異世界ライフは前途洋々

くるくる

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90.借地

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 翌日街に到着したのは日が落ちる寸前。ギルドに行くのは明日にしてコテージで休むことにした。夕食後、話を切り出す。

「あの、相談があるの。作ってほしい物があって…」
「ん?何?」
「これなんだけど」

 私は図にしたものを2人に見せた。

「これは石鹸のケース?」
「うん。髪用と体用、ケースを2つに分けるより1つに2個入った方が便利じゃない?」
「うん、そうだね。並べて売れば…いや、実際に石鹸を入れて使用見本を置けば分かりやすくて良いかも」
「なるほどな…素材は決めたのか?」
「それなの。何が良いのか分からなくて…軽くて丈夫で水に強い、その上値が張らない、そんな都合のいい素材あるとは思えなくて」
「「「…」」」

 暫し3人で考える。

「…あった、都合のいい素材。ヒュージクローチだよ!」
「えッ」
「ヒュージクローチか…うん、あいつならピッタリだ」
「ね、ねえ…ヒュージクローチって黒いよね?黒いソープケースはどうかな…?」

 折角の提案に悪いとは思いつつ意見を言うと思わぬ答えが返ってきた。

「ヒュージクローチはある程度熱を加えると真っ白になる。軽くて丈夫、水にも強い」
「それに1つのケースで使うのは少量だろう?素材が大きいから価格も抑えられるよ」

 おぉ…Gの素材にそんな良い点があったとは。気持ち悪い思いをした甲斐があります。

「そうだったんだ…知らなかった。でもそれなら白いソープケースになるんだよね?素敵だと思う」
「決まりだね」
「ああ、製作は引き受けたぜ」
「2人ともありがとう」

 まだ見ぬ女性客の皆さん、ごめんなさい。素材は聞かないでくださいね。でも浄化はしてあるので大丈夫ですよ。後でウチのケースも作ってもらおう…Gじゃないやつで。











 翌日は朝一で冒険者ギルドへ行った。依頼達成の報告や魔物の解体、査定などを頼んだあと三度ギルマスに呼ばれて部屋へ。そこで例の冒険者たちが犯罪奴隷となって奴隷商人と共にカルコを去ったと聞かされた。これで本当に終了である。

 その後は隣の商業ギルドに向かった。土地を借りる為だ。そんなに長居する気は無いが、毎日街の外と中を出入りするより、土地を借りて家かコテージを設置しておいた方が何かと便利だという事になったのだ。

 サニーとサックスは表で待っててもらい、スノウを連れて4人で中へ入って受付嬢に話しかける。

「土地を借りたいんだけど」
「担当者を呼んでまいりますので少々お待ちください」

 女性は奥へ行ってすぐに男性職員と共に戻ってきた。

「お話を伺います。こちらへどうぞ」

 私たちは職員に案内されてパーテーションで仕切られた一画で席に着いた。早速男性が切り出す。

「土地を借りたいという事でしたが、どのようなことにお使いになるのですか?」
「オレたちは旅商人でこの街で露店を出したいと思っています。その間の滞在場所としてです」
「滞在場所、ですか…。借家ではなく土地で間違いないですか?」
「ええ、家はあるので」
「…?家はあるとはどういう…?」

 職員男性は不思議そうに聞く。まあそうだよね。

「インベントリにしまって持ち歩いているので家はあるんです」
「…イ、インベントリに…家…そ、そうですか…ひと月単位でしかお貸し出来ませんが宜しいですか?」
「はい」

 男性は目を見開いて驚きながらも何とか平静を取り戻した。

「広さや場所などの希望はありますか?」
「契約獣のスレイプニルも2頭いるので広いと有難いですね」
「…ス、スレイプニル…ですか…えぇと…広めとなりますと、どうしても街の中心部からは多少離れてしまいますが」
「構わないですよ」
「そうですか…今お時間がありましたら何ヶ所かご案内しますが」

 その言葉を聞いてエヴァがレオンと私を見る。

「ああ、良いぜ」
「私も」
「ではお願いします」
「かしこまりました」




 それから数ヶ所を見て回った。本来はギルドの馬車を使うそうだが、サニーとサックスもいるので今回はウチの馬車を使った。男性職員は乗り心地に感激し、中に敷かれた毛皮に触れて『ゴールドボアの毛皮ってこんなにフカフカだっけ…?』と目を丸くしていた。到着の早さにも感心していて、1人百面相をしていましたよ。

 ギルドへ戻って借用の手続きをし、代金も先払いで済ませて外へ出るとサニーとサックスのところにシュカたちが居た。時刻は昼過ぎ、彼らも昼食はまだだったので一緒にランチする事に。どこかへ入ろうかとも思ったけれど結局コテージで食べることになった。




「ここを借りたんですか?」
「ああ。サニーとサックスも居るから広い方が良い」

 私たちが借りたのは浜辺近くの小高い丘の上の土地。ここは商業ギルドが所有しているので持ち主とのやり取りが無くて楽だ。街の中心からは多少距離があるが2頭がいるのでその辺は困らないし、ロケーションが最高に良い。丘の上なので視界を遮る物など無く、蒼い海と白い砂浜が見えるし綺麗な街並みが眺められるのも楽しい。

(おなかすいたの〜…)
「ふふ、待たせてごめんね。お昼にしよう」
(ごはん!)
「さ、君たちも入って」
「「「はい」」」











「あぁ〜…こんな素敵なコテージでランチして、その上食後にアイスコーヒーが飲めるなんて天国や…ほんまごっつ美味しいし…」

 恍惚の表情でそう言うリラン。

 私も同感。海が見えるコテージのテラスで食事、しかも夏真っ盛りだから別荘へ避暑にでも来ている感じだ。もの凄く贅沢な時間だと思う。いつも私たちだけだったから彼らが居るこの状況がとても新鮮。偶にはこういうのも良いよね。レオンとエヴァも穏やかな笑顔だ。

「そういや風呂の約束してたな。ちょうど良いから今日にするか?」
「そうだね、オレは良いよ。キラは?」
「うん、いいよ。リランたちは大丈夫?」
「はい、もちろんです!ね?」
「「うん!」」
(おふろ?おうちのじゃないの?)

 お風呂好きのスノウが首を傾げる。

「ああ、ウチのよりデカイ風呂だ」
(スノウもはいれる?)
「スノウなら大丈夫だとは思うけど…ああ、湯船はダメかもね」
(む〜。でもこしこしするの。スノウもいくの)
「うん、一緒に行こうね」

 シュカたちも最初はぴいぴい鳴くスノウと私たちの会話をポカンとして見ていたがすぐに慣れた。この世界の人々は何かに驚いても受け入れるのが早い気がする。やはり魔法が存在するからだろうか?

「行くか」

 そう言ってレオンが立ち上がる。私たちは揃って公衆浴場へと向かった。


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