上 下
95 / 113

ノ95 雲峡と老仙人

しおりを挟む
 雲峡がそれとなく口にした天仙竺十権とは、仙人界において仙力や知力などが総合的に評価され、厳選された実力者で束ねられた仙王を除けば仙人界の頂点とも云える組織である。

 勿論、仙人界において一、ニを争うほどの実力を持つ雲峡も天仙竺十権への誘いを受けたことはあったけれど、権力者になることや集団行動を嫌う彼女は鼻で笑い断っていたのだった。

 何者にも縛られず自由に生きることを好む雲峡ではあったが、天仙竺十権に席を置かずとも仙人界に異変があれば率先して問題解決に取り組んでもいる。その際にも他の仙人達と行動を共にするということは極力避けていた。
 
 と、彼女の行動はあからさまに自己中心的であり、周りの仙人達もとうの昔に承知していたのでこれといって非難を浴びせる者は一人も居なかった。

 そんな自分なりの生き方や正義感にかような拘りを持つ雲峡が、雅綾の亡骸のそばで静かに立ち手を合わせる。

「雅綾爺、こんな...ボロ雑巾のような姿は目にしたくはなかったぞ...」

 そう言って雲峡は雅綾のそばを離れ、今度は府刹那の亡骸の横に立ち同じように手を合わせる。

「ふ、府刹那爺...無様な姿になってしまったなぁ...」

 彼女は悲しそうな顔をしてしみじみと亡骸に語りかけた。

 この死んでしまった二人の老仙人と雲峡、全く関係無さそうな間柄に見えて実は少なからず繋がりがあった。

 雲峡は純粋な仙人の両親の間からこの世界に生まれ、小さかった頃にその両親を不可思議な事件により失っている。
 小さかった雲峡は深い悲しみに暮れ、両親と住んでいた家に一ヶ月ほども閉じ籠り、飲まず食わずでひたすら泣き腫らしたという。
 
 幼くして両親を突然失い、悲しみから立ち直りつつあった雲峡を陰で支えていたのが、彼女と年齢差が五百以上もある雅綾と府刹那の二人であった...
 
 幼かった彼女は健気にも、何とかして一人で生きていこうという固い意志を保ち、誰を頼ろうともしなかったものである。

 しかし両親から生活する術を殆ど教わっていなかった彼女は、単身ではどうしようもない壁に時よりぶつかっていた。

 ある意味気高いとも取れる彼女の性分を察していた雅綾と府刹那は、彼女の自尊心が傷つかないよう配慮して手助けしていたのである。

 そのような手助けが一度やニ度ならまだしも、長年に渡り起こったのであればいくら幼く感の鈍い雲峡でも、二人の己に助け舟を出す行為に気付かぬ筈もなく、いつしか気の良い爺さんと孫娘のような微笑ましい関係が築かれたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

孕ませねばならん ~イケメン執事の監禁セックス~

あさとよる
恋愛
傷モノになれば、この婚約は無くなるはずだ。 最愛のお嬢様が嫁ぐのを阻止? 過保護イケメン執事の執着H♡

婚約者の幼馴染?それが何か?

仏白目
恋愛
タバサは学園で婚約者のリカルドと食堂で昼食をとっていた 「あ〜、リカルドここにいたの?もう、待っててっていったのにぃ〜」 目の前にいる私の事はガン無視である 「マリサ・・・これからはタバサと昼食は一緒にとるから、君は遠慮してくれないか?」 リカルドにそう言われたマリサは 「酷いわ!リカルド!私達あんなに愛し合っていたのに、私を捨てるの?」 ん?愛し合っていた?今聞き捨てならない言葉が・・・ 「マリサ!誤解を招くような言い方はやめてくれ!僕たちは幼馴染ってだけだろう?」 「そんな!リカルド酷い!」 マリサはテーブルに突っ伏してワアワア泣き出した、およそ貴族令嬢とは思えない姿を晒している  この騒ぎ自体 とんだ恥晒しだわ タバサは席を立ち 冷めた目でリカルドを見ると、「この事は父に相談します、お先に失礼しますわ」 「まってくれタバサ!誤解なんだ」 リカルドを置いて、タバサは席を立った

【完結】真実の愛とやらに目覚めてしまった王太子のその後

綾森れん
恋愛
レオノーラ・ドゥランテ侯爵令嬢は夜会にて婚約者の王太子から、 「真実の愛に目覚めた」 と衝撃の告白をされる。 王太子の愛のお相手は男爵令嬢パミーナ。 婚約は破棄され、レオノーラは王太子の弟である公爵との婚約が決まる。 一方、今まで男爵令嬢としての教育しか受けていなかったパミーナには急遽、王妃教育がほどこされるが全く進まない。 文句ばかり言うわがままなパミーナに、王宮の人々は愛想を尽かす。 そんな中「真実の愛」で結ばれた王太子だけが愛する妃パミーナの面倒を見るが、それは不幸の始まりだった。 周囲の忠告を聞かず「真実の愛」とやらを貫いた王太子の末路とは?

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです

こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。 まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。 幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。 「子供が欲しいの」 「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」 それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。

【完結】双子の伯爵令嬢とその許婚たちの物語

ひかり芽衣
恋愛
伯爵令嬢のリリカとキャサリンは二卵性双生児。生まれつき病弱でどんどん母似の美女へ成長するキャサリンを母は溺愛し、そんな母に父は何も言えない……。そんな家庭で育った父似のリリカは、とにかく自分に自信がない。幼い頃からの許婚である伯爵家長男ウィリアムが心の支えだ。しかしある日、ウィリアムに許婚の話をなかったことにして欲しいと言われ…… リリカとキャサリン、ウィリアム、キャサリンの許婚である公爵家次男のスターリン……彼らの物語を一緒に見守って下さると嬉しいです。 ⭐︎2023.4.24完結⭐︎ ※2024.2.8~追加・修正作業のため、2話以降を一旦非公開にしていました。  →2024.3.4再投稿。大幅に追加&修正をしたので、もしよければ読んでみて下さい(^^)

他国から来た王妃ですが、冷遇? 私にとっては厚遇すぎます!

七辻ゆゆ
ファンタジー
人質同然でやってきたというのに、出されるご飯は母国より美味しいし、嫌味な上司もいないから掃除洗濯毎日楽しいのですが!?

クラス転移で神様に?

空見 大
ファンタジー
集団転移に巻き込まれ、クラスごと異世界へと転移することになった主人公晴人はこれといって特徴のない平均的な学生であった。 異世界の神から能力獲得について詳しく教えられる中で、晴人は自らの能力欄獲得可能欄に他人とは違う機能があることに気が付く。 そこに隠されていた能力は龍神から始まり魔神、邪神、妖精神、鍛冶神、盗神の六つの神の称号といくつかの特殊な能力。 異世界での安泰を確かなものとして受け入れ転移を待つ晴人であったが、神の能力を手に入れたことが原因なのか転移魔法の不発によりあろうことか異世界へと転生してしまうこととなる。 龍人の母親と英雄の父、これ以上ない程に恵まれた環境で新たな生を得た晴人は新たな名前をエルピスとしてこの世界を生きていくのだった。 現在設定調整中につき最新話更新遅れます2022/09/11~2022/09/17まで予定

処理中です...