異世界ライフは前途洋々

くるくる

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71.森へ

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 私は今、コテージで調合をしています。ヒュージクローチを退治する毒団子作りです。

 ヒュージクローチとは…Gでした…。奴です、黒光ってて素早くておまけに飛ぶ、恐ろしい奴です。クローチはコックローチの事でしたよ。分からんわ!とツッコミを入れそうになりました。ヒュージというくらいですから、体長は2m前後、そして恐ろしいことに群れるそうですよ。1体いたら10体はいると思え、が常識だそうで…幸い奴らには毒が効くそうなので毒団子を作っています。

 発見した冒険者の話によると、ヒュージクローチは迂回路となっている森の洞窟に新たな巣を作っているという。昼間だったのでここでは基本的に夜行性の奴らに気付かれずに帰ってこられたのだとか。だが稀に昼間でも活動することがある為安心出来ないし、放っておくと森のものを全て食らいつくされてしまう。殲滅しなければならないがGの群れは上級ランクのパーティーでなければ倒すのは困難、その上ムルには上級パーティーが居ない。ならばとこの先の街に協力を要請しようとしていた矢先に崖崩れで…という状況だった。何故協力要請がヴェスタじゃなかったかというと、ヴェスタの方が遠いから。片道2日、往復だと4日も違うのだ。雑食で食い意地が張っているGに襲われた村や街も多く、少しでも早く討伐する必要があったのだ。



 何かに使えると思って毒草を採っておいて良かった。乾燥済みだから毒の匂いは無く、加えたはちみつの甘い香りがする。2人にも捏ねるのを手伝ってもらってリンゴ大の物を5つ作り、あとは複製の倍々方式で数を増やして160個揃えた。

「…出来た」

 時計はもう0時を回り、日付けが変わってしまった。始めたのが遅かったから仕方ないのだが…さすがにちょっと疲れたかも。

「お疲れ様、キラ」
「お前にばかりやらせて悪いな。疲れただろう?」

 作業を見つめながら待ってくれていた2人が労わってくれる。その夫たちに体を預けると暖かくてホッとした。スノウは途中まで作業を見ていて、おいしそうだと騒いでいたが眠ってしまった。

「ん…ちょっとだけ、でも手伝ってもらったし大丈夫。それにこの方法が上手くいけば戦わずして討伐できるもの」
「そう?」
「もう休もうぜ、明日も早い」
「うん…でもちょっと待って。解析してみたい」


【名前】毒団子
【種類】毒薬
【状態】最高
【備考】即効性・10gで致死量・取り扱い厳重注意


「「「…」」」

 10gで致死量…自分で作ったくせにコワイです…。

「効き目は保証されたね」
「ああ。即死だな」
「ハハハ…」

 乾いた笑いが部屋に響いた…

 宿を取ったのにコテージで眠ってしまった私たちです。断りを入れては来ましたが。











 翌朝。街の南門前にはアランさんとトールさんも来ていた。

「レックスの皆さん、よろしくお願いします」
「頼んだぞ」
「「よろしくお願いします!」」

 挨拶を交わし、ギルマスに見送られて出発する。巣を発見した若い冒険者2人も一緒だ。歩きでも昼過ぎには着くそうなので馬は置いていく。この近さも街人を恐怖に陥れている原因なのだ。




「ね、ねえ。自分で歩けるから…」
「キラは寝不足だろ。体力温存だ」
「寝不足はレオンとエヴァだって同じじゃない」
「オレたちが寝不足くらいでバテるように見える?」
「そうじゃないけど…」

 森に入るなり抵抗する間も無く子供抱っこされて数分、交渉してみるが敢え無く撃沈。

「俺らは慣れてるから大丈夫だ。心配すんな」

 そう言って笑顔でちゅっ、とキスする。

「ちょ…」
「心配なら後で癒して?」

 抗議しようとするとエヴァに遮られてまたキスされた。

「…もう」

 この感じは何を言っても私を降ろす気など無い。それが分かって大人しくしておく事にした。さっきから後ろを気にしながら前を歩く案内役の2人には悪いけどね…。




 森に入って2時間、エヴァの肩に止まっているスノウは、チラッと飛んでいっては戻ってを繰り返して森を満喫している。

 おっきいくもがいたの!とか嬉しそうに叫んだり、むしとったの!と言ってでっかい蛾を小さな足で掴んで運んできたりしてはしゃいでいた。クモは捕ってこないでね。

(あっちにおーくとしるばうるふがいるの!)

 また飛んで戻ってきたスノウの言葉に夫たちが顔を見合わせ、足を止める。

「どのくらい居た」
(いっぱい!)
「ということは10体以上だね」

 まだ10以上の数字は苦手なのだ。

(たたかってたの)
「…オークを放っておくのは不味いな…」
「討伐しに行く?ねえ、ヒュージクローチの巣まで後どれくらい?」
「ま、まだ4、5時間はかかります」

 エヴァに聞かれて戸惑いながら答える若い冒険者。

「4、5時間か…」
「時間的にはあまり余裕はないね」
「そうだな…よし、俺がオークを討伐してくる。お前らはこのまま進め」

 そう言って私を降ろすレオン。

「大丈夫?合流できる?」
「ああ、スノウを連れてくから大丈夫だ」
「そう?気を付けてね?」
「ああ、ありがとう。…エヴァ、こっち頼んだ」
「了解」
「じゃあ行くぜ。スノウ、来い」
(はいなの!)

 スノウにも声を掛け、2人を見送ってから再び歩き始めた。




 レオンとスノウの2人と別れて30分ほど進んだ時、危機察知に反応があった。立ち止まって伝える。

「エヴァ、近くに何か居る」
「反応あった?」
「うん」
「…君たちも得物を構えていつでも攻撃できるようにして」
「「はい」」

 エヴァに言われて若い冒険者も剣を構える。私もインベントリから大剣を出した。この大剣は片手でも持てるので魔法も放てる。それにローブを作り替えたので着たままで剣が振れるのだ。

 警戒しながら再び進もうとしたとき、前方の茂みがガサッと揺れる。

「来るよ」

 次の瞬間茂みから飛び出してきたのは4体の黒い狼。

「【スクリュー!】」

 エヴァの両手から放たれた水流がそれぞれ狼を巻き込んで渦の中に閉じ込め、水の刃で体を引き裂く。彼の詠唱と同時に地を蹴った私は飛び掛かってくる黒い体を宙で斬り付けた。

「ギャインッ!!」

 横っ腹をパックリ裂かれた狼が血を吹き出しながら地面に落ちる。エヴァが仕留めた2体もすでに息絶えていた。残る1体を見ると今まさに若い冒険者に飛び掛からんとしている。

「【サンダーショット!】」

 エヴァの声が響き、雷を食らった魔物は感電して動きを止めた。

「止めを刺すんだ!」
「ッ!ヤアッ!」

 狼は剣で地面に縫い付けられ、そのまま死んだ。

「皆ケガはないか?」

 その問いに皆が頷くと彼は息を吐いた。

「ブラックウルフ…君たちはずっとムルにいたんだよね?今までこの森でブラックウルフに遭遇したことはあるかい?」
「いいえ…シルバーウルフは偶に出ましたけど…他はゴブリンとかくらいしか…」
「聞いたこともない?」
「はい。ただずっと奥の方は分かりませんが…」
「そうか…」

 ブラックウルフはシルバーウルフと違って夜行性に近く、昼は殆ど活動しない。それに棲家も森の奥深くで人が通るような道へ出てくる事もまず無い。

 エヴァは暫し考えていたがすぐに顔を上げた。

「とにかく魔物を回収して先へ進もう」
「はい」
「キラ、洗浄頼んでも良い?」
「うん」

 私はウルフを回収した後血痕に洗浄と乾燥をかけて回った。

 その光景を若い2人がポカンとして見ていた。
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