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第74話 大漁
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祖父は年齢的に考え僕にはまだ早すぎると踏んだのか、鰤や鯛といった大物ではなく、小学三年生でも楽しんで釣りのできる小ぶりで手頃な獲物の泳ぐポイントへ船を動かしてくれた。
祖父にとって赤ん坊の頃から生活している離島周囲の海は、隅々まで知り尽くした家の庭のようなものらしく、どのポイントでどんな魚が釣れるのか把握しているようで、移動した先では、この地域で「クサビ」や「アラカブ」と呼ばれる小ぶりな魚を十匹以上釣ることが出来た。
潮風漂う気持ちの良い環境の中たっぷりと釣りを楽しみ、八割がたは祖父の釣った獲物ではあったけれど、十二分に大漁と云えるほどの釣果があがったものである。
夢中になって続けた釣りが充実感で満たされた頃、何気なく太陽のある方向に目を向けると、黄色だった太陽がいつの間にか真っ赤に染まり、あともう少しで水平線に触れようかという風景となっていた。
「一、暗くなっでもう家に帰らんといかんが」と祖父が言い、僕が「そうだね」と相槌を打つと、祖父は運転席に回り込みキーを回してエンジンをかけようとする。
だが今まで何事もなくスムーズにかかっていたエンジンが、ここに来て急に「うん」とも「すん」とも言わない。
祖父が何度も試してみたものの、船のエンジンがかかる兆しは残念なことに感じられなかった...
祖父にとって赤ん坊の頃から生活している離島周囲の海は、隅々まで知り尽くした家の庭のようなものらしく、どのポイントでどんな魚が釣れるのか把握しているようで、移動した先では、この地域で「クサビ」や「アラカブ」と呼ばれる小ぶりな魚を十匹以上釣ることが出来た。
潮風漂う気持ちの良い環境の中たっぷりと釣りを楽しみ、八割がたは祖父の釣った獲物ではあったけれど、十二分に大漁と云えるほどの釣果があがったものである。
夢中になって続けた釣りが充実感で満たされた頃、何気なく太陽のある方向に目を向けると、黄色だった太陽がいつの間にか真っ赤に染まり、あともう少しで水平線に触れようかという風景となっていた。
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