天狗と骨董屋

吉良鳥一

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縄張り争い(下)

第六話

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 秋人も真尋同様自分の定位置に座る。
 先に話し始めたのは真尋だった。

「……秋人さん怪我もういいの?」

「ああ、全く問題ない」

 全身血塗れで重傷を負っているように見えたが、本当にもう大丈夫なのかと真尋は不安だ。
 しかし秋人はそれよりもと、真尋に厳しい目を向ける。

「何故お前が彼処にいた?」

 あの戦場に何故いたのか、秋人は気になっている。
 真尋はその質問にたまたま避難した先に秋人の気配がし、更に秋人が天狗に殺されそうになっていたからだと答えると、秋人から馬鹿者と叱られる。

「あの危険な場に飛び出して来るなど言語道断!!
お前が死んでいたかもしれないのだぞ」

「……そ、れは………」

「お前に何かあったらお前を預けてくれたあのに顔向けが出来ない……
お前を失ったら私は生きていけない……」

 あの娘とは真尋の母の事だ。
 秋人にとっては孫娘に当たる。
 そんな孫娘が大事な息子を預けてくれたのだ。
 何かあっては申し訳が立たないし、秋人にとって真尋はこの世で一番大切な家族だ。
 
「そんなの俺だって……
秋人さんがいなくなったら俺はどうすればいいんだよ!?」

 だからと言ってそう簡単に割り切れるものではない。

「私が任務で死ぬ可能性があることは承知の筈」

 そんなことは分かっている。
 一緒に暮らし始めた頃から、それは言われてきた。
 だが、いざそれを目の前にすると怖くなった。
 
「怖かったんだ……
秋人さんは俺にとって大切な家族だ。
俺だって秋人さんを失うのは嫌だ!!」

 そう言って真尋は涙を流した。

「……真尋」

 その涙を見て秋人は少し狼狽える。
 この家に来てから案外芯の強い彼がこんな風に泣いたのを見たことが無い。
 いや、一度だけあるか……

 真尋がまだ11歳の時、椅子の上でふざけて遊んでいたら椅子が倒れ、顔面から床に叩き付けられて怪我をして鼻血が出た時に泣いていた。

 それ以来の涙に秋人はそれ以上何も言えなくなった。
 もう大人と言えどたかが18年、19年生きた程度だ。
 秋人が生きてきた年数に比べると赤子同然だと思った。

「すまない、少々言いすぎたな……
助けてくれてありがとう……」

「秋人さん……」

 秋人と言う存在は彼の謂わば親だ。
 まだまだ雛鳥の真尋には無くてはならないものだった。
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