ギャペラ～獣の世界に落ちて～

愛

第二話

 ケイの為に綺麗にしてくれた部屋に約17年ぶりに足を踏み入れた。

 だが残念ながら記憶には無く、懐かしいと言う感情は湧かなかった。

 するとケイの目はベッドの上に置かれていたぬいぐるみに向かった。
 猫の耳と尻尾の付いたギャペラの人形だ。

｢それね、君が好きだった人形なんだよ｣

 ラジェッドとミーシェが傍に来てそう教えてくれた。
 それを手に取ったケイは何だか見覚えのあるような無いような、やはり記憶は定かではなかった。

 しかしラジェッドが言った一言にケイは反応した。

｢この人形にミュピリーって名前付けて大切にしていたんだ｣

｢え？｣

｢ミュピリーは子供用の本に出てくる登場人物で｣

｢それ、俺んちの猫の名前なんだけど｣

｢ねこ……？｣

 ミュピリーはケイが小さい頃から飼っていた猫の名前だった。
 その猫ミュピリーは元野良のシャム猫で、人慣れしていない成猫だったのに、ケイにはとても懐いて家まで着いてきてしまったのでそのまま飼うことにしたと養母から聞いた。

 その頃はまだ養父母に引き取られて１年くらいで、ケイはその猫をミュピリーと呼んで嬉しそうに遊んでいたと言う。

 確かにこの人形は飼っていた猫の色とそっくりだ。
 残念ながら一年前に病気で死んでしまった。
 まぁ、だいぶ高齢だったから仕方無い事ではあったが。

｢そっか……｣

 自分がここに居た事の証拠があった。
 ずっと自分がこの世界の住人だったのだと理解はしていたが、実感はなかった。
 本当の両親と再会はしたが、やはり自分がこの世界に居たんだとは実感が出来なかった。

 でもこの人形が漸くその証拠をくれたのだ。