61 / 168
第59話 小雨
しおりを挟む
台所の流し台とくれば普通は蛇口が付いているのが当たり前だが、この廃墟にはそのあって当たり前の蛇口が無い。
淀鴛さんの話しを聞いていなければ、僕は大いに違和感と疑問を抱いたことであろう。
廃墟に蛇口が無いのは水道が通っていないのが理由であり、普段の生活水は古くから存在する外の井戸から汲み取って使用していたのである。
確か淀鴛さんのお母さんは都会から嫁いで来た人物で、慣れない田舎暮らしの中、肝心のライフラインである生活水が井戸水ということでさぞや苦労していたことだろう...
流し台の左横にふと視線を移すと、そこには背の高い木製の食器棚が置かれていた。
食器棚の扉のガラスは恐らく外からの風の所為で割れていて、残っている食器はこれでもかというくらいに埃まみれとなり汚れている。
幾つかの食器は倒れて割れたりヒビが入っていたが、30年前まではきちんと整理されていた形跡が見て取れた。
「ねぇねぇ一輪」
「ぬぅっ!?なんだ未桜?...っと、その前に言っておかなければならないことがある。廃墟探索中は不意打ちで声をかけるのはやめてくれ。僕は断じてビビリでは無いが心臓に悪すぎる」
僕が食器棚を集中して眺めていたところへ未桜は足音を殺して近づき、背後から、しかも僕の耳に息が届くほどの至近距離で呼びかけたのである。
彼女の可笑しそうな表情からして悪意があったとしか思えない。
「了解了解。でもそろそろ裏庭に出たほうが良いかもだよ。もう雨がポツポツと降り出してるし」
そう言われて割れた窓ガラスから外へ目をやると、まだパラパラとではあったけれど確かに小雨が降り始めていた...
淀鴛さんの話しを聞いていなければ、僕は大いに違和感と疑問を抱いたことであろう。
廃墟に蛇口が無いのは水道が通っていないのが理由であり、普段の生活水は古くから存在する外の井戸から汲み取って使用していたのである。
確か淀鴛さんのお母さんは都会から嫁いで来た人物で、慣れない田舎暮らしの中、肝心のライフラインである生活水が井戸水ということでさぞや苦労していたことだろう...
流し台の左横にふと視線を移すと、そこには背の高い木製の食器棚が置かれていた。
食器棚の扉のガラスは恐らく外からの風の所為で割れていて、残っている食器はこれでもかというくらいに埃まみれとなり汚れている。
幾つかの食器は倒れて割れたりヒビが入っていたが、30年前まではきちんと整理されていた形跡が見て取れた。
「ねぇねぇ一輪」
「ぬぅっ!?なんだ未桜?...っと、その前に言っておかなければならないことがある。廃墟探索中は不意打ちで声をかけるのはやめてくれ。僕は断じてビビリでは無いが心臓に悪すぎる」
僕が食器棚を集中して眺めていたところへ未桜は足音を殺して近づき、背後から、しかも僕の耳に息が届くほどの至近距離で呼びかけたのである。
彼女の可笑しそうな表情からして悪意があったとしか思えない。
「了解了解。でもそろそろ裏庭に出たほうが良いかもだよ。もう雨がポツポツと降り出してるし」
そう言われて割れた窓ガラスから外へ目をやると、まだパラパラとではあったけれど確かに小雨が降り始めていた...
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
就職面接の感ドコロ!?
フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。
学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。
その業務ストレスのせいだろうか。
ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。
校長先生の話が長い、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。
学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。
とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。
寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ?
なぜ女子だけが前列に集められるのか?
そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。
新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。
あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。
パラダイス・ロスト
真波馨
ミステリー
架空都市K県でスーツケースに詰められた男の遺体が発見される。殺された男は、県警公安課のエスだった――K県警公安第三課に所属する公安警察官・新宮時也を主人公とした警察小説の第一作目。
※旧作『パラダイス・ロスト』を加筆修正した作品です。大幅な内容の変更はなく、一部設定が変更されています。旧作版は〈小説家になろう〉〈カクヨム〉にのみ掲載しています。
ヨハネの傲慢(上) 神の処刑
真波馨
ミステリー
K県立浜市で市議会議員の連続失踪事件が発生し、県警察本部は市議会から極秘依頼を受けて議員たちの護衛を任される。公安課に所属する新宮時也もその一端を担うことになった。謎めいた失踪が、やがて汚職事件や殺人へ発展するとは知る由もなく——。
グレイマンションの謎
葉羽
ミステリー
東京の郊外にひっそりと佇む古びた洋館「グレイマンション」。その家には、何代にもわたる名家の歴史と共に、数々の怪奇現象が語り継がれてきた。主人公の神藤葉羽(しんどう はね)は、推理小説を愛する高校生。彼は、ある夏の日、幼馴染の望月彩由美(もちづき あゆみ)と共に、その洋館を訪れることになる。
二人は、グレイマンションにまつわる伝説や噂を確かめるために、館内を探索する。しかし、次第に彼らは奇妙な現象や不気味な出来事に巻き込まれていく。失踪した家族の影がちらつく中、葉羽は自らの推理力を駆使して真相に迫る。果たして、彼らはこの洋館の秘密を解き明かすことができるのか?
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる