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ノ19 怪力乱神の真土間(まどま)

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 「まさか闇雲が背後に居るのか!?」
などと唐突に頭をよぎった蓮左衛門が背後を振り向むくと...

「ぬっ!?もしやあれが仇の闇雲ではござらんか!?」

 直ぐ近くというわけではなかったけれど、20mほど離れたポツンと一本立つ大きな木の上に、霧状の黒い物体がうようよと不規則な動きをして空中に浮かんでいるのが見えた。

 嵐が去って間もないというのに天を覆っていた雨雲は消え去り、いつの間にやら顔を出した月が淡い光で闇夜を照らし、黒色ゆえに見辛いはずの闇雲の姿を認識できたものである。

「如何にも...あれが大切な我が夫と娘の仇、怪異の闇雲にございます。奴は人の恐怖心を察知して近づき命を奪う者。十分にお気をつけくださいませ...」

「承知したでござる...」

 先程まで勢いのあった蓮左衛門は正直なところ戸惑っていた。

 お雛の過去の話しによれば、闇雲はあっという間に親子を包み込みんで命を奪い去っていったということである。

 はて、そのような相手に刀を使用する接近戦が果たして可能なのか...

 蓮左衛門が己の内に潜む怪異に呟くように話しかける。

「真土間(まどま)。お前の力で奴を仕留められそうでござるか?」

 話しかけた相手は怪力乱神(かいりょくらんしん)の怪異「真土間」。蓮左衛門の人間離れした怪力はこの真土間と契約したことにより、元々素でも強かった怪力が輪をかけて強化されたものであった。

 その怪力の塊のような怪異たる真土間の返答が蓮左衛門の心に届く。

「悪いが無理だな」

「なっ、何と!?」

 時間をかけず余りにもキッパリあっさりとした諦めの言葉に蓮左衛門は動揺した。

「怪異のワシがいうのもなんだが、同じ怪異であっても属性や形態による相性ってものがある。ワシは物理的な力に超絶自信を持っちゃぁいるが、闇雲って奴には物理的な力がてんで効かない。つまり、ワシとお前であいつを倒すのは不可能ってもんだな」

「ぐっ、それではお雛さんとの約束が果たせぬでござる。何か策は無いのか?」

「無い!今お前にできることはせいぜい命を奪われぬよう全力で逃げることくらいだ」

「ぐぐ...」

 考えが足らなかった。といえばそれまでであろう。だが、真土間の言ったことが正しいにしても悔しすぎる...蓮左衛門は何もできない歯痒さで音が口から漏れるほど歯軋し考えた。

 と、蓮左衛門が不意に横を向いたが九兵衛の姿がない。
 闇雲の浮く場所へサッと目を向けると...

「お雛さんと家族の仇!今こそ貴様を討ってやるでやんす!!」

 たった一本の棒っきれを手に持ち、闇雲の方へ無謀にも突撃する九兵衛の姿があった。
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