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ノ49 光る眼

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 二人が暗黙の了解のもと押し黙ったまま会話もせず、森の暗闇に目を向け狼を警戒していると...

「来た...」

 狼の襲来に伊乃が先に気付いた。

 木と木のあいだの暗闇に、焚き火の反射によって光を帯びた狼の鋭い眼が浮かんでいる。
 それが一つ、また一つと瞬く間に増えていく...

「十はいやがるな...」

 男は肝が据わっているのか冷静に数を数え、暗闇に浮かんだ光る眼に向けて弓を構える。

 伊乃も男にならい足元の石を拾い上げいつでも投石できる体勢を取った。

 すると複数の光る眼が徐々に二人の方へ近づき、十数匹の狼達の姿がはっきりと分かるまでになった。

「グゥルルルルル....」

 空腹の狼達が獲物を前にし涎を垂らして喉を鳴らす。
 十数匹の狼に対して伊乃はたったの二人。もし、狼の群れが数にものをいわせて襲い掛かって来れば、捌ききれずに噛みつかれるは必至。

 どう見積もっても圧倒的に不利な状況、伊乃と男がどうすべきか個々に思案する最中、先頭の狼が二人に向かって駆け出しニ匹の狼がそれに続き跳躍して襲いくる!

「ていぃっ!!」

 男が矢を放つより早く伊乃が石を投げつけた!

「バゴォォッ!!!」

「ギャフッ!!??」

 弾丸の如き速度で飛ぶ石が先頭の狼の額を砕いてぶち抜いた!!
 だが後続の狼二匹が怯まず二人へ飛びかかる!

「ザシュッ!!」

「ギャン!?」

 片方の狼の眼に男の矢が見事命中した!が、残るもう一匹が伊乃の目前まで接近する!

「バッキィッ!!」

「ギャッ!!??」

 狼の牙が伊乃の顔に到達しようかという寸前、彼女は一投したあと即座に拾い上げていた大きな石で豪快に狼の頭をカチ割った!!

 二人が三匹の狼達に当てた攻撃は全て致命傷となり、地べたにはその死骸が無惨に転がる。

 三匹を倒したとはいえ残る狼の数はまだ十匹以上。
 伊乃と男は油断せず、各々が武器となる石と矢を再び急ぎ構えた。

 だがこの行動は杞憂に終わる。

 何故なら、残りの狼達は人間に一瞬でやられてしまった仲間の無惨な姿を見て、既に戦意を喪失していたのである。

 一匹がゆるりと踵を返し、正に尻尾を巻いて逃げ出すと、他の狼達もそれに続いてあっという間に消え去った。

 これが人間であったならば残りの総戦力でもって攻めて来たのであろうが、徒党を組んで獲物を狩る狼とはいえ、流石にそこまでの知恵は無かったのであろう。
 
 狼の群れが予想外に早く退散するのを見た二人がホッと胸を撫で下ろし、命を賭した緊張が解けて薪木の上に腰を下ろした。
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