上 下
16 / 168

第16話 ホラー映画

しおりを挟む
 僕が出口の戸に手をかけ店内から出ようとすると。

「ありがとうございました!またのご来店を~!」

 意気が良く心地良い店主の声が背に掛けられたのだった。
 
 空腹が激ウマのラーメンで満たされた僕達は、ラーメン屋を出ていよいよ目的の廃墟を目指して歩き始めた。

 僕の探偵事務所が所在する町はそれなりに都会といえる環境にあり、建物の数も人口もほどほどに多いと云って良いだろう。

 普通に暮らしていれば町の空気の質など気にならないし何の支障も感じない。

 しかし、この井伊影村の長閑でノスタルジックな風景を眺めながら、廃墟までの道をテクテク歩いていると、呼吸するたびに空気が澄んでいることを嫌でも実感させられてしまう。

 春という季節と青空広がる上々な天気から、なお一層のこと「空気が美味しい」と感じたものである。

 さほど広くはない村の中心部を抜けようとしたところで、未桜が何かを見つけ歩く足を止めて立ち止まった。

「一輪!アレってもしかして駄菓子屋じゃないかなぁ?」

 彼女の目線の先を追うとまた木造の古い建物が在り、「駄菓子屋」の看板こそ無かったものの、出入り口の戸が開けっぴろげで店内に並べらた駄菓子が垣間見える。

「どうやらそうらしいなぁ。帰りにでも...」

 と横を見るとそこに未桜の姿は無く、既に駄菓子屋へ向かい走っていた。
 
 やれやれ、本能のままに動いてやがる。

 仕方が無いというか僕も興味をそそられ駄菓子屋に入ることと相成った。

 店内はさほど広くなく六畳くらいのスペースで、木製の棚に敷き詰められた駄菓子の中には僕の知る駄菓子も幾つかあるにはあったけれど、恐らくはほとんど40代から50代の方が懐かしさで胸をときめかせるような物ばかりであった。

「一輪!アイスがあるよ!アイス食べようよぉ♪」

 未桜が壁際に置かれた業務用のアイス冷蔵庫の前に立ち、駄菓子を眺めていた僕を手招きして呼び寄せる。

「アイスか...うむ、悪くないな」

 春のポカポカ陽気の中を陽気に歩き、ちょうど冷たい物を口にしたいと思っていた僕は未桜の意見に同調した。

 未桜がかの有名な「ガリガリ君」を手に取ったのを見て。

「僕もそれでいい。ついでに取ってくれ」
 
 選ぶのを面倒くさがった僕は、安定して間違いの無い「ガリガリくん」を選択したのである。

 支払いをしようと店の奥まで行くと、明らかに年代物だと見受けられるレジの後ろに、二十代くらいの女性が丸椅子に座り待機していた。

 僕は彼女を目にした瞬間息を呑んだ。と同時に心臓の鼓動が一気にテンポを上げる。

 椅子に座った女性の姿は、真っ黒で真っ直ぐなロングヘアで前髪も極端に長く、痩せ細った身体にうつむき加減なその姿勢が......アレなのだ、日本が世界に誇るホラー映画のキャラを強烈に思い出させた。

 たぶん彼女が普段から着用しているであろう白い割烹着を除けば、井戸から出て来るシーンのインパクトが強すぎて、忘れたくても忘れられないあの「貞子」そのものに見えたからである。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました

フルーツパフェ
大衆娯楽
 とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。  曰く、全校生徒はパンツを履くこと。  生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?  史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。

双極の鏡

葉羽
ミステリー
神藤葉羽は、高校2年生にして天才的な頭脳を持つ少年。彼は推理小説を読み漁る日々を送っていたが、ある日、幼馴染の望月彩由美からの突然の依頼を受ける。彼女の友人が密室で発見された死体となり、周囲は不可解な状況に包まれていた。葉羽は、彼女の優しさに惹かれつつも、事件の真相を解明することに心血を注ぐ。 事件の背後には、視覚的な錯覚を利用した巧妙なトリックが隠されており、密室の真実を解き明かすために葉羽は思考を巡らせる。彼と彩由美の絆が深まる中、恐怖と謎が交錯する不気味な空間で、彼は人間の心の闇にも触れることになる。果たして、葉羽は真実を見抜くことができるのか。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

月影館の呪い

葉羽
ミステリー
高校2年生の神藤葉羽(しんどう はね)は、名門の一軒家に住み、学業成績は常にトップ。推理小説を愛し、暇さえあれば本を読みふける彼の日常は、ある日、幼馴染の望月彩由美(もちづき あゆみ)からの一通の招待状によって一変する。彩由美の親戚が管理する「月影館」で、家族にまつわる不気味な事件が起きたというのだ。 彼女の無邪気な笑顔に背中を押され、葉羽は月影館へと足を運ぶ。しかし、館に到着すると、彼を待ち受けていたのは、過去の悲劇と不気味な現象、そして不可解な暗号の数々だった。兄弟が失踪した事件、村に伝わる「月影の呪い」、さらには日記に隠された暗号が、葉羽と彩由美を恐怖の渦へと引きずり込む。 果たして、葉羽はこの謎を解き明かし、彩由美を守ることができるのか? 二人の絆と、月影館の真実が交錯する中、彼らは恐ろしい結末に直面する。

密室島の輪舞曲

葉羽
ミステリー
夏休み、天才高校生の神藤葉羽は幼なじみの望月彩由美とともに、離島にある古い洋館「月影館」を訪れる。その洋館で連続して起きる不可解な密室殺人事件。被害者たちは、内側から完全に施錠された部屋で首吊り死体として発見される。しかし、葉羽は死体の状況に違和感を覚えていた。 洋館には、著名な実業家や学者たち12名が宿泊しており、彼らは謎めいた「月影会」というグループに所属していた。彼らの間で次々と起こる密室殺人。不可解な現象と怪奇的な出来事が重なり、洋館は恐怖の渦に包まれていく。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

処理中です...