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ノ47 森の焚き火

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 彼女は森の道を歩きながら久しく感じていなかった解放感に浸っていた。
 幼い頃はあんなに働き者で優しかった両親からの束縛。しかも自分らの至福を肥やすため、実の子供に労働を強いるまでに変わり果てた両親との生活は、彼女にとってもはや苦痛でしかなかったのである。

 鼻歌混じりに鮮やかな紅葉の景観を楽しみつつ歩き続け、脚の速い彼女が幾つかの小さな山を越えたところで、辺りはいつの間にやら暗くなり、急に冷たくなった空気の所為で身体が冷え込んでいく。

 何処かで火を起こして飯でも食べようかとキョロキョロすると、ちょうど森の木が円を描くように立ち並ぶ場所を見つけることが出来た。

 伊乃はさっそく周辺の枯葉と薪木を拾い集め持参した芋を枯葉の下へ潜り込ませ、愛用の火打石で火をつけようと試みる。

「よ~し、此処は運試しでもしてみようか...一発で火が点けばオラのこの先の人生はきっと上手くいく、もし、点かなければぁ、まぁそれなりで...」

 と、どちらにしても悪い方向でないことを持ち出す伊乃。
 ある意味、楽観主義的な考えで良しとしようではないか...

「せ~のっ!」

「パキン!」

「ジュウッ!」

 想いを込めた馬鹿力の火つけによって、火打石は見事なくらい真っ二つに割れてしまったけれど、発生した特大の火花が枯葉に直撃して上手いこと赤く燃え出したのだった。

 彼女は出来上がった火元に枯葉と細めの薪木を乗せ、口を尖らせて「フゥ、フゥ」と空気を送る。

 火がある程度成長し安定したところで重ねた薪の束に腰を下ろし、一息ついた彼女は突然クスクスと笑い出した。

「フフフ、運試しは成功に終わったということで...あとは焼き芋を食べてたっぷり寝るとするか...」

 普通の若い女なら暗い森にたった一人でポツンと座っていれば、不安になってしょうがない筈なのだが、幸いにしてと云うか運命と云うべきか、彼女は普通の女でなかったお陰で不安がる気配は皆無であった。

 そんな彼女が黙ったまま焚き火を見つめていると、寒くなった夜ということもありことさら火の暖かみを肌で感じ、瞼が下がってウトウトとし始めた。

 しかし、そんな穏やかな空気を一変させる獣の遠吠えが突如として森の中に響き渡る。

「ワオォーーン!」

 静まり返った森なれば、その遠吠えはことのほか遠くまで届いたであろう。
 そして。

「ウオォーーン!」

 ほどなくして仲間の獣が遠吠えによって応えた。
 昔の日本に獣の種は多々あれど、こういった習性を持つ獣とくれば限られてくる...
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