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ノ14 幸せな家族
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「...わたくしは「お雛(おすう)と申します。大切な家族についてお伝えたいことがあり、あなた方の前に姿を現しました...聞いておくんなまし...」
お雛は二人に対して名を名乗り、あまり喋る印象の無い幽霊ではあったものの、否、長々と語る幽霊など皆無かも知れないが...兎にも角にも、自身と家族の身に何が起こったのかを静かに語り出したのだった...
時は一年ほど前まで遡る。
とある朝、家の中ではお雛とその家族である夫の仲井戸一太郎(なかいどいちたろう)と、歳の頃は八つに成ろうという可愛らしい娘の吟(うた)の三人は、囲炉裏を囲んでゆっくり飯を食べていた。
一太郎は顔こそ普通そのものであったが、働き者で真面目な家族おもいの良い男。
お雛は一太郎の嫁には勿体ないと人に噂されるほど器量が良く、此方も働き者で笑顔の似合う良い女である。
娘の吟はというと顔はお雛に似たのか、将来は美人確定であろうことは容易に想像でき、性格も優しく朗らかな子供であった。
仲井戸家は貧乏であったものの、それ以外は絵に描いたような幸せな家族である。
この日は吟のたっての願いが叶い、一太郎と小舟に乗って釣りをすることになっていた。
一太郎は、「お雛も一緒にどうだ?」と誘ったのだけれど、家事の忙しかったお雛は「二人で楽しんでらっしゃいな」と微笑んで応えたものである。
朝飯を食べ終わり、一太郎が家の外に掛けていた二本の釣竿を手に持ち、小舟のある砂浜へ吟を連れ歩いて向かう。
仲井戸家の日頃の行いが善い所為か、この日は天気に恵まれて波も穏やかな絶好の釣り日和になった。
長きに渡って楽しみにしていたということもあり、吟のはしゃぎようときたらない。
このままではとても小舟に乗せられないと、一太郎は落ち着かせるのに苦労したものである。
ようやく落ち着かせたところで吟を持ち上げ小舟に乗せ、見送りに来たお雛から水の入った竹筒を受け取り海に出た。
お雛は海岸から小舟が点に見えるまで手を振り二人を見送った。
彼女は家の方を振り返り、「今夜の夕飯は楽しみねぇ」などと言いながら帰って行った...
彼女は夫と娘の釣果がどれほどあり、釣りを楽しめていたかなどということは、一緒に行かなかったため良くは知らない。
これは後から、海の上でたまたま二人に出会した人の話しによれば、見ている方が嬉しくなるほど、それはそれは楽しそうに釣りを楽しんでいたと云うことである。
無論、お雛が本人達から直接話しを聞けなかったのは、二人に災難が降りかかったからに他ならないのだが...
お雛は二人に対して名を名乗り、あまり喋る印象の無い幽霊ではあったものの、否、長々と語る幽霊など皆無かも知れないが...兎にも角にも、自身と家族の身に何が起こったのかを静かに語り出したのだった...
時は一年ほど前まで遡る。
とある朝、家の中ではお雛とその家族である夫の仲井戸一太郎(なかいどいちたろう)と、歳の頃は八つに成ろうという可愛らしい娘の吟(うた)の三人は、囲炉裏を囲んでゆっくり飯を食べていた。
一太郎は顔こそ普通そのものであったが、働き者で真面目な家族おもいの良い男。
お雛は一太郎の嫁には勿体ないと人に噂されるほど器量が良く、此方も働き者で笑顔の似合う良い女である。
娘の吟はというと顔はお雛に似たのか、将来は美人確定であろうことは容易に想像でき、性格も優しく朗らかな子供であった。
仲井戸家は貧乏であったものの、それ以外は絵に描いたような幸せな家族である。
この日は吟のたっての願いが叶い、一太郎と小舟に乗って釣りをすることになっていた。
一太郎は、「お雛も一緒にどうだ?」と誘ったのだけれど、家事の忙しかったお雛は「二人で楽しんでらっしゃいな」と微笑んで応えたものである。
朝飯を食べ終わり、一太郎が家の外に掛けていた二本の釣竿を手に持ち、小舟のある砂浜へ吟を連れ歩いて向かう。
仲井戸家の日頃の行いが善い所為か、この日は天気に恵まれて波も穏やかな絶好の釣り日和になった。
長きに渡って楽しみにしていたということもあり、吟のはしゃぎようときたらない。
このままではとても小舟に乗せられないと、一太郎は落ち着かせるのに苦労したものである。
ようやく落ち着かせたところで吟を持ち上げ小舟に乗せ、見送りに来たお雛から水の入った竹筒を受け取り海に出た。
お雛は海岸から小舟が点に見えるまで手を振り二人を見送った。
彼女は家の方を振り返り、「今夜の夕飯は楽しみねぇ」などと言いながら帰って行った...
彼女は夫と娘の釣果がどれほどあり、釣りを楽しめていたかなどということは、一緒に行かなかったため良くは知らない。
これは後から、海の上でたまたま二人に出会した人の話しによれば、見ている方が嬉しくなるほど、それはそれは楽しそうに釣りを楽しんでいたと云うことである。
無論、お雛が本人達から直接話しを聞けなかったのは、二人に災難が降りかかったからに他ならないのだが...
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