異世界ライフは前途洋々

くるくる

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44.ギルドの野営場

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 私たちはブラウニーに別れを告げて林道に戻り、湖で早めの昼食を食べてから奥へ進んだ。

 ちょこちょこと採取する私をエヴァさんが手伝ってくれて、レオンさんはスノウのレベルを上げようと、魔物を見つけてはスノウにも攻撃させながらバッサバッサ斬り倒している。最初は大人しかったスノウが、だんだんレオンさんが剣を振るう度に『いけー!』とか『そこなのー!』とか声を上げ始めて何とも微妙な気分になった。

 日が傾き始めてあと少しで森を抜けるという時、スノウが声を上げた。

「なんかつよそうなのがくるのー」

 スノウはさすがフェニックスだけあって魔物の気配に敏感だ。初めての魔物は大まかな強さしか分からないが、一度遭遇すれば次からはちゃんと名前まで断定出来る。察知できる範囲も私たちより広いので助かっていた。

「どっちだ」
「あっちなの」
「スノウ、強いって今日イチ?」
「そうなの」

 レオンさんとエヴァさんがスノウに聞きながら得物を構える。私も魔法が放てるようにしておくと、すぐに危機察知が反応した。

「ワイルドベアーだ」

 レオンさんが魔物を断定する。彼は固有スキルの第六感で気配を探っていると言っていた。

「ワイルドベアーは土魔法を使うから土は効かないし風も効き難い。今回は下がって見ててね」
「はい」

 エヴァさんに言われた通り下がる。

「来るぞ、雷頼む」
「うん」

 ドスッドスッドスッ、と重たい足音を響かせて走って来たのは大きな黒毛の熊。私たちに気がつき、グワァッと後ろ足で立ち上がろうとした時…エヴァさんの声が。

「【サンダーショット】」
「ガゴッ…!」

 雷に打たれたワイルドベアーが中途半端な雄叫びを上げながら地面に転がると、痺れて動けない熊の急所にレオンさんの剣が突き立てられた。…終了。呆気なさにポカン、としてしまう。

 パーティーは組んでいなかったが、以前はよく2人で討伐に出たとデルタの森に向かう道中で話してくれたのを思い出す。流石です。

 ひとりで感激しているとまたスノウの報せが。

「なんかいっぱいくるの~」
「いっぱい?」
「ん。はやいのくる」
「早くて数が多いか…キラービーだな」
「だね、任せたよ」
「ああ」

 キラービーという名前からすると今度は蜂か。次々魔物が現れても2人が落ち着いているから私も変に緊張しないで済む。

「キラおいで」
「はい」

 エヴァさんから差し伸べられた手を取ると、危機察知の反応と共に嫌な羽音が耳に届く。スノウがいっぱい、と表現した通り蜂の大群がやって来た。

 お、大きい…。

 仔犬くらいはありそうな蜂の大群はさすがにちょっと気持ち悪い。思わず握った手に力が入ると、彼が私を背に庇ってくれた。

 キラービーは凄い速さでレオンさんに迫っている。

 が。

「【薙ぎ払い】」

 レオンさんは軽く剣を払った。

 たったそれだけの動作から繰り出された剣技は、軽い風音と共に全てのキラービーの体を真っ二つにする。ボタボタと地に堕ちる蜂の大群。戦いは一瞬で終わってしまった。私が薙ぎ払った時のように魔石だけになどならず、周囲にも影響がない。見事にキラービーだけを倒していた。

「…レオンさんすごい…」
「お前も力加減を覚えれば出来るようになるぜ」
「力加減は覚えた方が良いね。その分余裕を持って対処出来るようになる」
「…はい…」

 確かに力加減など出来た試しがない。ちょっと俯く私の頭を2人が撫でる。

「教えてやるからそんな顔すんな」
「キラならすぐ出来るよ」
「…ん、ありがとう」
「おなかすいたのー!」

 優しい2人にほわっとしたところで…スノウが叫んだ。一応話が終わるまで黙っていたらしいです。えらいでしょ?と首をかしげるスノウは可愛かったです。











 日が沈む頃、今夜泊まる予定のバンガローに到着した。



 デルタ山の登り口には、冒険者ギルドが運営している野営場がある。そこは岩を積み上げた武骨な塀に囲まれ、街と違って門は常に閉じている。中はバンガローと水場、馬小屋、ギルド職員用の小屋があるだけ。バンガロー内は何も無く、食事も各自の道具で作り、自分の寝袋で休む。

 この施設の利点は、夜の見張りをギルド側がしてくれる事と馬を預かってくれる事だろう。しかもお手頃価格。それに職員の小屋で回復薬や保存食、その他の消耗品などが売られているのも便利だ。

 ソロで来る冒険者や、上級ランクを護衛に雇うほどの余裕がない者にとって見張りはありがたい。またエヴァントが護衛依頼を受けた時のように、ここまで馬で来る者もいる。山で採掘している間、魔除け香を焚くという手もあるが預けた方が安心なのだ。



 ゴツイ塀の中に入ると、まずは職員の小屋へ行って手続きをする。バンガローには相部屋用と個別用があって、私たちは個別用を借りる。エヴァさんがカギを受け取ってバンガローへ。

 周囲にはソロ冒険者や若いパーティーがチラホラ居て、焚き火の準備などをしている。

「若いパーティーもいるんだね」
「ん?ああ、あいつらは中級パーティーだな。中級の奴らにとってこの辺りは良いレベル上げポイントだ。レベル上げしながら魔物を狩って依頼を熟して、良い装備を揃えて上級に挑戦する」
「前にキラが助けた三つ子も、ここを目指して奥へ進んだんだと思うよ。ここまで来られれば中級に上がれる力はあるって事だからね」
「中級の冒険者にとっても便利な場所なんだね」
「そうだな」

 私の言葉に2人が答えてくれたので、食事の準備をしながらもうひとつ聞いてみる。

「キングトロールみたいなのが出たらどうするの?」

 ここの塀は頑丈そうだし高さもあるけど、10mあるキングトロールなら中も見えるだろうし岩の塀も崩れるかもしれない。

「キングトロールは滅多に出ねえし、ここにいるギルド職員は皆腕に覚えのある奴ばかりだからな」
「それに冒険者たちも中級以上だからね、いざという時はみんなで戦うんだよ」
「なるほど…」

 …キングトロールって出現率低いんだ。それに遭遇した私って…。

「ぴぃ~…」(ごはん~…)

 レオンさんの頭の上にいたスノウがへにゃっと鳴く。その声を聞いた私たちは3人で顔を見合わせて笑った。




 食事も終わり、バンガローの中で毛皮を敷いて横になる。室内はガランとしていて何だか寂しい。

 そういえば昔から憧れてたものがある。それは某有名マンガに出てきたホ◯ポ◯カプセルのハウス。冒険しながらにして快適な家まで持ち運ぶ。なんて素晴らしい。思えばあの頃から冒険や旅を密かに夢みてた。テントと焚き火も好きだけど、長旅するなら異世界モノのネット小説にもあるみたいに家を持ち運んでみたい。

 前世ではゲーム内でしか叶わなかったけど今はインベントリもあるし、コテージみたいなのが作れたら…いつか本当に旅立つ時が来たら話してみようかな。

 そう脳内で結論付けて天井を見ていた目を閉じようとした時、両側から私を抱きしめて寝ていた2人が目を開けた。

「…どうした?眠れないか?」
「何か考え事?」
「ごめんなさい、起こしちゃった?」

 謝ると左右の頬にキスしてくれる。

「気にすんな、元から寝てねえよ」
「そうだよ。何か気になるなら言ってごらん?」
「そんなんじゃないの。大丈夫」
「「…」」

 そう返すが2人は無言の笑顔。

「…言ってごらん?」

 ちゅっ。

「ん…べ、別に大した事じゃ…」
「なら言ってみろ…」

 ちゅっ。

「…ん…えと…山小屋みたいなの、持ち歩いてみたいな~…なんて。ほ、ほら、野営の時とかもベッドで寝られるし、簡単なキッチンがあったら食事も色々作れるし。テントと焚き火も好きだけどそういうのも良いかな…とか思ったんだけど…」

 キスに負けて白状してから言い訳するも、2人が驚きの表情で固まっているのでだんだん尻窄みになってしまった。

「あの…」

 ちょっと思っただけなので、とか言って何とか誤魔化そうとすると彼らがガバッと起き上がった。

「…持ち歩く…レオン、キラのインベントリなら余裕じゃない?」
「ああ、余裕だ。俺らで建てられればなお良いが、俺の大工スキルじゃそこまでは無理だな…」
「家具なら大丈夫だよ、ほら、神様から貰った鍛治スキルもあるし」
「そうだな、鍛治スキルで細工も家自体の補強も出来る。エヴァは魔力加工があるしな」
「うん、素材さえ手に入れば良い魔道具が作れる。キラの薬師スキルなら最強の魔除け薬も出来るし…」
「家本体だけ頼めば後は俺らで出来る。木材はどうする?」
「んー、頼んだ方が良いんじゃない?家に向いてる木とかあるだろうし…」

 2人の間に座っている私は、怒涛の勢いで進む話に戸惑いながら彼らを見上げる。

「あの…今すぐじゃなくても…そのうちとかで…」
「何言ってんだ、凄え良い案だぜ」
「そうだよ、オレたちじゃ思いつかない。キラは可愛い上に頭も良い」
「同感だ」
「「キラ」」

 蕩ける笑顔で交互に口づけられてそれ以上言い募るのはやめました…。

 その夜、2人は遅くまで興奮気味に話していた。明日大丈夫かな?そしてスノウ…これだけそばで声がしても全然起きないね…凄いよ。




 ※エヴァの魔力加工スキルは魔道具作りに欠かせないスキルです。
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