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ノ31 仙女になる方法

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 店の中から湯呑みの乗ったお盆を片手に、団子屋の娘が慌てて勢い良く飛び出してくる。

「お茶を忘れてました~!ほんっとうに申し訳ございませ~ん!出来立てアツアツですのでお気をつけて呑んでくださいまし~」

 と、聖天座真如の目の前で急停止した彼女は慌ててはいたが、熱いお茶の入った湯呑みを丁寧にそっと、長椅子の上へ置いた。

 余談だけれど、抹茶とは異なる煎茶という種のお茶は江戸時代初期頃、中国より隠元禅師(いんげんぜんじ)という人物が伝えたらしく、江戸幕府の儀礼に取り入れられ、いつしか武家社会などには欠かせぬものとなったそうな。
 お茶という呑み物の歴史を詳しく紐解けば、幾らでも余談を続けられそうで怖いのでここら辺でやめておこう。

 さて、アツアツの熱いお茶であると忠告されたばかりの聖天座真如が、忠告など聴こえていなかったようにガシッと片手で掴み口元へ持っていく。

「ゴクゴクゴクゴク...ぷはぁ~!茶も美味い!店は小さくてボロく見えるがぁ、なかなかどうして上等な団子屋じゃぁ」

 熱いお茶を一気に呑み干した堕仙女は、殊の外満足そうにそう語った。
 隣に座る仙花が珍獣でも見るような眼差しで言う。

「真如様には驚かされっぱなしじゃ。そんな呑み食いは肝っ玉の大きい儂の父でも無理であろうな...ではそろそろ教えてもらえぬだろうか?」

「...おっ、そうそう、仙人界を追放された時の話じゃったかのう」

「いやいや、堕仙女となった話はもはや完全に不要じゃ。仙女になる方法、この一点だけを詳しく教えて欲しい」

 己の過去を語りたいという意思をバッサリと斬り捨てられた聖天座真如が、残念そうな顔をして話し出す。

「...良いじゃろう、あんまり焦らしてもかわいそうじゃしなぁ。これより語ることは一度しか云わぬ、心して聞くが良い」

 遂にというかやっとというか、ようやく本題の話しが聞けると感じた仙花の表情が引き締まる。

「うむ、心得た。さぁ話してくれ」

 聖天座真如の視点が遠くにある海の水平線へと移り、記憶を手繰り寄せるようにして語り始める。

「...仙人、仙女、まぁ呼び方はどちらでも良いのじゃが、普通の平民であり人間であった儂が仙女となったのは、今より二百年くらい前になるかのう」

「おいおい待て待て、真如様の昔話は不要じゃと言っておろう」

 二百年という驚きの年月を無視して、仙花が話の途中で突っ込みを入れた。

「くっくっくっ、そう年寄りを急かすでない。遥か昔の記憶を呼び戻すには順序立てて語った方が効率が良いのじゃよぉ。先に云ったように、なんせ儂が仙女になったのは二百年ほど昔になるのじゃから...」

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