。

 
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