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ノ10 蜘蛛の巣

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「おぉぉわぁっ!!??」

 最初に足を踏み入れた仙花が裏返る声で悲鳴をあげた!

「仙花様っ!?大丈夫でござるかっ?」

 心配した蓮左衛門が瞬時に仙花の安否を確かめる。

「いやぁ、すまぬな...恥ずかしい話、ねっとりとした蜘蛛の巣が顔面に纏わりつき、不本意にも思わず声をあげてしまったのじゃ...」

 彼女は言葉遣いこそ古めかしいが、冷静に考えれば、否、冷静に考えずとも未だ16歳の裏若き乙女だ。暗闇でねっとりと纏わりつく蜘蛛の巣に触れ、悲鳴をあげたからといって恥ずかしがることなど一つもないのだが、彼女としては家臣の前で動揺したことを恥ずかしく思ったのであろう...

「蜘蛛の巣に驚いただけでござったか...しかし、外は雨も降っておりますゆえ暗闇が一層深いでござるなぁ...」

 蓮左衛門の言った通り外の雨は降り続け、その雨雲によって月が隠れて光は閉されて、屋内は真っ暗闇で足下もほとんど見えない有様であった。

 と此処で、「うっかり九兵衛」がうっかり者の本領を久々に発揮する!
 
「ぬぅあっひ~っ!!??」

 仙花が蜘蛛の巣の餌食になったばかりだというのに、うっかり蜘蛛の巣に顔を突っ込みさらに大こけしたのであった。

「九兵衛あんたってやつは...灯りをつけてやるから暫く動くんじゃないよ...火遁、火球の術!」

 お銀が忍術を発動し、右の掌に小さな火の玉を出現させ、暗闇で見えなかった屋内の一部が火の光に照らされ明らかになった。
 と此処で、またもや九兵衛が情けなくも悲鳴をあげる。

「ぐぁっひゃぁぁぁ!?ががが、骸骨でやんすよ~!」

 こんな時でも寝ている雪舟丸を除き、「三人が今度は何事か!?」と九兵衛の居る場所へ視線を向けると、派手に転けた九兵衛のそばには三体の白骨死体が並んでいた。

 白骨死体の大きさはそれぞれ異なっていて、一番大きな白骨死体を父親として考えると、次が母親、最も小さいのが子供のものであり、三人家族だったのではないかと予測出来る。あくまでも単純な想像ではあったが...

「九兵衛、其方は優秀な医師であろう。医療に通ずる者が白骨死体くらいで驚くでない。まっ、まぁ儂も今回ばかりは人のことを言っておれぬがのう」

 やはり仙花は蜘蛛の巣で驚いてしまったことを恥じているらしい...

「へ、へい...でもでもぉですねぇ、心構えがあって見るのとそうじゃないのとでは『びっくり』の度合いが違うでやんすよぉ...」

「はいはい、あんたの言い分はわかったわかった。それより早くそこをどいておくれでないかい」

 お銀に冷たくあしらわれる九兵衛であった。
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