プロメテウスの神託

流川おるたな

文字の大きさ
上 下
12 / 36
序章

12話目 爆音

しおりを挟む
 男が振り返り環奈と目がかち合うも、何も言わずそのまま下へ飛び降り姿を消した。

 環奈は何もできなかった自分への苛立ちを抑え、倒れて動かない雇い主の元へ駆け寄り安否を確かめる。

「くっ...」

 悲惨な外観からしても雇い主の死は明らかだったが呼吸と脈まで確認した環奈はガックリと肩を落とした。
 と突然、左耳に付けているイヤホンからプロメテウスの声が聴こえる。

「環奈様、落胆している暇はございません。要様の身体を1分以内に地下シェルターへ運んでください」

 昨今、金持ちの屋敷には地下シェルターが増設されるケースが増えている。この古い桐生家の屋敷にも要の考えで数年前にかなりの金をかけて地下シェルターを増設していた。
 だが、環奈と黒川に暮井冬春を含めた三人はその存在こそ知っていたが、「どうしようもない緊急時だけ使用を許可する」と主人の桐生要に言われていたため、未だかつてシェルターに入ったことは一度もなかった。
 プロメテウスの言葉に「ハッ」とした環奈が雇い主の身体を抱えようとすると。

「環奈さん、私に任せてください」

 不意に現れたのは手榴弾の爆発からギリギリのところで難を逃れた黒川だった。
 侵入者達が急に撤退し居なくなったのを見計らい、階段が破壊されていたため自力で二階へと這い上がったのである。

 両腕で桐生要を抱える神妙な面持ちの黒川に涙の溢れそうな環奈が告げる。

「宗ちゃん、要様が死んじゃった」

「そのようですね。ですが今は悲しんでいる場合ではありません。とにかく地下シェルターへ急ぎましょう」

 黒川はそう言うと動かなくなった主人の身体を大事そうに抱えまま、とても70歳を超える人間とは思えぬ動作で無くなった階段の端から一階へ飛び降り、そのまま室内倉庫にある地下シェルター入口を目指して廊下を駆け出した。
 室内倉庫に隠された地下シェルターへの入口には書物がどっさりと置かれている。
 環奈は黒川が直ぐに入口へ入れるようにするため、持ち前の俊足で黒川を抜き去り、どっさりと積み重なった分厚い書物を荒々しくブンブンと放り投げた。
 室内倉庫に到着した黒川に環奈急きたてる。

「宗ちゃん早く早く!」

「これはありがたい!」

 黒川が地下シェルターへと続く階段に足を一歩踏み入れた瞬間!

「ドンッ!ドドドンッ!」

 凄まじい爆音が二人の耳に響いた!
 これは20人ほどいた侵入者達のうち、半数が別行動で屋敷の壁中に幾つものC4爆弾を仕掛け、安全圏まで撤退した侵入者が起爆スイッチを押して作動したための爆音であった。
 爆音は数秒に渡って鳴り響き、伝統ある桐生家の屋敷は桐生要を殺した男が言った通りの姿となってしまったものである。

 またもや危機一髪で命の危険を回避できた環奈と黒川の二人は、地下シェルターへ辿り着き疲弊と安堵が入り混じった表情を浮かべたのだった...
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

プロミネンス~~獣人だらけの世界にいるけどやっぱり炎が最強です~~

笹原うずら
ファンタジー
獣人ばかりの世界の主人公は、炎を使う人間の姿をした少年だった。 鳥人族の国、スカイルの孤児の施設で育てられた主人公、サン。彼は陽天流という剣術の師範であるハヤブサの獣人ファルに預けられ、剣術の修行に明け暮れていた。しかしある日、ライバルであるツバメの獣人スアロと手合わせをした際、獣の力を持たないサンは、敗北してしまう。 自信の才能のなさに落ち込みながらも、様々な人の励ましを経て、立ち直るサン。しかしそんなサンが施設に戻ったとき、獣人の獣の部位を売買するパーツ商人に、サンは施設の仲間を奪われてしまう。さらに、サンの事を待ち構えていたパーツ商人の一人、ハイエナのイエナに死にかけの重傷を負わされる。 傷だらけの身体を抱えながらも、みんなを守るために立ち上がり、母の形見のペンダントを握り締めるサン。するとその時、死んだはずの母がサンの前に現れ、彼の炎の力を呼び覚ますのだった。 炎の力で獣人だらけの世界を切り開く、痛快大長編異世界ファンタジーが、今ここに開幕する!!!

僕達の世界線は永遠に変わらない 第一部

流川おるたな
ファンタジー
 普通の高校生だった僕はあることが理由で一ヶ月のあいだ眠りにつく。  時間が経過して目を覚ました僕が見た世界は無残な姿に変わり果てていた。  その要因は地球の衛星である月にあったのだが...  

禍羽根の王 〜序列0位の超級魔法士は、優雅なる潜入調査の日々を楽しむ〜

しののめ すぴこ
ファンタジー
——この世界の秩序と安寧は、魔法士が支えている—— 序列0位の最強魔法士として、皇帝陛下直属の近衛師団で暗躍する、主人公の累。 彼は特異な命のサイクルの中に生きていた。穢れや、魔を、喰らうことが出来るのだ。 そんな累は従者を連れて、放蕩するかの如く、気ままに穢れを殲滅する日々を送っていたが、ある日、魔法学校・紺碧校に潜入調査へ向かい……。 近衛師団の超級魔法士が、身分を隠して魔法学校に潜入調査。 体術はてんでダメで、ちょっぴり世間知らずの主人公が、本意じゃ無いのに周りに崇拝されたりしながら、任務を遂行するお話です。 小説になろう様でも投稿中(https://ncode.syosetu.com/n3231fh/)

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

落ちこぼれの烙印を押された少年、唯一無二のスキルを開花させ世界に裁きの鉄槌を!

酒井 曳野
ファンタジー
この世界ニードにはスキルと呼ばれる物がある。 スキルは、生まれた時に全員が神から授けられ 個人差はあるが5〜8歳で開花する。 そのスキルによって今後の人生が決まる。 しかし、極めて稀にスキルが開花しない者がいる。 世界はその者たちを、ドロップアウト(落ちこぼれ)と呼んで差別し、見下した。 カイアスもスキルは開花しなかった。 しかし、それは気付いていないだけだった。 遅咲きで開花したスキルは唯一無二の特異であり最強のもの!! それを使い、自分を蔑んだ世界に裁きを降す!

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

処理中です...