異世界ライフは前途洋々

くるくる

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89.依頼消化

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 翌日、私たちはカルコから馬車で半日ほどの場所にある森に来ていた。昨日シュカたちとお風呂の約束をした後ギルドで依頼を探したのだ。内容はエルダートレントの討伐、数は5体以上。

この森は奥に採掘場があり、普通の鉱石の他に特有の白い石が掘れるため職人たちも足繁く訪れる。エルダートレントは効果の高い魔除け香でないと効かないので定期的に討伐依頼が出されることになっている。

 サニーとサックスの脚で通常より早く着き、昼食も手早く済ませてエルダートレントを探す。途中、川の近くでグレートビーバーやケルピーに遭遇してレベリングしながら進んだ。森は奥へ行くほど鬱蒼としてきて昼でも薄暗い。地面も次第に水分を含んだジメジメとしたものへと変わっていた。

(いたの!おーがとおなじくらいの!)

 サニーとサックスの頭上を行き来していたスノウが翼で方向を示して言った。

「あっちか、何体だ?」
(2!)
「よし。もう少し近付くぜ」

 歩を進めるとすぐに危機察知が反応、更に近付くと魔物がエルダートレントであると確定した。そこで一度立ち止まる。

「キラ、森に入る前にも言ったがエルダートレントは葉を飛ばしてくる。奴の葉は切れ味が良い上に毒があるから気を付けろ」
「樹液も飛ばしてくるし足を根っこで払われる事もある。注意を怠っちゃダメだよ?」
「うん、分かった」

 私は2人の忠告を頭の中で反芻して頷いた。

「スノウ、それにサニーとサックスも今回は見学だ。防御に専念しろ」
(む~!スノウもやりたいの!)

 2頭は頷いたがスノウは羽を広げて抗議する。

「次はやらせてやるから少し我慢しろ」
(むぅ…わかったの)
「よし。奴はもうすぐそこだ、視界に入ったら即戦闘開始だ」
「了解」
「はい」

 私たちは気付かれないよう注意して気配の方へ進んだ。




 少し行くと木々の間を移動する黒っぽい木が見えた。エルダートレントだ。3人で視線を交わして飛び出す。するとすぐこちらに気が付いてシュシュッ!と葉を飛ばしてきた。素早く3方向に別れて避ける。その葉は鋭利な刃物のように鋭く、すごいスピードで地面に突き刺さった。

 距離があるので避けられたが接近戦では危ないかもしれない。

「【10万ボ◯ト!】」

 放った瞬間トレントはザザザッ!と予想外の速さで接近してきた。雷は地に落ちて亀裂が走る。その時黒く太い幹に模様の如く同化していた顔が口角を上げた。明らかに嘲笑ったのだ。カチン、ときた私は思い付きで土魔法を使った。

「【ホール!】」

 その声と時差なく地面に大きな穴が現れ、足元を支える物が無くなった黒い大木は底へ落下した。相当深くイメージしたのですっぽりとハマっている。走り寄りながらもう一度詠唱。

「【10万ボ◯ト!】」

 ドシャーン!!

 雷は穴から這い出ようと暴れていたエルダートレントに命中。真っ二つに割れて動かなくなった。間を与えれば脱出されるかもしれないと思ってすぐに攻撃したんだけど…成功して良かった。

 もう1体はどうなったか辺りを見回すと、根っこの部分がスッパリ切り落とされた木が倒れていた。レオンとエヴァがこちらを見て目をパチクリさせている。

「…穴に落として攻撃か、キラの高魔力ならではだな」
「え?」
「普通はこんなに深くて広い穴、瞬時には出来ないんだよ。何度か繰り返せば出来るけど、それじゃあ魔物相手には使えない」
「…そうなんだ」
「くくっ、さすがだな」
「フフ、ホント凄いよ」

 2人が頬にキスする。

「…でも、手が届くかな?」
「それだけが問題だな」

 …はっ!そ、そうか!触れなきゃインベントリにしまえない!

 結局、ビル◯ーズのゲームみたいに土台を作りながら近づいて何とか収納しました。反省…。

 その後は無事依頼の数を討伐し、遭遇する魔物も倒しながら採掘場近辺まで来ると時刻は18時を回っていた。今夜はそこにコテージを設置して休むことになった。




 夕食後、いつものように明日の相談。森の中は涼しくてホットコーヒーが美味しい。

「明日は採掘?」
「ああ、そうだな。採取は森を出る時で良いか?」
「うん、良いよ。私はここに居ても良い?調合したいものがあるの」
「良いよ、採掘場はすぐそこだし。ね?レオン」
「ああ、そうだな。なら昼飯作っといてくれると有難い」
「うん、もちろん」
(スノウは?)

 きちんと話を聞いていたスノウが首を傾げて言う。

「魔除け香も焚きっぱなしにしとくからどっちに居ても良いぜ。サニーとサックスもな」
(あそんでていい?)
「ああ」
「でもここから離れちゃダメだよ?」
(わかったの!)
「決まりだね。お風呂にする?」
(おふろはいるの!)

 相談を終え、私たちはバスルームへ向かった。











 翌日。私は夫たちを送り出した後調合をしていた。作っているのはヘアソープで、ウチで使用している物より効果を抑えた物。

 何故調合するのか。それはリランから公衆浴場の話を聞いた時、この街はヘアソープやトリートメントの需要があると思ったから。効果を抑えるのにも理由はあるがそれはまあ後で。調合してみてからと思い、カルコで販売したい事を2人にもまだ言っていないのだから。

 さて始めよう。

 水は浄化した水を使わず普通の水、オイルも控えめにしてハーブ類などはそのまま。魔力の込め方も調節し、効果は中くらいより落とさないようにした。


【名前】ヘアソープ
【種類】石鹸
【状態】優良
【備考】状態改善効果有り(中)・状態維持効果有り(中)・ハーブの香り


 うん、良い感じ。この調子で他も作ろう。




 その日の夕食後、調合したものを2人に見せた。

「これは…ヘアソープだよね?」
「いつものと違うのか?」
「うん、効果を抑えてあるの」

 そう答えて解析するとレオンとエヴァは画面を覗き込む。

「これをカルコで販売したいんだけど…どうかな?」
「どうしてそう思ったか聞かせてくれる?」
「うん」

 私はそう思うに至った理由を話した。

「なるほどね…確かに売れそうだ。女性には特に注目されそうだね。効果を抑えたのは価格のため?」
「うん。日用雑貨だもの、あまり値が張ると浸透しないんじゃないかと思って。それに、この街を発つ時レシピを売るとしたら調合だけで作れるようじゃないと困るでしょう?」
「それで浄化スキル無しで作ったのか」
「うん」

 浄化は先天性スキルな上、その中でも珍しい。後天的に得るには称号の恩恵を狙うしかないのだ。当然使い手がそこらに居る訳ではないし、価格も抑えたかったので使わなかった。私たちの場合は最高級の品を低価格で販売することもできるが、それをしてしまったら市場価格が荒れるのは目に見えている。真面目に商売している商人たちに悪影響が出るような事は避けたい。

 ここへ来る馬車の中、リランはしきりに私の髪を羨ましがっていた。長くてサラサラな髪に憧れると言っていた。街を見て回った時に長髪の女性がいない事を不思議に思ったが、公衆浴場の話を聞いてその訳が分かったのだ。髪は女性にとって特に大切なもの、この状況を多少なりともヘアソープで改善出来れば嬉しい。単なる自己満足かもしれないけど。

「オレは良い案だと思う。言われてみればカルコはショートカットの女性ばかりだったし、髪質が改善されれば喜ぶんじゃない?」
「俺も良いぜ」
「本当?良かった。2人ともありがとう」

 賛成を得てほっとしているとレオンとエヴァがニヤッと笑う。

「…礼は風呂でしてもらう」
「だね、スノウも寝ちゃったことだし…今夜は3人でゆっくり入ろうか?」

 そう、スノウは遊び疲れて食後すぐに眠ってしまったんです。

「うん…」

 私はこれから訪れる官能に胸を躍らせた。

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