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ノ43 里村伊乃(さとむらいの)

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 仙人には大きく分けて二通りの種があるらしい。
 一つは仙人界で生きる男女の仙人が恋をし、やがて実を結んで産まれる純血の仙人。
 そしてもう一つは、人間界で普通の人間として産まれ、至極稀だが仙人の体質に近しい者が試練を乗り越えて仙人と成る場合であり、聖天座真如は後者にあたる。

 時は安土桃山時代以前の室町時代まで遡る。
 彼女は江戸時代でいうところの備中国(びっちゅうのくに)の貧しい百姓の家に生まれた。
 人間としてこの世に生を受けた彼女の名は里村伊乃(さとむらいの)。

 と云うわけで、彼女には人間であった頃の里村伊乃と云う名と、仙女になってからの聖天座真如と云う二つの名があるけれど、暫くのあいだは里村伊乃の方で語ることと致しましょう...

 伊乃を育てた両親は、母親が百姓の女にしては美しい顔立ちをしていることを除けば、至って普通を絵に描いたようような夫婦であった。

 美しい母親の血が濃かったのか、伊乃が五歳に成る頃には顔立ちもある程度整い、何処ぞの姫かと見紛うほどの可愛さを持ち合わせていた。

 伊乃の両親は毎日よく働いてはいたが、貧しい暮らしはどうしようもなく続き、日々の食事も極めて質素なものとなり、両親は勿論のこと、成長期の伊乃の身体にも充分な栄養が行き渡っているとは云い難く、家族揃って痩せ細っていた。

 取り分けて伊乃と両親だけが苦しい生活をしていたわけではなく、彼女の住む集落の人々は皆が皆似たような暮らしをしていたものだった。

 そんな不遇な環境の中で生きていた伊乃であったけれど、不思議というか幸いというか五歳に成るまで病気という病気を一度として患らわず、両親を「健康な子で良かった」と安心させていたものである。

 極端に健康的で可愛い部分以外は他の子供らと何ら変わりのない伊乃であったけれど、共に穏やかな性格の両親を、目の玉が飛び出るほどに驚かせた出来事を起こす。

 それは、激しく雨の降る雨季を越え、カラッとした天気の続いたある日のこと、いつものように両親の畑仕事について行った。

 両親が畑仕事に精を出しているあいだ、伊乃は畑の周りで一人遊びをするのが常だったのだが、この日の彼女は汗水垂らして働く両親の手伝いをしようと思ったらしく、鍬で畑を耕す母親の元へ近づき申し出る。

「おっかぁおっかぁ!オラにもやらせてくんろ」

 愛する娘が初めてする手伝いの申し出に、母親のトヨが額の汗を腕で拭って応える。

「ありがとねぇ伊乃。でもあんたは未だちっちゃいから畑仕事は無理だよぉ」
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