異世界ライフは前途洋々

くるくる

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 通路から奥へ行くとまず食堂があった。ここは酒場の厨房とカウンターを挟んで繋がっている。カウンターでカギを見せると食事出来るシステムで基本的にはセルフサービスだ。食堂の更に奥は洗濯場になっていてタライや洗濯板は無料で借りられる。

  通路を挟んだ向かい側には食堂前に扉。洗濯場前に階段があって2階が宿の部屋、屋上に物干し竿がある。

  2階はただずらっと同じ部屋が並んでいるだけだ。自分の部屋のカギを開けて中へ。そこは6畳より一回り広く、ベッド とサイドテーブルにロウソク、コンテナ、それに小さな洗面台があった。部屋に洗面台があるのは嬉しい。

  さて、宿内と部屋は確認出来たし依頼ボードをチェックしてこよう。あ、その前にお昼か。広場まで行って戻るのもな…今はここで食べてしまおう。

  そう決めておにぎりでパッと昼食を済ませ、下へ降りた。

  3つのボードは下級、中級、上級に分けられている。依頼書には内容や報酬の他にマークが印されていた。マークは草と剣の2種類だが草が1本のものと3本のもの、剣にも1本と3本がある。内容を比べてみるとその違いが分かった。草は採集依頼、剣は討伐依頼で3本のものは対象の数が多い事からしてパーティー用だろう。

  文字を書けない者がいるという事は読めない者もいるという事。そういう冒険者の為の措置だ。

  理解できた所で下級ボードをチェック。やはり採集が多い。数少ない討伐はゴブリンやスライムだが報酬は低い。これでは中々稼げないと感じたところで、ギルドの宿にある新人300ギルや手伝いで割引き、のシステムがある理由に思い至った。

  きっと報酬の安い新人の為だよね。私も利用させていただきます。

  だいたい受ける依頼の目星を付け、カウンターに寄る。

 「あの、この辺りで採集出来るものとか、よく出る魔物とかの一覧か何か無いですか?」
 「あ、あります。少々お待ちください」

  先程とは別の窓口なので違う女性なのだが反応が似ている。何故か驚く、慌てる。ビキニアーマーが原因かと思っていたのだがどうやらそれだけではなさそうだ。・・・分からないけど。

  受付嬢は一冊の本を手に戻ってきた。意外とちゃんとした本だ。

 「これです。どうぞ」
 「ありがとうございます。数時間お借りして宿の部屋で読んできてもいいですか?」
 「はい、どうぞ」
 「ではお借りします」

  本を借りて部屋へ上がる私を、酒場の男性がさり気なく目で追っていたのだがそれには気が付かなかった。











 部屋へ戻って本に没頭しているうちに時間は過ぎ、夕方になった。

  この街の周囲にある3つの森、どの森で何が採集出来るか、どんな魔物が出るか、その他の情報も分かりやすく書いてあった。書いてあったのだが…説明と共に載っていた挿し絵が酷かった。この絵を参考にしたらまず目的の物を探せないだろう。

  …これなら挿し絵は要らない気がするよ。




  夕方のギルド内は昼とは全く異なる雰囲気だった。街の規模からして冒険者の数はあまり多くない気がしていたのだが結構な混み具合だ。互いに成果を自慢したり睨み合ったりしているのを見ると、やはり冒険者というのは血気盛んらしい。窓口に出来た列からも文句や怒声が飛び交っている。

  男性7割、女性3割。探してみたが女性の中にビキニアーマーは居なかった。リフ村でも冒険者に会わなかったのでこれが初対面、ちょっと緊張する。この装備は目立つだろうが仕方がない。私は本を返して頼んだ物の代金を受け取るため、ガラ空きの新規登録窓口へと足を踏み出した。




  キラの登場に周囲が騒めく。

  サラッと靡く長い銀髪、綺麗な顔に破壊力抜群のプロポーション。その体を惜しげも無く晒すビキニアーマー。男たちの視線は彼女の艶やかな姿に釘付けだ。特に存在感を主張しっぱなしの大きな胸やキュッと上がったお尻は、視姦罪が適用されれば罪に問えるほどの目ヂカラでガン見している。

  当然女性たちは面白くなくてキラを睨んでいた。

  それらの視線を物ともせずサッサと用を済ませる彼女に、ギルド員達も驚きが隠せなかった。




  カウンターに背を向けて宿の食堂へ向かう。背後から凄い数の視線を感じるし、混み始めた酒場からも見られている。緊張するがこれからもこの装備を使うのだから要は慣れだ。それに身体ばかり見る連中と関わるつもりもない。そのうち周りも見慣れるだろう。


 「お願いします」
 「…はいよ」

  食堂でカギを見せると酒場の男性が素っ気ない返事をする。

  見た目50代、私より少し背が高く、細いが割と筋肉が付いている。紫がかった短髪に色素が薄く吊り上がった瞳、愛想の無い表情。強面と言って間違いない。

  でも。

  彼は会った時から一度も私の体を見ない。きちんと目を見てくれる。それだけでも今の私にとっては信用に値する事だった。




  夕食を済ませてお湯をもらい、体と髪を洗ってから日課の複製をする。

  持ち物の中で複製出来ないのはオークの肉と魔除け香、それに服。同じ肉でもホーンラビットは出来るし下着もOKなのでそれぞれ数が揃ってきた。ランクが上がるのが楽しみです。

  やる事を終えたのでベッドへダイブ。ここまでの3日間は寝不足気味で通してしまった。またどこかの街に旅する時は何か対策を考えないと…と思っているうちにうつらうつらし、知らない間に眠りについた。


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