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13.褒賞金
しおりを挟む翌日、私は部屋でステータス画面の設定変更に没頭していた。
実は知らないうちに生活魔法(F)スキルが増えていたのだが、いつ何処で芽生えたのか全く分からなかったのだ。そういえばレベルが上がっても剣技を獲得しても特に知らせはなかったと思い出し、何とかならないものか考えた。そして設定変更でも出来ればと思ってダメ元で色々イジってみた所、期待通りのものが見つかったのだ。
まずは通知設定。全てOFFになっていたのをスキルに関してはONに変更。
次はインベントリ。新たに冷蔵や冷凍のカテゴリーを増設。時間経過は無いが冷える、という優れものだ。家電的魔道具がお高いこの世界では、飲み物なども常温で売られている方が多いようだったので思い付いた。
最後に称号の“転移人”と、念のため固有スキルの“複製”も非表示とした。これで万が一誰かにステータスを見られても大丈夫だろう。スキルはある程度増えたらまた設定しよう。
それにしても生活魔法かぁ、良いのが取れたな。
ヘルプによると生活魔法は日常生活に使う技を得られる魔法。周囲を綺麗にする清掃、火を灯す種火、洗濯や洗い物をする洗浄、物を乾かす乾燥、服を作る縫製などその用途は多岐にわたる。
私の生活水準が格段にアップすること請け合いだ。早速タライを出し、その中で自分の洗浄を試みると一瞬で全身ずぶ濡れに。
冷たッ!直ちに乾燥!
乾燥すると爽快感が身体を包む。服を着たままで出来るから野営の時には活躍しそうだ。冷たいのが難点だけど。
街を出なければ良いのだから買い物に行こうとドアへ向かった時、ノック音がしてギルマスからお呼びがかかった。
■
「失礼します」
部屋にはギルマスとプラフさん。促されてソファーへ腰掛けるとギルマスが切り出した。
「検証は終わった。キラの話通り魔素溜まり跡が見つかった。だな?プラフ」
「はい、確かに。魔物の数や強さ、その他様々な事柄から規模を調査し、褒賞額を決定しました。しかしながら…不思議な点があります。魔素溜まり跡の周囲は大概酷いものですが、今回の現場には僅かな血痕と倒れた木があるだけで他は全く荒れていませんでした。40体近い魔物を討伐した筈なのに、です」
冷静だったプラフさんは話すうちに段々興奮し、テーブルに身を乗り出して私を凝視する。
「…それが何か問題ですか?」
「問題も何も、キラさん。あなたはどうやって魔素溜まりを消滅させたんです?どうやったら魔物が魔石だけになるんです?」
あぁ、やっぱり聞かれたか。でも、わざわざ自分の手の内を晒す冒険者が何処にいるというのだ。
「お答えする必要はないと思いますが」
「話せないような手段なのですか?」
「止せプラフ」
「どうなんです!?」
ギルマスが止めに入るも全く効果なし。それどころかますますヒートアップして語気が強まり、何だか尋問でもされている気になる。
「それについてお話しする気はありません」
「キラさん、君は…!」
「いい加減にしろプラフ!サッサと褒賞金を渡せ!」
「ですが僕は…」
まだ言う?面倒な人だな…もういいや。
「ギルドマスター、プラフさん、褒賞金は辞退します」
元々お金目的で報告した訳でもないし、これ以上押し問答したくない。
「失礼しました」
私は立ち上がって礼をし、呆気に取られている2人を尻目に部屋を出た。
このまま買い物へ行こうとギルドの扉近くまで来た時。
「待てキラ!」
呼び止める声に振り向くとギルマスが追いついてきた。
「そういうわけにはいかないんだ。あいつは黙らせるから、戻ってくれ」
今にも手を合わせて拝み出しそうな表情をしている。人の少ない時間帯だが、なんだなんだとギャラリーが出来始めた。
「……分かりました」
部屋へ戻るとシュンとしたプラフさんがソファーの後ろに立っていたが、ギルマスは見向きもせずに手続きを進めた。
褒賞金の額は20万ギル。大金に驚く私に、今回は規模が比較的小さかったので魔素溜まりの褒賞金としては安いほうだ教えてくれた。受け取り書にサインすると、今度は冒険者ランクのアップが知らされた。それもFからDに飛び級である。
中級は下級より危険に晒される機会は増えるが、その分依頼の数も報酬も多い。これは素直にありがたいです。
諸々の手続きが終了すると、今度はすんなり解放された。その間プラフさんは一言も発さず、終始俯いていた。冷たいかもしれないが私に言わせて貰えば自業自得である。
私は今度こそ買い物に出かけた。
■
買い物後ギルドに戻って宿の食堂で夕食を食べていると、1人の青年がいきなり私に謝った。
どうやら昨日無断欠勤したウエイターが彼らしい。急に体調を崩して友人に代理を頼んでいたのだが、誰も来なかった上私がウエイトレスをしたと聞いて血の気が引いたとか。何度も頭を下げる彼に笑って話しかけると漸くホッとしたようだった。
食後お湯をもらって行水を済ませ、やっと物が増えてきたインベントリのリストを眺めるとちょっとニヤニヤしてしまう。
新たに増えたのはミルクやタマゴなどの乳製品と小麦粉、パン、お茶といった食料類。それにヤカンやティーポットなどの足りなかった食器と調理道具に、布や裁縫道具。あとやっとアイテムバッグを買えた。
現在の所持金、202,750ギル。無駄遣いせずに貯めておかなきゃ。
今日の複製はミルク、タマゴ、バター。チーズは明日にしよう。直接触れていなければ出来ないので他人からスキルを複製するのは困難、だから主に食料や日用品を複製していた。
終えた時『ピンポン』と電子音。もしかしてこれがお知らせ音かと思いステータスオープン。するとメッセージ。
《複製スキルがランクアップしました》
おぉ、Eランクだ。
回数も2/5になっていて2回残っていた。早速明日に回したチーズと、取っておいたゴブリンメイジの回復魔法(E)を複製。
【ステータス】
【名前】キラ
【年令】20才
【職業】冒険者
【レベル】29
【体力】146
【魔力】4891/4920
【攻撃力】58
【防御力】70
【素早さ】109
【スキル】剣術(S)・火魔法(F)・風魔法(F)・土魔法(F)・回復魔法(E)・解析(S)・危機察知(F)・生活魔法(F)
【固有スキル】複製(E)0/5
【称号】なし
ふふふ…スキルもいい感じに増えてきたなぁ。
固有スキルを非表示に戻してステータスチェックを終え、縫製に取り掛かる。サイズが微妙に合わないので服や下着も早く作りたいが、まずはローブだ。最初からあるマントは背面だけのタイプなので、すっぽり身体が隠れるフード付きが欲しい。人の視線は粗方気にならなくなったが、無用なトラブルを避ける為にも必要だ。
黒い布を手に取り作業を始める。生活魔法の縫製は今のところ技などは無く、ただ作り方が自然と頭に浮かぶといった感じ。Fランクなので難しい事は出来ないが、ローブや下着、簡単な服は作れる。
私は作業に没頭した。
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