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第13話 昭和なラーメン屋

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 今更云うのもなんだけれど、今夜僕達の泊まる民宿むらやどは、村の中心部を横断する安楽川(やすらがわ)沿いに建っている。

 僕が未桜へ知らせるため指差したラーメン屋は、民宿むらやどを左手に見て、村で唯一アスファルト舗装されている道路を真っ直ぐに一分ほど歩いた場所に在った。

 入り口前まで歩き着き店の戸の上部へ目を向けると、どストレートに「ラーメン屋」と書かれた古く錆びれた看板が掛けられている。

 店名に捻りはないが歴史と渋さを醸し出していた。

 曇りガラスの張られた引き戸を開けると、民宿の玄関と同じように「ガラガラ」とした音が響く。

 店内は古臭さがあるのは否めないけれど、都会でもまだ見かける個人経営のラーメン屋とほとんど変わりない印象で、厨房に沿ったカウンター席に四、五人が座れるような席があり、他に二人用の席が二組み並んでいる。

 昭和の香り漂う空間という表現が最も適切かも知れない。

「らっしゃい!お好きな席に座ってください」

 店内に足を踏み入れるや否や、厨房に立つ如何にも大将風な店主が元気な声で迎えてくれた。

 都会のレストランなどで可愛い女性店員が迎えてくれるのも良いけれど、たまには気合いを感じるような男の張りのある声で迎えられるのも乙なものだ。

 僕は未桜に目配せして二人用の席を迷わず選択し、顔を突き合わせられる年季の入った木製の椅子に腰掛けた。

 日本人の三代欲求の一つである「食欲」に誘われ、僕と未桜は壁に掲げられた手書きのお品書きに早々と目を通す。

「ど、れ、に、し、よ、お、か、な、か、み、さ、ま、の、い、う、と、お、り、えっ!?」

 未桜が突如として始めた神頼みで選択されたのは、ラーメン屋では余りお目にかかったことのない「豆苗ラーメン」であった。

「と、豆苗ラーメンかぁ...う~ん、よし、決めた!私は『チャーシューメン』で」

 初めからそうしろよ。

 たったこれだけのために呼び出された神様の時間を返してやれ。

 とも思ったものだが、腹の減った状態でヒョロ長い豆苗を目の前に出されてもなぁ...

 しかしそう考えると、豆苗ラーメンなるものがメニューに存在すること事態が不思議なのだけれど、よほど豆苗好きな地元民からリクエストでもあったのだろうか...
 いや、ひょっとしたら予想に反してめちゃくちゃ美味しいのではないだろうか...ここは一つ注文してみるのも一興かも知れない!

「よし...じゃあ僕もチャーシューメンで。ついでにライスと餃子も頼んでおくか」

 寸前で本能的チャレンジャー精神が身を引っ込めたのであろう。

 僕の口をついた言葉の中に「豆苗」という単語は微塵も混ざっていなかったのである。

 だって冒険以外の何ものでもないじゃないか!


 僕は厨房で料理の下拵えをする店主に注文し、スマホを上着のポケットから取り出し時間を確認する。

 スマホの画面には11:32と表示されていた。

 廃墟探索にどれほど時間がかかるかは分からないけれど、ここまでは立てていたスケジュール通りと云って良い。
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