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第57話 醍醐味

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「その年季の入ってる年寄りの古時計、流石に動いてはいないようだな」

 幼かった頃の淀鴛さんに時間を知らせていた振り子式の掛時計。錆びれて歪んだのか裏の留め金が緩み斜めに傾いており、振り子は力学的エネルギーを完全に失い、死んだように静止していた。

 人間に命の期限があるのと同じで、一見永遠と思われる機械や道具にも命の期限はある。
 ただ機械や道具が人間と圧倒的に異なるところは、壊れた部分の部品を交換したり修理してやれば機械や道具はその命を吹き返す。それに比べ人間という生き物は様々な事象により一旦命を失えば、儚いが二度と再生することが出来ない。

 人間は謂わば機械や道具にとって神のような立場でもあるのだが、自分らの生命を自在に扱うことの出来ない不憫な神でもあるのだ。

 初めて目にした古時計に興味が湧いた未桜が、古時計を真っ直ぐにしようと背伸びしているあいだに僕は台所へと移動する。

 台所にある流し台のシンクには塵や錆びが散乱しており、人が使用しなくなって放置されるとここまで酷くなるのかという有り様だった。

 でも僕は想う。

 普段の生活で使用する台所がこんな有り様なら残念なことこの上ないのだけれど、こと廃墟探索をする上での光景ならば、心が感傷に浸るという表現が適切かどうかは別として、「これぞ廃墟探索の醍醐味」と言っても過言ではないと想えてしまうのだ...
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